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「PTA」加入の強制や役員押し付け、法的問題はある? 弁護士の見解

PTAは任意加入の団体のはずなのに、加入や役員割り当てを事実上強制される場合も多いようです。PTAを巡る法的問題について弁護士に聞きました。

PTAを巡る法的問題とは?
PTAを巡る法的問題とは?

 新年度に入る前後の時期、PTA役員の選任が行われる小中学校が多いことと思います。共働き家庭や小さな子どももいる家庭では、PTA活動に時間を割くのが難しく、この時期が憂鬱(ゆううつ)な人もおられることでしょう。そもそも、PTAは任意加入の団体のはずなのに、その理解があまり進んでおらず、加入や役員割り当てを事実上強制される場合も多いようです。PTAを巡る法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

強要罪の可能性あり

Q.保護者がPTAに加入する義務はあるのでしょうか。

牧野さん「日本におけるPTA(Parent-Teacher Association)は、各学校で組織された、保護者と教職員による任意団体です。児童生徒のためのボランティア活動であり、児童を含みません。結成や加入を義務付ける法的根拠はありません。各学校の単位PTAが協働するために結成された、市町村・都道府県・全国の各レベルに存在するPTA連合会もあります」

Q.PTAへの加入を強制されたり、役員を押し付けたりされた場合の法的問題は。

牧野さん「『PTAに入らないと子どもが不利益な扱いを受ける』と説明してPTAに勧誘することは、刑法223条の強要罪(3年以下の懲役) に当たる可能性があります。刑法223条の中の『親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ』た場合に該当する可能性があるからです。

『役員を引き受けないと子どもが不利益な扱いを受ける』と説明して役員を割り当てることも、強要罪に問われる可能性を否定できないので、無理強いすべきではないでしょう」

Q.PTAに入っていない家庭の子どもが、実際に不利益な扱いを受けた事例はありますか。

牧野さん「PTAを退会した保護者の子どもが、登校班から排除される問題が起きています。登校班編成や運用は本来、学校の管轄ですが、PTAが運営している場合にこの問題が発生します。

児童生徒が、親の地位・活動・思想信条や人種などに由来する、あらゆる差別から守られることは、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)2条に明記されているので、こうした差別は許されません」

Q.子どもが不利益な扱いを受けた場合、損害賠償などを求めることはできますか。

牧野さん「不利益な扱い(人格権の侵害)により、現実に精神的な損害を含む損害があれば、PTA側に故意・過失が認められ、民法709条の不法行為として損害賠償を請求できる可能性があるでしょう」

Q.PTAに入っていない家庭の子どもに対し、PTAが卒業式で配る記念品を配布しないとしたら、法的問題はありますか。

牧野さん「PTAが記念品を授与しており、学校法人として記念品を授与しているのでない場合、PTAへの加入は任意ですので、記念品を授与される便宜を受けることも原則任意となります。従って、PTAが記念品を加入者の生徒のみに配布することに、法的問題はないでしょう。

大阪府の私立校で、親が保護者会を退会したことを理由に、中学校の卒業式で生徒に記念品が授与されなかった事例があり、生徒の両親は人格権の侵害を理由に保護者会と学校法人の理事長を相手取って民事訴訟を起こしましたが、2017年8月に請求が退けられています。

このケースは、親の思想信条などによる差別から子どもを守る『子どもの権利条約』に反しているとも考えられますが、『親がPTAに入っていないことで不利な扱いを受ける』のではなく、『ほかの親がPTAに入っていることで有利な扱いを受ける』ことなので、法的には、救済することが難しいと考えられます。

ただし、最近は『PTAは任意加入』という認識が広がりつつあり、記念品などの扱いについても、さまざまな議論があります。『PTAは、学校の子ども全員のための組織』という前提に立って、非加入者の子どもにも記念品を贈るPTAも多いようです」

Q.PTA非加入による、不利益な扱いなどを巡る裁判や事件の例はありますか。

牧野さん「熊本県で2014年、生徒の親がPTAを提訴した民事裁判がありました。生徒の親は、同意書や契約書なしにPTAに強制加入させられ、さらに退会届が受理されなかったことを理由に会費の返還などの損害賠償をPTAに請求しました。2016年2月、熊本地裁は生徒の親の訴えを棄却しましたが、生徒の親は控訴し、2017年2月、福岡高裁で以下の条件で和解が成立しました」

・PTAが入退会自由な任意団体であることを将来にわたって保護者に十分に周知すること
・保護者が知らないまま入会させられたり退会を不当に妨げられたりしないようPTA側が努めること

(オトナンサー編集部)

【画像】PTA退会で不利益な扱いをすると、法的問題にも

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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