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「ちゃんと通報したの?」の声も…事故を目撃、“通報せず”動画撮影→SNS投稿、罪に問える? 弁護士に聞いた

SNS上にアップされた、交通事故の生々しい様子が映された動画。撮影者に対し、「ちゃんと通報したの?」と感じる人が多いようですが、通報をしなかった場合、罪に問われるのでしょうか。

通報せずに動画を撮影した人、罪に問える?
通報せずに動画を撮影した人、罪に問える?

 SNS上で、交通事故の現場に遭遇した際に撮影したと思われる動画が個人のアカウントにアップされることがあります。中には、対向車に激突した車が大破する様子など、現場の状況が生々しく写っている動画もありますが、このような動画がアップされると必ず上がるのが「通報義務」に関する声です。

「こういう動画を見るたびに、ちゃんと通報したの? と思ってしまう」と速やかに警察に通報したのか疑う声や、「先に通報していたとしても、動画を撮ること自体どうなの?」「事故現場に鉢合わせた人が取るべき行動じゃない」といった批判、また、「もし通報せずに動画を撮っていたら罪に問われるの?」という疑問の声も聞かれます。

 事故現場の動画を撮影していた第三者が通報をしなかったり、通報が遅れたりした場合、何らかの罪に問われることはあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

目撃者の通報・救助は“任意”だが…

Q.交通事故などの現場を通りかかり、目撃した人に、「110番通報をしなくてはならない」「救助のための行動を取らなければならない」という義務は発生するのですか。

佐藤さん「事故現場をたまたま通りかかっただけの目撃者には、警察に通報したり、救助したりする法的な義務は発生しません。

道路交通法72条1項は、『交通事故に関わる運転者や同乗者』は直ちに運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止するなど必要な措置を講じなければならず、また警察官に対し、交通事故の発生日時や場所、死傷者の数や負傷の程度、損壊した物や損壊の程度、交通事故に関わる車両の積載物や、交通事故について講じた措置を報告しなければならないとしています。

単なる事故の目撃者にはこうした規定が存在しないため、通報したり、救助したりすることは任意となります」

Q.つまり、事故現場に居合わせた目撃者が110番通報をせずにその場を離れたり、現場にいるにもかかわらず、通報が遅れたりした場合でも、目撃者に何らかの刑事責任や賠償責任は発生しないということでしょうか。

佐藤さん「単なる目撃者が通報しなかったり、事故発生からしばらくたって通報したりした場合でも、目撃者が刑事責任を負うことはありません。『交通事故に関わる運転者や同乗者』には道路交通法上、通報義務が課されており、これに違反すれば3カ月以下の懲役、または5万円以下の罰金に処されます(同法119条1項10号)。しかし、目撃者は道路交通法上の通報義務を負っていないため、通報しなかったことにより罰せられることはないのです。

また、目撃者が通報しなかったとしても、それだけで民事上、不法行為が成立するとは考えられず、損害賠償責任も負わないでしょう」

Q.速やかに通報・救急搬送されていれば、命が助かる可能性が高かったにもかかわらず、目撃者が通報しなかった、あるいは目撃者の通報が遅れたことにより、事故に遭った人が亡くなった場合であっても、その遺族は目撃者に何らかの法的措置を取ることはできないのですか。

佐藤さん「これについてもやはり、単なる目撃者には法的な通報義務がないため、目撃者に対して法的措置を取ることはできないでしょう。

交通事故が起きた場合、加害者が刑事責任や民事責任などの法的責任を負うことになります。被害者死亡のケースでは、慰謝料として2000万円から3000万円弱の金額が認められることが多く、その他、事故が起こらなければ得られていたはずの収入(亡くなったことで抑えられた生活費を除いたもの)や葬儀関係費用などを、加害者に対して請求することになります」

Q.事故の目撃者が通報をせずに、現場の様子を撮影していた場合ではどうでしょうか。

佐藤さん「この場合であっても、目撃者に対して、通報しなかったことに対する責任を追及することはできません。しかし、無断で撮影したことについて、被害者や加害者、その他の関係者が写り込んでいた場合には、肖像権を侵害されたとして責任を追及する可能性は残されているでしょう。

私たちは皆、『承諾なしに、みだりに自己の容貌などを撮影されない自由』、そして、『自己の容貌を撮影された写真や動画を公表されない自由』(いわゆる肖像権)を持っています。裁判上、肖像権の侵害に当たるか否かは、撮影された人の社会的地位、撮影場所、撮影の目的、撮影の様子、撮影の必要性などを総合考慮して判断されるため、侵害と認められるかどうかはケース・バイ・ケースです。

事故の発生や現場の状況を多くの人に知らせるという公的な目的で、人物の判別が困難な態様により撮影したケースなど、肖像権の侵害に至らないことも少なくないとは思いますが、事故現場を興味本位で撮影したり、SNSにアップしたりする行為は不謹慎と受け止められることもあるので慎むべきです」

Q.近年は、第三者が事故現場を撮影・投稿する行為が問題となるケースが多くみられます。もし、偶然にも事故現場を目撃したとき、目撃者に求められる行動とは。

佐藤さん「単なる目撃者には法的な通報義務はありませんが、目撃者の証言によって真実が明らかになり、公平な解決につながるケースや人命救助につながるケースもあるので、事故を目撃した場合にはできる限り通報したり、捜査に協力したりすることが大切だと思います。

また、事故現場の撮影は、当事者が証拠を残すために行うなど適切なものもありますが、第三者が自己のSNSのアクセス数を上げるために、被害者や加害者の顔がよく分かるように撮影したものなど、不適切なものも見受けられます。後者は先述のように、肖像権の侵害にもなり得る行為ですので慎むべきでしょう」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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