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詐欺師が使う「敬語」に要注意! 信用させる3つのトリック…元警視庁刑事が語る《丁寧な詐欺》の見抜き方

増加傾向にある詐欺事件。元警視庁警部補の筆者は、詐欺師たちが使う「敬語」に危険性が潜んでいると指摘します。「丁寧な詐欺」のトラップを見抜くために知っておくべき「3ステップ」とは――。

詐欺師が行う「丁寧な詐欺」とは… ※画像はイメージ
詐欺師が行う「丁寧な詐欺」とは… ※画像はイメージ

 連日報道される詐欺事件。しかし、その数は一向に減少する気配がありません。警察庁の最新統計(「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」)によると、全国の「特殊詐欺」認知件数は約1万9000件以上に上り、被害額は約452億6000万円。前年よりも件数・被害額ともに増加傾向にある深刻な状況です。

 詐欺師たちは、いわば“知能犯”。法の網をかいくぐり、社会の隙間を突くように、巧妙な手口で私たちの警戒心をくぐり抜けてきます。中でも最近目立つのが、人の心理を利用し、あたかも信頼できる存在のように装う“丁寧な詐欺”です。

 今回は、警視庁にて捜査官として数々の現場を経験した筆者が、リアルな詐欺の実態と対処法について、「3つのトリック」と「3つのステップ」にまとめてお伝えします。

「逮捕状が出ています」 電話口からの冷静すぎる声

 ある晩、見慣れない国際番号から、あなたのスマートフォンに着信があったとします。

「警視庁捜査二課の◯◯と申します。恐縮ですが、あなたに逮捕状が出ております」

 そう語る声は、驚くほど丁寧で、礼儀正しいものでした。

「ご出頭いただけますか」「ご協力に感謝します」。終始敬語で進む会話の中で、あなたの頭は真っ白に。

「逮捕状」「マネーロンダリング」「共犯者」「守秘義務」など、聞き慣れない単語が矢継ぎ早に放たれ、あなたは気付けば「私の口座残高は約500万円です」「仕事先は◯◯商事です」などと、暗示にかかったかのように、自分の個人情報や銀行口座情報を答えてしまっていた――。

 その間、相手は終始敬語を繰り返し、一度あおったあなたの恐怖に、まるで問題解決のパートナーであるかのように接し、錯覚したあなたの信頼を勝ち取ります。これは、実際に私が捜査の中で遭遇した「偽警察官詐欺」の典型的な手口の一例です。

 次に紹介するのは、詐欺師たちがよく使う「心理的トラップ」3選です。

【トラップ(1)難解な専門用語で思考を遮断】

「逮捕状」「裁判所命令」「捜査二課」など、一見“本物”のような言葉を連発することで、聞き手の思考停止を狙います。これは、医療詐欺や税務詐欺など、あらゆるジャンルで共通して見られる技法です。

【トラップ(2)敬語の罠で“信頼できる人”に錯覚させる】

「お手数ですが…」「ご理解いただけますよう…」といった、一見すると礼儀正しく感じる表現。もちろん、それ自体は悪いものではありませんが、「礼儀正しさ=信用できる人」と錯覚させるために使われると、極めて悪質です。

【トラップ(3)「権威のバトン」であなたを追い詰める】

まずは「警察官」を名乗る人物、次に「検察官」「弁護士」など、肩書を“上塗り”しながら不安をあおる流れが典型的。立場が上がるごとに人は信じやすくなり、次第に「言われるがまま」になってしまうのです。

詐欺師のうそを見抜くには?

 では、詐欺師のうそを見抜くにはどうすればよいのか。心のセーフティーを守る3ステップをお伝えします。

【ステップ(1)「あれ?」と思ったら、それは“合図”です】

普段聞き慣れない「違和感ワード」は要注意。例えば、「御出頭願います」「保釈金が必要です」など、やたら丁寧で形式ばった言い回しは、逆に“うそのサイン”かもしれません。

【ステップ(2)「困った!」ときに、誰に電話しますか?】

パニック状態は、詐欺師にとって好都合。だからこそ、落ち着いて相談できる人を日頃から決めておきましょう。家族や友人、職場の人、地域の交番もOK。「自分が焦ったときに頼れる先」を事前に意識しておくことが、防御力になります。

【ステップ(3)「警察が電話で逮捕状」―それ、あり得ません!】

詐欺の電話で「あなたに逮捕状が出ています」なんて言われたら、絶対に疑ってください。警察が本当に逮捕するなら、電話なんかしません。なぜなら、犯人に逃げられるからです。つまり、あなたがそんな電話を受けている時点で、すでに“詐欺のシナリオ”に巻き込まれている可能性が高いのです。

【画像】「えっ……!」 これが、詐欺師たちがよく使う「心理的トラップ」です(3つ)

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小比類巻文隆(こひるいまき・ふみたか)

元警視庁警部補/治安戦略アナリスト・危機管理スペシャリスト

30年にわたって警察官として勤務し、危機管理の第一線を歩んできたスペシャリスト。1993年に警視庁へ入庁後、爆弾処理班を経て中国語通訳捜査官、さらに国際捜査官として、銃器・薬物犯罪を中心に情報収集や秘匿捜査、海外組織による密輸入事案の解明に従事。殺人・強盗・誘拐など重大事件の捜査本部にも多数参加。2023年に退官後は、警察での実践経験を社会に還元すべく、講演や執筆、メディア対応など幅広く活動中。現場のリアルを伝える、数少ない治安専門家のひとり。note「沈黙のリアル」(https://note.com/coffy_agent

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