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発達障害&うつ病で八方塞がり 19歳ひきこもり長男、再起に向けた“第一歩”

障害年金を請求する際の注意点について、専門家が解説します。

ひきこもりの人が将来に備えるには?
ひきこもりの人が将来に備えるには?

 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、10代の頃からひきこもりを続ける人の中には、就労が難しく、収入の見通しが立たないケースがあります。そのような場合、障害基礎年金の受給を検討するよう、勧めています。

 障害基礎年金は、条件を満たせば20歳になったときに請求することができますが、20歳から請求するためには、初めて医療機関を受診した「初診日」が重要になるということです。19歳のひきこもりの子どもがいる母親をモデルに、浜田さんが障害基礎年金を請求する際の注意点について、解説します。

17歳で「発達障害」「うつ病」と診断

 私は、「ひきこもりの状態にある長男(19)について相談したい」と母親(50)から依頼を受け、話を伺いました。母親によると、長男は病院で発達障害の診断を受けたほか、うつ病を発症しているということです。

「今後、長男が働いてお金を稼ぐことは難しいかもしれません。将来のお金の見通しが立たず、とても心配しています」

 母親は、そのような不安を口にしました。そこで私は障害年金の受給を検討するため、長男の状況を伺いました。

 長男は幼少期の頃から落ち着きがなく、両親を困らせていたそうです。小学生の頃から勉強が得意ではなく、宿題に取り組もうとはしませんでした。また、翌日の時間割を確認して持ち物を準備することも苦手だったため、母親が長男を叱咤(しった)激励しながら一緒に宿題をしたり、翌日の準備をしたりしていたそうです。

 そのような長男に対し、父親は「努力が足りない」「怠けている」と何度も叱っていました。

 ある日、小学校の担任から「一度、病院で診てもらってはどうですか」というアドバイスを受けましたが、母親は長男を病院に連れて行きませんでした。「長男に何らかの障害があることを認めたくない」「成長すれば改善するかもしれない」という気持ちが強く、見て見ぬふりをしてきたそうです。

 しかし、長男が中学生になっても状況は変わりませんでした。母親が勉強や生活態度に関わることが難しくなってきたため、長男は宿題の答えを丸写ししたり、授業に必要な物をすべて学校に置きっ放しにしたりするといった状況でした。

 その後、長男は勉強が苦手な生徒が集まる高校に進学しましたが、それでも、勉強についていくことができず、クラスメートからもばかにされるようになってしまったそうです。

 ストレスのためか朝起きて高校に行くことが難しくなり、遅刻をしたり休んだりすることが増えてきました。そのような長男に腹を立てた父親は、長男を何度も叱りつけました。時には父親と長男で怒鳴り合いのけんかをすることもあり、次第に親子関係が悪化していきました。

 そのような状況が続いた結果、長男はとうとう学校に行けなくなり、16歳の頃に中退してしまったそうです。

 高校中退後、長男は次第に無気力になり、自室にひきこもることが多くなったほか、両親と会話もせず、外出もしないような生活を送るようになってしまいました。

 心配した母親は、長男を病院に連れて行きました。検査の結果、長男は発達障害の可能性が高く、二次障害としてうつ病を発症しているという診断を受けました。長男が17歳のときでした。

 診断を受けた後、父親は長男に厳しく接することが少なくなりましたが、それでも長男の状況は一向に改善しませんでした。

 現在19歳になった長男は、自宅近くにある精神科の病院に通っていますが、通院以外は相変わらず自室にこもりっきりの生活を続けています。

 そこまで話した母親は、深いため息をつきました。

月5万の貯蓄で40年後に2400万円

 母親の話を聞き終えた私は、障害基礎年金について説明しました。

「息子さんは17歳の頃に初めて病院を受診したため、障害基礎年金を請求することになります。仮に障害基礎年金の2級に該当した場合、金額は次のようになります」

障害基礎年金 月額6万6250円
障害年金生活者支援給付金 月額5140円
合計 7万1390円
※いずれも2023年度の金額

「親御さまと一緒にいる間、年金の一部を貯蓄していくことを考えてみます。仮に月5万円の貯蓄を40年間続けたとすると、2400万円になります。もちろん、必ずこの金額が貯蓄できるわけではありませんが、数字にしてみることでご家族もイメージしやすくなると思います」

「2400万円くらいの貯蓄があれば、安心できます。今すぐにでも障害基礎年金を請求したいです」

「残念ながらそれはできません。今回のケースでは20歳になったときに請求することになります。障害基礎年金は国民年金の部分から支給されるもので、国民年金に加入する20歳から請求できることになっているからです」

 すると、母親は疑問を口にしました。

「20歳になったときにすぐに請求できるようにするには、どうすればよいのでしょうか」

「障害年金は、原則、初診日から1年6カ月が経過したときに請求できます。仮に初診日が19歳3カ月目だったとすると請求は20歳9カ月目になるため、20歳になってすぐには請求できません。つまり、『初診日が18歳6カ月目よりも前にあれば、20歳のときに請求することができる』ということです」

「10代の頃に受診しているからといって、全員が20歳から請求できるわけではないのですね」

「その通りです。では、次に障害基礎年金の請求に必要な書類も確認していきましょう。今回のケースでは、請求に必要な書類は主に次のようになります」

・初診の病院で「受診状況等証明書」を作成してもらう。
・現在の病院で診断書を作成してもらう。
・出生から現在までの状況を「病歴・就労状況等申立書」にまとめる。
・その他の必要書類をそろえる。

「息子さんが20歳になったときに速やかに請求できるよう、今から準備しておくとよいでしょう」

 私がそこまで話したところ、母親は不安な表情を浮かべました。

「何だか大変そうですね…。果たして私にできるかどうか」

「息子さんの同意が得られれば、私が代わりに書類をそろえていきます。ご安心ください」

「それは助かります。今まで私1人で悩んでいましたが、協力してくれる人がいるのは、とても心強いものですね。おかげさまで心の中が少しだけ軽くなりました」

 母親はほっとした表情でそう言いました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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