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「適応障害」とはどのような病気か 原因や治療・予防法は? うつ病と何が違う?

「適応障害」はよく聞く病名ですが、どのような病気で、同じく精神疾患の一つである「うつ病」とは何が違うのでしょうか。精神科専門医に聞きました。

深田恭子さん(2020年2月、時事通信フォト)
深田恭子さん(2020年2月、時事通信フォト)

 皇后雅子さまが長年苦しみ、最近では、女優の深田恭子さんが罹患(りかん)したと報道された「適応障害」。よく聞く病名ではありますが、どのような病気で、同じく精神疾患の一つである「うつ病」とは何が違うのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

ストレスで心がくじけた状態

Q.適応障害とは、どのような病気でしょうか。

田中さん「適応障害とは分かりやすく言うと、ストレスによって、心がくじけた状態です。医学的には、本人の特性と環境との相互作用によって発症すると考えられています。原因としては、恋愛、失恋、進学、就職、解雇、退職、1人暮らしの開始、結婚、離婚、妊娠、出産、身体疾患の発病…など、さまざまな生活上の変化が挙げられます。

もちろん、学校でのいじめ、職場でのハラスメント、家庭での暴言・暴力などといった過度のストレスも原因となります。適応障害では、そうしたストレスを受けてから数カ月以内に、うつ、不安、睡眠障害、食欲低下などの心身の不調が見られます。また、人によっては、いらいら、攻撃的な言動、過剰飲酒が見られる場合もあり、自殺行動のリスクもあります」

Q.治療はどのようにするのでしょうか。また、一般的にどのくらいの期間が治療にかかるのですか。

田中さん「治療はまず、『一体何が起こって、どのようにつらくなってきたのか』を話してもらうことから始めます。安心感や信頼感のある治療関係のもとでつらさを語ることは、それだけでも治療効果があるでしょう。その上で睡眠時間を確保し、適度な運動をすすめ、ほどよいリラックスが得られるように生活指導を行います。

人によっては、医師が職場などに宛てて診断書を作成し、数週間から1カ月程度の自宅療養を指示する場合もあります。環境的なストレスから離れることができれば、適応障害は投薬治療を行わなくても、数カ月以内に速やかに回復するのが一般的です。回復段階に入れば、適応障害を引き起こした本人の対処不全と適応力についても焦点を当てていきます。

一体どのようにすれば、つらい状況を乗り越えることができるのか、あるいは乗り越えることができないとしたら、どうすればいいのか(本人の特性と環境の相互作用なので、必ずしも乗り越えられるとは限りません)を一緒に考えます。本人の生き方、考え方とも関係するデリケートな話をすることになるため、じっくりと時間をかけることが必要なことがあります」

Q.うつ病との違い、共通点を教えてください。

田中さん「先述したように、適応障害の症状にも『うつ』があり、睡眠障害、食欲低下などの身体症状も見られます。従って、症状の上では、適応障害とうつ病はかなり共通しているということになります。また、発症の仕方も、丁寧な診察によって『過度なストレスと本人の特性(考え方、生き方など)との相互作用』が明らかになってくると、適応障害とうつ病はかなり似通ってきます。

ただし、両者が重なり合うのは軽度のうつ病までです。中等度以上の本格的なうつ病を発症した場合、脳内のセロトニンなどの機能を改善させるために投薬治療が必要となるでしょう」

Q.適応障害で自殺のリスクがあるとのことですが、うつ病の場合も自殺に至る場合があります。適応障害とうつ病で、リスクの程度に違いはあるのでしょうか。

田中さん「先述したように、適応障害の場合も自殺行動のリスクがあります。うつ病と同程度と言ってもよいかもしれません。というのも、過度なストレスにさらされ続けると、誰しも心が折れた状態に陥り、『つらい状況から抜け出すためには死ぬしかない』と考えてしまうからです。

いつもの余裕を取り戻し、自分の特性と環境がミスマッチを起こしていることに気付くことができれば、体勢を立て直すことができるでしょう。しかし、次から次へとストレスが襲ってくる状況では、広い視野を持って柔軟に対処することができません。自殺行為にまで至らずとも、攻撃的な言動が増えたり、大量に飲酒したり、スピード運転などの危険な行動を起こしたりすることもがあるので十分に注意が必要です」

Q.適応障害と診断されても、日常通りの活動をしているように見えたり、「非常に重要」という場には姿を現したりする人もいます。適応障害においては、このようなケースもあるのでしょうか。

田中さん「適応障害では、心がくじけていても多少の無理を押して、日常生活を送っていることがあります。もともと前向きで適応力の高い人が過酷な環境を何とか乗り越えようとしていたのが、ついに限界を超えて発症してしまうケースもまれではありません。1人でストレスを抱え込み、それでも平気を装って無理を重ねているため、周囲の人から全く気付かれないということがしばしば起こるのです。

従って、本人のつらさを置き去りにして、『適応障害は大した病気ではない』と思うのは完全に誤解だと言ってよいでしょう。適応障害かなと思ったら、『薬に頼らない治療』を行っているような精神科外来を受診することをおすすめします」

Q.家族や会社の同僚、友人が適応障害と診断された場合、どのように接するのがよいのでしょうか。

田中さん「何よりも、本人がつらくなった経緯をじっくりと聞きましょう。その際、ねぎらいの言葉かけが重要ですし、『私はあなたの味方である』という安心感を与えるように接することを心掛けます。いったん、環境的なストレスから離れることができたら、改めて、本人の対処不全と適応力について話題にしていきましょう」

Q.適応障害にならない予防策はありますか。

田中さん「ストレスフルな現代社会において、環境的なストレスを避けることは不可能に近いかもしれません。そのため、適応障害にならない予防策を考えることはとても難しいと思います。

ただ、ストレスが増えてきたと思ったら、自分はどのような心身の不調が出やすいか(→不調のサインを知る)、どのような思考パターンを取りやすいか(→『コーピング・スキル』と呼ばれるストレス対処法の技能を高める)、自分はどうなりたいのか(→達成可能なゴールを設定する)などを自分自身に問い直してみるとよいでしょう。

こうした作業は何も、1人で取り組むものでもなく、信頼できる相手と話し合いながら進めていくものであることを忘れてはいけません」

(オトナンサー編集部)

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田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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