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「歩きスマホ」の人をよけずにぶつかると暴行罪? 理不尽では? 弁護士に聞く

「歩きスマホ」をしている人をよけないと暴行罪に問われる可能性があるそうです。マナーの悪い人のために道を譲るのは理不尽ですが、仕方ないのでしょうか。

「歩きスマホ」の人を避けなければ、暴行罪になる?
「歩きスマホ」の人を避けなければ、暴行罪になる?

 街中で、「歩きスマホ」をしている人とぶつからないようによけた経験のある人は、多いのではないでしょうか。中には「相手に注意する意味で、よけない」「マナー違反で腹が立つから、わざとぶつかる」という声もネット上にはあります。しかし、よけずにわざとぶつかると、暴行罪に問われる可能性があるそうです。マナーの悪い人のために道を譲るのは理不尽にも思えますが、仕方のないことなのでしょうか。グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。

殴ったり、蹴ったりしないのに?

Q.「歩きスマホ」をしている人が前から向かってきて、自分の方がよけずにわざとぶつかった場合、暴行罪に問われる可能性があるのは本当ですか。

若林さん「わざと人にぶつかる行為は、暴行罪に問われる可能性があります。法律の上では、人の身体に対し、不法に有形力(物理的な力)を行使したが、傷害結果が生じなかった場合に暴行罪が成立します。

わざとぶつかる行為は、この『人の身体に対する不法な有形力の行使』に当てはまることとなり、暴行罪に問われる可能性があるのです。ただし、軽くぶつかった程度では、暴行罪に問われる可能性は低いでしょう」

Q.相手を押したわけでもないのに、暴行罪になる可能性があるのですね。

若林さん「人を殴ったり、蹴ったり、押したりしたわけでもないのに『なぜ暴行?』と思われるかもしれません。暴行罪で規定されている『暴行』は、どのような行為であっても、『人の身体に対する不法な有形力の行使』といえる限り『暴行』にあたるのです。この点は、一般的なイメージと法律の考え方とで、少しずれがあるように感じるかもしれませんね」

Q.「歩きスマホ」の相手とぶつかった人が暴行罪に問われた事例はありますか。

若林さん「暴行罪に問われた事例とは少し違いますが、同様の事例として、2017年11月13日の神戸地方裁判所の判決があります。

事案は、日頃から歩きスマホに不満を持っていたAさんが、駅のホームで歩きスマホをしていたBさんに対し、すれ違いざまに右肩をぶつけ、それによりBさんが転倒、全治約1カ月を要する傷害を負わせたという内容です。

この事例では、傷害結果が生じていることもあり、暴行罪ではなく傷害罪が成立すると判断され、懲役1年6月、執行猶予3年の判決となりました」

Q.前を見て歩いていない歩きスマホの人は、法的責任を問われないのでしょうか。

若林さん「歩きスマホの人が法的責任を問われる場合もあります。例えば、混雑する駅のホームや、交通量や人通りの多い道路の歩道などで歩きスマホをし、歩行者や自転車などとぶつかり、その人にけがをさせてしまった場合、過失傷害罪(刑法209条、30万円以下の罰金または科料)に問われる可能性があります。

また、その人が死亡した場合は、過失致死罪(刑法210条、50万円以下の罰金)に問われる可能性もあります。さらに、民事上の責任として、不法行為責任に問われる可能性があります。この場合、ぶつかった相手に生じた損害について賠償する責任が生じます」

Q.歩きスマホの人が法的責任を問われることがあるとはいえ、歩きスマホそのものを規制する法律はなく、条例があるのも一部の自治体にとどまっています。現状では、スマホに夢中の人が自分の方に向かってきたとき、自らよけるしかないのですか。

若林さん「混雑する駅のホームや階段、交通量や人通りの多い歩道上での歩行は、歩きスマホをしている人に限らず、歩行者全員がお互いに、ぶつかって相手にけがをさせることのないように注意する義務があります。

確かに、スマホに夢中の人が悪いと思ってしまう気持ちは分かります。しかし、自分自身も人にぶつからないよう注意しないといけない立場ですので、もし、スマホに夢中の人が自分の方に向かってきてぶつかりそうになったときは、自分がよけるべきです。それは無用なトラブルを避けることにもつながります」

Q.普通の歩行者が道を譲らないといけない現状は、やはり理不尽だと思います。なぜ、歩きスマホに夢中で前方を見ていない人を規制できないのでしょうか。今後も規制できない状況が続きますか。

若林さん「確かに、人にぶつかってけがをさせることのないよう注意して歩いている歩行者からすると、歩きスマホに夢中な人が堂々と進む姿は、自己中心的に見え、不快に感じ、道を譲ることは納得のいかない気持ちになるかもしれません。しかし、道を譲らず歩いてよいということにはなりません。

ただ、今後、歩きスマホを規制する条例や法律の制定が進むかもしれません。アメリカ・ハワイ州ホノルル市では、道路横断中に歩行者が、スマホなどの電子機器を使用することを禁止する条例ができています。

日本でも、神奈川県大和市が2020年7月から、全国で初めて『歩きスマホ』を規制する条例を施行し、2021年1月の調査で、歩きスマホをしていた人の割合が、施行前の調査と比較して5.5ポイント減少したそうです。

歩きスマホに対する問題意識が広がってきているため、条例や法律の制定がさらに進み、歩きスマホの規制が全国に広がる日が来るかもしれません」

(オトナンサー編集部)

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若林 翔(わかばやし・しょう)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。YouTubeチャンネル「弁護士ばやし」(https://www.youtube.com/channel/UC8IFJg5R_KxpRU5MIRcKatA)、グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/lawyers/s_wakabayashi/)。

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