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「クルミアレルギー」急増、表示義務化へ どんな症状?

「クルミ」による食物アレルギーの発症例が増えているなどとして、アレルギー表示を義務化する方針を消費者庁が明らかにしました。「クルミアレルギー」の症状や対処法、義務化の背景を専門家に聞きました。

クルミアレルギーが急増?
クルミアレルギーが急増?

「健康によい」とよく言われる「クルミ」について、食物アレルギーの発症例が増えているなどとして、アレルギー表示を義務化する方針を、消費者庁が6月1日、明らかにしました。「クルミアレルギー」の症状や対処法、義務化の背景について、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

命に関わる可能性も

Q.クルミによる食物アレルギーの症状や原因について教えてください。

森さん「本来は食べて問題ないクルミなのに、異物だと体が誤って認識してしまい、自分の体を防御するために免疫反応が過敏に働いた結果、さまざまな症状を引き起こすのが、クルミを原因食物とするアレルギーです。

クルミ特有の症状があるということはなく、食物アレルギーを起こす他の原因食物と同じように、全身に多様な症状が出る可能性があります。具体的には、次のような症状です。

・かゆみ、じんましん、赤くなるなどの皮膚の症状
・目が充血する、まぶたが腫れるなどの目の症状
・喉がイガイガする、唇が腫れる、口の中や舌の痛み・違和感といった口腔(こうくう)内の症状
・くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどの鼻の症状
・息苦しくなる、喉の奥が詰まる感じがする、声がかすれる、せきが出るなどの呼吸器の症状
・腹痛、嘔吐(おうと)、吐き気、下痢などの消化器の症状
・脈の異常(速くなる、不規則になる等)、手足が冷たくなるなどの循環器の症状
・頭痛、元気がなくなるなどの神経の症状

これらの症状は、食後15分後くらいから2時間くらいの間に出ることが一般的です。こうした症状のうち、嘔吐や腹痛、呼吸困難などの複数の症状が食後すぐに出ることを『アナフィラキシー』と言い、最も重症の場合は、意識障害や血圧の低下、失禁を伴うなど『アナフィラキシーショック』という、生命が危険な状態になることもあります。

また、食後に運動したことによってアナフィラキシーが出ることがあり、例えば、幼稚園や学校では、昼休みの運動や体育の授業に注意が必要です。症状の出方の傾向は、クルミなど対象となる食物の摂取量や年齢にも関係すると考えられ、個人差も大きいと言えます」

Q.クルミアレルギーを発症した場合の対処法について教えてください。

森さん「異変に気付いた場合は、まず安静にし、症状を把握して経過を見ることが必要です。急に症状が変化する可能性もあるので、2時間程度は注意が必要です。その後、症状が良くなれば問題ありませんが、気になる症状があれば、自己判断せず医療機関を受診してください。

『呼吸が苦しくなる』『何度も吐く』『強い腹痛がある』『明らかにぐったりしている』『意識がはっきりしない』など、緊急性が高い場合は、すぐに救急車を要請し、適切な治療を受ける必要があります。周囲に助けを求めてください。

もし、これまでに食物アレルギーで医療機関を受診したことがある場合は、主治医の指導通りに内服薬や自己注射薬を使用します。

本人の反応がない場合は、あお向けに寝かせ、足を15センチ~30センチ程度高くし、安静にさせてください。嘔吐している場合は、誤嚥(ごえん)しないよう、顔を横に向けます。救急車が到着するまでの必要な処置は、通報した際に聞いた救急隊員の指示に従ってください」

Q.クルミアレルギーであることを知る方法はありますか。

森さん「クルミアレルギーを疑う症状が出た場合は、血液検査でクルミの特異的IgE抗体を調べることが一般的です。最近では『Jug r 1』という、クルミに含有されるアレルゲンタンパク質の1つを調べることで、クルミアレルギーの可能性がより高いかどうか診断できるようになりました。確定診断するには、実際に食べてみて症状の有無を判定する『食物経口負荷試験』が必要です。ただ、この検査は症状が出た場合に速やかに対応できる環境で受ける必要があり、実施している医療機関が限られています」

Q.なぜ、クルミのアレルギー表示が義務化されるのでしょうか。また、現在もクルミは、アレルギー食品として表示されていることがあると思います。表示が義務化されるとどのように変わるのでしょうか。

森さん「木の実類(ナッツ類)のアレルギー患者の急激な増加は、近年注視されてきました。消費者庁による2021年度の『食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書』によると、前回の調査まで原因食物の上位3品目は、鶏卵、牛乳、小麦でしたが、今回の調査では、木の実類の割合が増加して3位となり、中でもクルミは、木の実類によるアレルギーの56.5%、食物アレルギー全体でも7.6%を占めています。

実態調査での症例数の推移を見ると、2012年度はクルミが原因食物のアレルギーは40例(ショック症例は4例)であったのに対し、2018年度は251例(ショック症例は42例)、2021年度は463例(ショック症例は58例)と年々増えていて、クルミアレルギーの増加は一過性のものではないことが分かります。

こうした報告をもとに、消費者の健康危害の発生を防止する観点から、『特定原材料』として食物アレルギーの表示を、『推奨』から『義務』に格上げすることが必要との方針が決定しました。

クルミアレルギー患者が増えた背景には、栄養バランスに優れ栄養価が高いナッツ類が“スーパーフード”と呼ばれて注目されたことや、特にクルミが味や食感の良さから、パンやお菓子、料理のアクセントなどによく使われるようになったことで、消費量自体が急増したことがあると考えられます」

Q.実際に表示が義務化されるまでには、まだ時間がかかるようです。それまで、クルミアレルギーのある人は、どのように注意すればよいのでしょうか。

森さん「身近な食材となったクルミは、加工食品にも多く使われています。まずは食品の表示を確認することと、表示に書かれていなくても、外食やテイクアウト、お総菜やお菓子などを買う際には、原材料にクルミが使用されているか、あるいは製造過程で含まれる可能性があるかを確認することが重要です。ドレッシングやたれ、オイル、ペースト、飲み物のフレーバーなどとして使用されることもあるので注意してください。

また、クルミにアレルギーがあれば、他のナッツ類でアレルギーを起こす可能性も否定できず、特にに同じクルミ科のペカンナッツ(ピーカンナッツ)ではアレルギーを起こしやすいと報告されています。クルミ以外のナッツ類の摂取も、慎重にしましょう」

(オトナンサー編集部)

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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