選手の“熱中症”相次いだ今年の「甲子園」 “入院・死亡”事故が発生したら? 主催者の法的責任を弁護士に聞く
スポーツの大会の試合で、選手が熱中症とみられる症状に陥り、入院したり、亡くなったりするなどのケースが生じた場合、主催者側が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。
第105回全国高校野球選手権記念大会が、8月23日午後2時に決勝戦を迎えます。今年は厳しい暑さの影響で、初日の2試合では熱中症とみられる症状で足をつる選手が続出したため、SNS上では、「選手が熱中症にならないか心配」「死人が出たらどうする」など、不安のコメントが多く寄せられました。
スポーツの大会で、選手が試合中に熱中症とみられる症状に陥って入院したり、亡くなったりするなどのケースが生じた場合、主催者側が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の弁護士・牧野和夫さんに聞きました。
最悪の場合、業務上過失致死傷罪に問われる可能性も
Q.スポーツ大会の試合中に選手が熱中症とみられる症状に陥って入院したり、死亡したりしてしまった場合、主催者側が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「主催者には、選手が安全に競技できるように、安全管理(配慮)措置が法律で義務付けられています。
そうした安全管理措置義務や安全配慮措置義務を怠ったために、熱中症などによる死傷事故が発生し、選手に損害を与えた場合、主催者は、民法415条の債務不履行(契約違反)による損害賠償責任や民法709条の不法行為による損害賠償責任のほか、非常に悪質な場合には、刑法211条の業務上過失致死傷罪により、刑事責任を負う可能性があります。業務上過失致死傷罪の場合、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、選手の死傷事故が発生した際は、主催者だけでなく、学校側も責任を問われる可能性があります。国公立の高校の場合、学校を設置した自治体や国の責任も問題となり得るでしょう」
Q.暑さ対策として、今年の夏の全国高校野球選手権記念大会から、5回終了後に選手らに10分間の休憩を取らせる「クーリングタイム」が導入されました。こうした対策をしても出場選手らが体調不良に陥ったり、亡くなったりした場合はいかがでしょうか。法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「安全管理措置義務に関する具体的な措置としては、例えば、今年の夏の大会から導入された『クーリングタイム』のほか、『定期的な水分補給を徹底する』『常に選手の体調の変化を管理する』があり、それでも危険な状況の場合は、『特定の選手を欠場させたり、試合を中止したりする』などの措置を取る必要があるでしょう。
主催者がそのような適切な予防措置を取っている場合、先述の民事責任や刑事責任を問われる可能性は非常に低いと言えます」
Q.気温が40度近い環境や雨風が強い状況下など、何らかの事故が想定される中で試合を行った場合、主催者側が法的責任を問われる可能性はありますか。
牧野さん「極端な異常気象の場合には、事故が起きないようにそうした事態に適切に対応した措置を取る義務が発生するでしょう。ただし、急な大雨や酷暑などのような、極端な異常気象を予見することが不可能であり、それに伴い、事前や適時に適切な対応措置を取ることができなかった場合には、先述の民事責任や刑事責任を問われる可能性は低いでしょう」
Q.部活動の大会や練習中に、生徒が体調不良に陥ったり、亡くなったりしてしまった事例、判例について、教えてください。
牧野さん「徳島県内の県立高校で2011年6月、当時2年生の男子生徒が野球部での練習中に熱中症で倒れ、約1カ月後に死亡した事例があります。当時の気温は約30度で、野球部の監督がグラウンドで100メートル走を50本練習させていたということです。
その後、生徒の両親は県に約5500万円の損害賠償を求めて提訴しましたが、高松地裁は『生徒に具体的な熱中症の兆候が表れていたとは認められず、監督に過失はなかった』などとして、両親の訴えを退けました。
一方、高松高裁は、生徒が100メートル走を繰り返してけいれんを起こし、倒れたと認定しました。そして、生徒の状況を熱中症と判断し、監督に練習を続行させた過失があり、応急措置を取るべき注意義務を怠ったとして、徳島県に約4500万円の支払いを命じました。その後、2016年に最高裁で高松高裁の判決が確定しました」
(オトナンサー編集部)
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