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交際を迫る、体に触る、「部屋を見せて」…”就活セクハラ”をめぐる法的問題を弁護士に聞く

就職活動中の女子学生が、企業の採用担当者やOB訪問をした先輩からセクハラ被害を受ける「就活セクハラ」が問題となっています。法的責任を問うことはできないのでしょうか。

就活セクハラの法的問題は?
就活セクハラの法的問題は?

 就職活動中の女子学生が、企業の採用担当者やOB訪問をした先輩からセクハラ被害を受ける「就活セクハラ」が問題となり、厚生労働省などが注意を呼び掛けています。「誘いを拒否すると採用に響くかもしれない」という弱みにつけこんだ行為ですが、法的責任を問うことはできないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

損害賠償請求できる可能性

Q.就職活動中の学生に対し、企業側の人間が個人的に何度も食事に誘う行為に法的問題はありますか。

牧野さん「就活生と採用担当者の間に雇用契約はまだないので、通常の『セクハラ』と厳密には同じではありませんが、『雇用を希望する学生と採用担当者』という、雇用契約に類似する『拒否し難い関係』にあります。従って、対価型(代償型)のセクハラに準じて考えることができ、もし具体的な損害や被害があれば、民事上の不法行為(民法709条)により、加害者に対する慰謝料や損害賠償の請求の可能性が認められます。

また、被害者は加害者の所属企業に対しても、使用者の損害賠償責任(民法715条)を問える可能性があります」

Q.就職活動中の学生を企業側の人間が食事に誘い、「食事に付き合ってくれたら採用する」と言った場合、法的問題はありますか。

牧野さん「食事に付き合うことで採用の可能性を示唆することは、セクハラでいえば対価型であり悪質です。ただ、食事に付き合うことだけであれば、通常、損害は発生しないので、法的問題とすることは難しいでしょう。そこで、企業側の自主的なモラルが要求されると思います。

一方、実際に食事をした場合に、同意なく体に触れれば、加害者に刑事の強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の懲役)、食事後などに同意なく性行為を行えば、強制性交罪(刑法177条、5年以上の有期懲役)が成立する可能性があります。いずれも民事上の不法行為(民法709条)にも該当する可能性があります。また、被害者は加害者の所属企業に対しても、使用者の損害賠償責任(民法715条)を問える可能性があります」

Q.就職活動中の学生に企業側の人間が交際を迫り、「付き合ってくれたら採用する」と言った場合、法的問題はありますか。

牧野さん「内定を得るためにお付き合いする人はいないと思いますが、これも、お付き合いする代わりに採用で有利に扱う、または内定を与えることで、セクハラの対価型に当たるでしょう。具体的な損害や被害があれば、民事上の不法行為(民法709条)により、慰謝料や損害賠償の請求が認められます。使用者の損害賠償責任(民法715条)も問える可能性があります」

Q.就職活動中の学生に対して、企業側の人間が体を触ったり性行為をしたりした場合で、企業側の人間が「同意があった」と主張したら、立件や慰謝料請求はできますか。

牧野さん「同意なく体に触れたり、性行為を行ったりすれば、刑事の強制わいせつ罪や強制性交罪をはじめとして、民事上の不法行為(民法709条)に該当して、被害者から加害者に対する慰謝料や損害賠償の請求が認められます。また、被害者は、加害者の所属企業に対しても使用者の損害賠償責任を問える可能性があります。

確かに、容疑者が『同意があった』と反論することがあります。そもそも、同意の有無を証明することが難しいのですが、企業側の人間が『同意があった』と主張した場合、刑事事件で無罪となっても、民事上の責任を自動的に免れることにはなりません。民事と刑事では立証責任の程度が異なり、『合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証(最高裁判例2007年10月16日)』=『厳格な証明』が刑事事件では要求されるからです。そのため、刑事裁判で無罪となっても、民事裁判で慰謝料を請求できる可能性はあります」

Q.面接でスリーサイズを聞く、彼氏の有無を聞く行為は法的責任を問えるでしょうか。

牧野さん「不適切な質問であり、学生が回答する義務はありませんが、学生が回答を拒否するのにしつこく強要する場合には、慰謝料が請求できる可能性があります。このような不適切な質問を回避すべく、企業側は自主的なルール作りが必要になってきます」

Q.コロナ禍でオンライン面接が多くなりましたが、女子学生に「もっと、部屋全体をよく見せて」と指示したり、普通の姿勢でいると全身が見えないので、「ちょっとそこに立って全身を見せて」と言ったりする面接官がいるようです。こうした行為について、法的責任は問えるでしょうか。

牧野さん「不適切な要求であり、学生が応じる義務はありませんが、学生が拒否するのにしつこく強要する場合には、先ほどの不適切な質問と同じく、慰謝料を請求できる可能性があります。繰り返しになりますが、このような不適切な要求を回避すべく、企業側は自主的なルール作りが必要になるでしょう」

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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