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権力欲求の表れ? 「情報独占上司」による弊害、部下はどう対処したらいい?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「情報独占上司」への対策は?
「情報独占上司」への対策は?

 会社の管理職の中には、経営幹部会議などで話し合われた情報を独占してしまい、部下には最低限のことしか伝えないという人が少なからず存在します。そのような上司の下にいる部下は会社の全体的な方向性が分からず、ただ、上司の指示に従っているだけになってしまいます。

 後日、たまたま、別の部署の人間から大切な情報を漏れ聞き、「なぜ、うちの上司はそんな重要な情報を共有してくれないのだろう」と不信感を持つケースもあるようです。そんな「情報独占上司」はなぜ、生まれるのでしょうか。そういう上司の下についてしまった部下はどのようにすればよいのでしょうか。

管理職に多い「権力欲求」タイプ

 なぜ、情報独占上司が生まれるのか。結論から申し上げると、情報というものが「権力の源」だからです。権力とは、強制的に他者に何らかの行動をさせる力、他者を服従させ、支配する力のことです。古典的なモチベーション理論の一つであるマクレランドの欲求理論では、働く人のモチベーションの源は大別すると「達成欲求(高い成果を上げたい)」「親和欲求(他者と親しくなりたい)」「権力欲求(他者を動かしたい)」「回避動機(失敗したくない)」があるとされています。

 そして、このうち、権力欲求が強い人は地位を重視し、部下に指示をすることを好む人たちで、管理職に一定以上存在すると考えられます。そして、権力を生み出す情報を保持したがるのです。何らかのやりとりをしている両者の間に、そのやりとりを左右することに関して知っていることに差があることを「情報の非対称性」と言います。もちろん、情報を多く知っている方が知らない方に対して強くなります。

 例えば、マンション購入などの不動産取引で、物件に詳しいのはプロである不動産業者の方です。買い手や借り手となる個人は通常は不動産に詳しくないため(一生に一度の買い物と言われるくらいですので)、「この物件はいくら」と言われても、割高か割安か容易には判断できません。このため、個人は不動産業者を信じるしかなく、極端に言えば、「言いなり」になりやすい。まさに、不動産業者はこの意味で、個人に対して権力を持つわけです。

情報独占は会社にとって弊害

 会社で言えば、仕事の方向性を左右する重要事項を知っている管理職は次に何をすればよいのか、どういう方法が効果的なのかが分かります。このため、重要事項を知らない部下は管理職に一つ一つお伺いを立てて、「言いなり」にならなければ、成果を出しにくくなるという事態が発生します。

 先述した不動産業者と同様、管理職は部下に対して権力を持つのです。このような管理職はまるで、「虎(会社の重要情報)の威を借る狐(きつね)」です。「俺の言うことを聞かないと、重要情報を手に入れられないぞ」ということです。部下も成果を出したいのであれば、渋々、上司におもねってでも情報をもらうしかありません。

 しかし、そんな上司は会社にとって弊害です。正当な理由による機密情報を秘匿することは管理職として当然ですが(逆にそれを漏えいすることで、権力を得ようとする管理職も失格です)、全社員に迷うことなく力を発揮してもらうために、最前線にまで浸透させてほしい情報を己の権力維持のために独占されてはたまりません。

 特に情報が不足している状態では、リスクのある判断がしづらくなります。このため、社員は大きなチャレンジがしにくくなり、結果、その会社は全体的にリスクの小さい保守的な判断をするようになって、さまざまなチャンスを逃すことになりかねません。これでは、会社は早晩、立ち行かなくなるでしょう。

情報独占の排除は経営者の仕事

 こういう管理職に、情報を知らない側の部下が対抗するのは至難の業です。知らないことを「ありそうだから出せ」とは言うことはできないからです。ですから、基本的には、情報独占上司を生み出さないことは経営側の責任です。決定した重要事項の中で、社員全体に浸透させたいことは明確に抽出して、浸透させるよう、管理職に指示しなくてはなりません。

 私が昔いたリクルートでは「社員皆経営者主義」「今日T会(取締役会)、明日A職(アルバイト)へ」などと言って、情報を社員からアルバイトまで、一緒に働く仲間には極力、伝えるようにしていました。経営者による、直接リアルな場でのプレゼンテーションや「衛生朝会」(当時ネットはなく、衛星放送を使っていた)というものもありました。

インフォーマルネットワークから情報を

 ただ、経営者の側が「伝えろ」と指示しても、管理職が「本当に伝えるか」は分かりません。従って、上司が情報独占の傾向があると気付いたなら(先述の通り、至難の業ですが)、最終的には、部下は自分で情報を得るしかありません。管理職の情報独占は権力欲求≒本能ですから、ある程度生じるのは仕方ないと割り切るのです。

 上司という会社のフォーマルな情報流通ルートから重要情報が来ないなら、インフォーマルなネットワークから情報を得る、つまり、社内でさまざまな人と関係性をつくり、当然知るべき情報を獲得するのです。実際、さまざまな会社で、社内人脈が多い人が成果を残し、昇進することが多いのは、これができているからではないでしょうか。組織の在り方としては好ましくありませんが、情報独占上司対策としては有効でしょう。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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