「冷却シート」は“熱中症予防”に効果ナシ…注意点を医師が解説 役立つグッズも
額に冷却シートを貼ると、熱中症の予防につながるのでしょうか。冷却シートを使用する際の注意点について、医師に聞きました。

発熱時によく使われるのが「冷却シート」です。額に貼ると、体が程よく冷めるような感覚が生じるため、中には熱中症予防のために活用する人もいるようです。実際に冷却シートで額を冷やすと、熱中症予防につながるのでしょうか。冷却シートを使うメリットや使用時の注意点などについて、あんどう内科クリニック(岐阜市)の安藤大樹院長に聞きました。
額を冷やしても体温は下がらず
Q.額に冷却シートを貼るメリットについて、教えてください。体温を下げる働きがあるのでしょうか。
安藤さん「まず強調しておきたいのですが、原則的に冷却シートに体温を下げる効果はありません。貼り付けたときに『冷たくなった』と感じたことがあるかもしれませんが、これは単に皮膚表面の温度が下がっているだけで、体温自体を下げているわけではありません。
額に貼る前の冷却シートは、冷たくありません。ジェルに含まれている水分が蒸発するときに周囲の熱を吸収する現象、いわゆる『気化熱』が生じることで、貼り付けた部分が一時的に冷えるだけで、熱い地面に打ち水をするのと同じ効果です。
また、体温を下げるためには、首や脇の下、足の付け根など太い血管が走っている場所を冷やさないといけません。額に太い血管はないため、冷やしても体温は下がらないのです。冷却シートに含まれている水分量を考えると、首や脇の下に貼ったとしても、体温を下げるほどの気化熱が発生することはありません。『額に貼るよりも多少まし』な程度です」
Q.では、額に冷却シートを貼っても、熱中症の予防にはならないということでしょうか。
安藤さん「その通りです。先述のように、冷却シートを額に貼っても、体温を下げる効果はありませんし、首や脇の下に貼っても同様です。むしろ、貼っていることで『熱中症対策をしている』と勘違いしてしまい、結果的に対応が後手に回ってしまう危険があります。冷却シートに熱中症予防の効果はなく、あくまで『冷たく感じさせるもの』だと認識しておくべきです」
Q.冷却シートを使うメリットはないのでしょうか。
安藤さん「まったくメリットがないわけではありません。発熱時は酸素の消費量が増え、全身のだるさや息苦しさ、頭痛などの症状が出ます。その結果、自律神経の一つである交感神経を刺激してしまうため、熱の治療で最も大切な睡眠の質を下げてしまいます。額を冷やすことで、ある程度不快感が取り除かれるため、良好な睡眠が期待できるほか、冷却ジェルに含まれるミント成分自体にも、副交感神経を刺激することによるリラックス効果が証明されています。
また、冷却シートが販売されるようになって30年程度たっているため、現代は『熱が出たから額に冷却シート』が習慣になっていると思います。『冷却シートを貼っているから安心』と感じることも、個人的にはとても大切だと思います」
Q.額に冷却シートを貼る際の注意点について、教えてください。1日に何度も貼ってよいのでしょうか。
安藤さん「20年ほど前ですが、発熱した生後4カ月のお子さんが冷却シートを使用した際、親御さんが少し目を離した隙に冷却シートがお子さんの口と鼻をふさいでしまい、脳に重大なダメージが残ってしまったという痛ましい事故がありました。乳幼児や体が不自由な人が使う場合は、口や鼻に貼り付かないように注意するとともに、様子を十分に観察できない場合は貼りっ放しにさせないようにしましょう。
剥がすと粘着力が落ちてしまうため、できるだけ貼り直しは避けてください。目の周囲や粘膜のほか、傷口ややけど、日焼けによる熱傷、湿疹など、皮膚に異常がある部位への使用も避ける必要があります。
余談ですが、乳幼児やペットが冷却シートのジェルを誤食してしまう事例もあります。成分そのものに命を危険にさらすほどの効果はありませんが、粘着力があるため、気道をふさいでしまう恐れがあります。手の届かない場所に置くなど、保管場所にも注意してください。
1日に貼る回数に関しては、冷却シートを販売しているメーカーの公式サイトを確認しても、特に記載はありませんでした。冷却持続時間は8~10時間程度のため、1日2~3回使用しても問題はないと思います。ただ、頻度は少ないのですが、貼り付け部位の皮膚が炎症を起こす接触性皮膚炎の報告もあるため、肌に異常を感じた際はすぐに使用を中止してください」
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