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「休肝日」は必要? 週に何回設ければいいの? “疑問”を医師に聞く

お酒を飲まない「休肝日」を設けることで、体への負担を和らげることはできるのでしょうか。医師に聞きました。

休肝日を設ける意味はある?
休肝日を設ける意味はある?

 お酒が好きな人の中には健康を意識し、お酒を飲まない「休肝日」を設けている人がいます。厚生労働省によると、休肝日は週に1日以上飲酒しない日を設けることを推奨する目的で作られた造語だということです。実際に医療機関や自治体などが休肝日を設けるのを推奨していますが、ネット上には「休肝日は意味がない」という内容の情報もあります。

 そもそも、休肝日を設けることで体への負担を本当に和らげることができるのでしょうか。広島ステーションクリニック(広島市東区)理事長で医師の石田清隆さんに聞きました。

休肝日を設けるのが望ましい

Q.そもそも、飲酒習慣がある人がかかりやすい病気について、教えてください。例えば、肝臓系の疾患にかかるケースが多いのでしょうか。

石田さん「飲酒は、肝臓に大きな負担をかけます。アルコールは毒性があるため、主に肝臓で解毒されますが、その際、生成される中間代謝産物の『アセトアルデヒド』は、産生する活性酸素種などによって肝臓の細胞を傷つけ、肝臓に炎症を起こします。

また、アルコールを摂取すると、肝臓における中性脂肪の合成が増え、脂肪酸の燃焼が抑えられることで肝臓に脂肪がたまりやすくなります。そのため、過度の飲酒が続くとアルコール性肝炎やアルコール性脂肪肝を引き起こし、この状態が慢性的に続くと、肝線維症や肝硬変、さらには肝臓がんに発展する人もいます。

アルコールの摂取は、がんのリスクを上げることも知られています。世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)の報告書でも、飲酒は口腔がんや咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんの7つのリスクを上昇させることが示されました。わが国におけるがんリスクの疫学的な解析では、男性のがんの9%、女性のがんの3%が飲酒に起因すると推定されています。

重要なことは、飲酒は生活習慣病との関連が深いことです。アルコールの多量摂取は、血圧や血糖値、尿酸の上昇のほか、中性脂肪やコレステロールなどの脂質の異常にも大きく関与しています。それに伴い、高血圧や糖尿病、脂質異常症のほか、心臓や脳の動脈硬化性疾患、肥満などにつながる可能性があります。

ぜひ覚えてほしいことですが、お酒を飲むとナイアシンやビタミンB、亜鉛、マグネシウムなど、さまざまな栄養素が不足しやすくなり、睡眠障害や末梢(まっしょう)神経障害、認知機能低下、うつ病などにも大きく関与します。

寝つきが悪いからといって、飲酒を常習化すると、睡眠に関与する神経伝達物質であるメラトニンの合成に必要なナイアシン、ビタミンB6、葉酸、マグネシウムなどの栄養素が不足し、睡眠が浅くなるほか、飲酒に伴う低血糖が原因で、睡眠の途中で目が覚めて眠れなくなったり、悪夢を見たりすることがしばしば認められます。

そのほか、アルコールの摂取はすい炎や胃腸の粘膜障害のほか、胃、食道、腸のぜん動障害にも関与します。

強調したいのは、アルコールによる死因で、世界で一番多いのは外傷です。飲み過ぎたせいで認知機能や身体運動機能が低下し、転倒・転落や交通事故といった事故が起こります。飲酒が原因による外傷の対策は、現在、とても注目されています」

Q.体への負担を和らげる上で、休肝日は本当に必要なのでしょうか。それとも、休肝日を設けてもあまり効果がないのでしょうか。

石田さん「結論から言うと、基本的に休肝日は設ける方が良いと思います。先述のように、飲酒は肝臓に負担をかけます。1週間の中でアルコールを摂取しない日を設けることは、肝臓を休め、トータルのアルコール摂取量を抑え、肝臓の負担が減ります。

デンマークで18年間にわたって行われた観察研究のデータによると、アルコール飲料をほぼ毎日飲む人と週に2~4回飲む人とで比較した場合、ほぼ毎日飲む人のアルコール性肝臓病の発症率は、週に2~4回飲む人の3.7倍に上昇したと報告されています。そのため、週3~5日の休肝日を設けることで、肝臓病になるリスクが軽減すると考えられます。

また、国立がん研究センターの『がん対策研究所 予防関連プロジェクト』(以下、予防関連プロジェクト)が公表している、男性を対象とした調査結果によると、『週1~2日飲酒』『週3~4日飲酒』の群に比べ、『週に5~7日飲酒』の群の方が死亡率が高いという結果が出ました。つまり、休肝日の設定は、肝臓病の予防や総死亡率の低下に有用と言えます。

休肝日を設けることは、アルコール依存症を防ぐことにつながります。毎日、お酒を飲んでいると、飲まずにはいられなくなり、アルコール依存症になってしまう危険性があります。そのため、休肝日を決めることは、『自分の意思で、今日は飲酒をしない』という気持ちを自己確認する上で重要です」

Q.ちなみに、適度な量であれば、毎日飲酒してもよいのでしょうか。

石田さん「この『適度な量』が問題となります。厚労省が展開する『健康日本21』で推奨されている理想の飲酒量ですが、純アルコール量で男性1日20グラム(日本酒1合)、女性1日10グラム(日本酒0.5合)までで、生活習慣病の予防のためには、多くても男性1日40グラム(日本酒2合)未満、女性1日20グラム(日本酒1合)未満となっています。原則、この量を適度な1日の飲酒量と考えます。

ここで、先述の国立がん研究センターの予防関連プロジェクトの調査結果では、1週間当たりのエタノール(アルコールの一種)摂取量が同じである男性の多量飲酒者を比較したデータがあります。

1週間当たり、300~449グラムのエタノール摂取群での総死亡リスクを比較すると、休肝日なし群(週5~7日飲酒)の総死亡リスクは、週1~2日飲酒する群の1.5倍に上昇しました。また、1週間当たり450グラム以上のエタノール摂取群で比較した場合も、休肝日なし群の総死亡リスクは週1~2日飲酒する群の1.8倍に上昇しました。

このことから、適度な量を超えている多量飲酒者においては、1週間のエタノール総摂取量が同じでも、飲酒頻度が高い人の方が死亡率は高く、休肝日が有効と言えます。

一方、1週間当たり150グラム以下の飲酒量が少ない群(つまり適度な飲酒量の群)では、毎日飲む群と休肝日のある群とでは総死亡率に差はありません。そのため、1日20グラム以下の適量を毎日飲む場合は、休肝日は必要ない可能性があります。

ただし、何度も強調しますが、アルコールの分解能力は個人差があり、すべての人に当てはまるわけではないため、ご注意ください」

【画像】「えっ…!」 これが飲酒が原因で発症する「病気」です(11枚)

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石田清隆(いしだ・きよたか)

医師

肝臓学の専門医で、広島ステーションクリニック理事長。長年、基幹病院の一線でウイルス性肝炎、肝細胞がんの診療を行い、ウイルス性肝炎の経口剤治療、肝細胞がんのラジオ波焼灼療法やカテーテル治療の経験が多数ある。現在は、画像診断、栄養解析データをベースに脂肪肝、糖尿病などの生活習慣病に対して徹底的な栄養、運動指導を行い、薬に頼らない治療を目指している。2023年1月にアンチエイジングセンター「Milky Cloud Well-being Center」を開設。著書に「人生を好転させる2‐week鉄活」(幻冬舎)がある。広島ステーションクリニック(https://hs-clinic.jp/)。

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