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「110番通報すべきか迷う」状況に遭遇したら…元警視庁刑事が「ためらわずに通報してほしい」シチュエーション11選

「これって、110番通報してもいいの?」。そう迷ったことはありませんか。「ためらわずに通報してほしい」と話す、元警視庁刑事の経験を持つ筆者が紹介する「正しい通報ガイド」です。

「通報するべきかどうか」迷ったときは… ※画像はイメージ
「通報するべきかどうか」迷ったときは… ※画像はイメージ

 夜中に、隣からドンッという物音が聞こえたら、あなたはどうしますか? 「これって110番していいの?」「間違えたら恥ずかしいし……」「大げさかな」。そんなためらいの一瞬が、事件や事故を大きくしてしまうことがあります。逆に、1本の通報が、誰かの命を守るかもしれません。今回は、通報を迷う心理と、その一歩を踏み出すためのヒントを、元警視庁刑事の経験を持つ筆者が解説します。

「110番」通報、実は過去最多に

 警察庁によると、2024年1月から11月までに全国で寄せられた110番通報は、前年より33万件以上増えた963万8998件に達し、この10年で最多となりました。ただし、そのうち約2割は「緊急性が低い」と判断され、スマホやスマートウォッチの誤作動による誤通報も少なくありません。

 しかし、「間違えたら迷惑かも」とためらうことが、犯罪や事故の早期解決を遅らせてしまう――。ここに大きな問題があるのです。犯罪の予防、早期解決、被害者の保護など、本当に警察の助けを必要としている人への対応が遅れるなどの事態は避けなければなりません。

 大切なのは、「誤報を避ける」と「通報をためらわない」のバランスを取ること。通報が「しづらい」と感じられる心理的要因を整理し、現場での判断法と、もう一つの警察相談窓口「#9110」の活用を分かりやすくお伝えします。

なぜ人は「110番」通報をためらうのか

 多くの人が抱える「通報しづらさ」。その正体である、心理的なハードルの代表的な5つを見てみましょう。

【通報をためらわせる心理的ハードル(1)バイスタンダー効果(誰かがやるだろう)】

周囲に人がいると、「きっと誰かがもう通報している」と思い込みがちです。実際に、複数の人がいる場面でも誰も通報しなかった有名な事例として、1964年にアメリカ・ニューヨーク州クイーンズ区で起きた「キティ・ジェノヴィーズ事件」があります。被害者が暴漢に襲われた際、付近の住民38人が悲鳴や叫び声に気付いていながら、誰一人として警察に通報せず、夢と希望に満ちていた若き女性の人生は踏みにじられてしまったのです。

【通報をためらわせる心理的ハードル(2)迷惑回避バイアス(警察や近所に迷惑かも)】

「夜中にパトカーが来たら近所迷惑かも」と考えてしまう心理です。警察の出動は安全を確認するためのもの。結果が「異常なし」であっても、それは地域の安心につながります。

「何かありましたら、またいつでも110番してください」。私が現役時代に、必ず通報者に伝えていた言葉です。

【通報をためらわせる心理的ハードル(3)拒否恐怖(間違えを恐れる)】

「勘違いだったら笑われるのでは」と思う人も多いでしょう。でも、意図的ではない誤通報は責められるものではありません。「間違いでよかった」と考えるくらいがちょうどいいのです。

【通報をためらわせる心理的ハードル(4)自己効力感の低さ(自分の判断に自信がない)】

「これは事件なのか? 自分には判断できない」と迷ってしまうケースです。大丈夫、判断は警察の仕事です。違和感を覚えたら、その直感を大切に。

【通報をためらわせる心理的ハードル(5)世間体・和の精神(目立ちたくない)】

「大ごとにしたくない」「他人のトラブルに首を突っ込みたくない」。日本人特有の美徳や価値観も壁になります。しかし、和を大切にする心と、人命を守る勇気は両立できるのです。大切なのは、誰かの命を救う行動をためらわない勇気です。

 通報の判断に迷ったら、次の3つの視点でチェックしてみてください。

時間的視点:トラブルが「今」進行中かどうか
場所的視点:トラブルの関係者が、その現場に残っているかどうか
行動的視点:トラブルの関係者が、逃走しようとしている(した)かどうか

 もしも、次のような状況に遭遇したときは、ためらわず通報してください。

【通報すべき事例】

・指名手配の犯人に似ている人物がいる
・誰かの言い争いが続いていて、収まりがつかないようだ(暴行傷害に発展の恐れ)
・しばらく子どもの泣く声が聞こえる。親の怒鳴り声も聞こえる(児童虐待の恐れ)
・向かいのアパートのベランダに小さな子どもがいる(ネグレクトの恐れ)
・人が乗った車が、エンジンをかけたままずっと停車している(ストーカー、侵入盗、強盗の下見の恐れ)
・さっきから同じ人が通りを行ったり来たりしている(不審行動の可能性)
・マンションの住民ではない人が敷地内に入り込んでいる(侵入盗、強盗の恐れ)
・元交際相手が突然訪ねて来て、呼び鈴を押している(ストーカーの恐れ)
・家族が帰宅しない。連絡が取れない(事件事故、認知症の人のうろつき)
・お客さんが寝込んでしまって帰らない(タクシー運転手や、お店を経営している人)
・公園に若者がたむろして、たばこを吸っている(地域治安悪化の兆し)
など

【画像】「えっ怖すぎる……」→これが「もし遭遇したら、ためらわず110番通報すべき状況」11選です(元刑事監修)

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小比類巻文隆(こひるいまき・ふみたか)

元警視庁警部補/治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト

30年にわたって警察官として勤務し、危機管理の第一線を歩んできたスペシャリスト。1993年に警視庁へ入庁後、爆弾処理班を経て中国語通訳捜査官、さらに国際捜査官として、銃器・薬物犯罪を中心に情報収集や秘匿捜査、海外組織による密輸入事案の解明に従事。殺人・強盗・誘拐など重大事件の捜査本部にも多数参加。2023年に退官後は、警察での実践経験を社会に還元すべく、講演や執筆、メディア対応など幅広く活動中。現場のリアルを伝える、数少ない治安専門家のひとり。note「沈黙のリアル」(https://note.com/coffy_agent

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