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波音や雨音などの“環境音”が「作業効率上がる」「雑音は必要」と人気、効果はある?

カフェの雑踏や、鳥の鳴き声などの「環境音」を流すアプリが人気です。音があった方が「作業がはかどる」「集中できる」と感じる人が多いようです。環境音と集中力の関係について専門家に聞きました。

カフェで仕事が進む理由は「音」?
カフェで仕事が進む理由は「音」?

 雨音や波音、鳥の鳴き声、カフェの雑踏などの「環境音」を流すアプリが近年、人気を集めています。こうした音を“作業用BGM”として流すことで無音の環境にいる時よりも集中力がアップし、作業がはかどりやすくなる効果を実感する人が多いようです。SNS上では「音があるだけで作業効率めちゃくちゃ上がる」「カフェで仕事する方がはかどる」「気が散らない程度の雑音は必要」など、さまざまな声が寄せられています。

 周囲の音と集中力との関係について、建築音響学・環境心理学・音響心理学の専門家である、茨城大学工学部の辻村壮平講師に聞きました。

「音のマスキング効果」で集中力が維持される

Q.静かな場所よりも、環境音のある空間の方が集中できるのは事実でしょうか。

辻村さん「まず、環境音には鳥の鳴き声や人の声、足音、車の音など、あらゆるすべての音が含まれます。環境音があるかどうかで、作業や勉強に対する集中度が変わるかどうかは、作業の種類や音の種類によると言えます。

脳の情報処理量は一定です。無音の空間にいる時、意識は自分の周囲に向きやすくなります。その際、ある程度の大きさ(ただし、うるさいと感じない程度)の音があった方が、周囲で生じた音が環境音にかき消されて気にならなくなるのです。これを『音のマスキング効果』と呼びます。

例えば、オフィスであればキーボードの操作音や電話する時の声など、自分から発せられる音が目立ちやすくなるため、周囲への気遣いに脳の容量を使いがちになり、集中力が下がるように感じられます。しかし、空間に適度な音があれば、自分から発せられる音が環境音に紛れ込みやすくなるため、周囲に必要以上に気を遣う必要がなくなり、脳の容量をフルに使って作業に没頭できる状態になります。つまり、音があることで『集中力が上がる』というよりは、『集中力が維持される』状態というのが正しいと思います。

一人で学習などの作業に取り組む場合は、騒音レベルは低いほど良いと言えるでしょう。しかし、周囲に人がいたり、他の音が発生するような環境になると、ある程度の音がある方が、周りの音を消してくれるので作業しやすい場合があると考えられます」(※1)

Q.音の種類はどのように影響しますか。

辻村さん「国語的な作業をしている時、周囲から他の言語情報が聞こえると邪魔に感じられやすく、集中力が下がりやすくなります。

小学校1~6年生レベルの漢字を9マス分記憶した後で書き取りを行う作業と、2桁の簡単な計算問題を解き進めていく作業を、『空調音が聞こえる空間』と『言葉や内容が聞き取れる程度の会話が聞こえる空間』で行い、被験者の集中力への影響を調査しました。その結果、空調音の空間においては両者の影響の差は見られなかったのに対し、漢字の書き取り時には会話の声が妨げとなりやすい傾向が明らかになりました。一方で、計算問題を解く場合は、会話の声が影響することはほとんどありませんでした。つまり、言葉や内容が聞き取れる会話や、日本語で歌われる音楽は、言葉を使用する作業中の環境音としては不向きであると言えるでしょう(※2)。

また、集中力を維持しやすい音には個人差もあります。鳥の鳴き声は『安らぎ』や『心地よさ』が連想されやすく、作業に適しているイメージがありますが、もともと鳥が好きな人であれば、周囲で鳴き声が聞こえた時『どんな鳥なのか』などと気になり、作業よりも鳴き声に意識が向いてしまうかもしれません」

Q.その他、日常生活の中で、環境音によって集中力や作業効率が変わるケースはありますか。

辻村さん「複数人での会議を行う際、その内容が『業務計画や進行スケジュールの確認』『情報の整理・共有』といった意思決定・情報伝達の内容にとどまる場合、環境音の少ない静かな環境(35デシベル程度。さらに静かなほど良い)が適しています。一方『新しいアイデアの提案』『意見を出し合う』といった知識創造の作業(ブレーンストーミングなど)を行う場合は『うるさいとは感じない程度の、活気があるような印象を受ける』環境音(45デシベル程度。50デシベルを超えるとうるさいと感じ始める)があった方がよいことが明らかになっています(※3)。参加者の活発な発言や意見交換が求められるため、静か過ぎる空間では話しにくくなるからです(※3)」

(※1)辻村壮平、上野佳奈子「教室内音環境が学習効率に及ぼす影響」(日本建築学会環境系論文集、第75巻、第653号、pp.561-568、2010年7月)
(※2)Sohei Tsujimura「Psychophysiological experiments on extent of disturbance of noises under conditions of different types of brain works」(Proceedings of the International Congress and Exhibition on Noise Control Engineering,pp.1-8,Shanghai,CHINA,2008.10)
(※3)辻村壮平、秋田剛、小島隆矢、佐野奈緒子「複数人による知識創造活動を行う会議に及ぼす室内音環境の影響」(日本建築学会環境系論文集、第80巻、第711号、pp.397-405、2015.5)

(ライフスタイルチーム)