オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

“売れている”空気の演出? 話題づくり? 販売休止が「品薄商法」である可能性

新商品が予想以上の売れ行きとなり、生産が追い付かずに急きょ、「販売休止」になるケースが時々見られます。これはメーカーの「品薄商法」なのでしょうか。

品薄商法とは?
品薄商法とは?

 メーカーの新商品が予想以上の売れ行きとなり、生産が追い付かずにメーカーが急きょ、「販売休止」を発表するケースが時々見られます。綿密にマーケティングをして、販売計画を立てているメーカーでもたまには、想定外に売れて、生産が追い付かないことはあるでしょう。しかし、同じメーカーの新商品で相次ぎ販売休止となると「最初から販売量を少なくして、売れている空気感をつくっているのでは?」とネガティブに捉える人もいるようです。

 わざと売り切れの状況をつくって、話題づくりを狙う「品薄商法」なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

SNS普及で販売予測、難しく

Q.品薄商法とは具体的にはどのような商法で、なぜ、ネガティブに捉えられているのですか。

大庭さん「品薄商法は、メーカーが新商品などの出荷量を意図的に少なくすることで品薄の状態をつくり出し、消費者の関心や購買意欲を刺激する販売方法のことです。ネガティブに捉えられるのは、同じメーカーの商品が頻繁に品薄状態となったり、メーカーは品切れだと発表しているのに、店舗に十分な在庫があって、普通に買える状況だったりしたとき、メーカーの言い分に疑いを抱く消費者が増えるからです」

Q.同じメーカーで、新商品が「予想以上の売れ行きで生産が追い付かない」として販売休止が相次ぐと「品薄商法では?」との声が出ます。これは品薄商法なのでしょうか。それとも別の理由があるのでしょうか。

大庭さん「メーカーが意図的に品薄商法を演じているケースもありますが、想定外の売れ行きで販売休止となってしまうケースもあります。メーカーは新商品を発売するとき、綿密な販売予測を行い、細心の注意を払って、最初の出荷量を決定します。出荷量が少なすぎると販売機会の損失を招き、出荷量が多すぎると小売店で過度な在庫を抱えることになるため、同業他社や自社の過去の類似商品の売れ行き、消費者のニーズの変化などを分析した上で適正な出荷量を予測します。

しかし、近年、SNSが普及し、新商品に関する情報の伝達速度(口コミや評判が広まる速度)が速くなりました。そのため、過去のデータや経験則から判断した適正な出荷量以上の売れ行きとなり、販売休止に追い込まれることがあります」

Q.「予想以上の売れ行きで生産が追い付かず、販売休止」とアナウンスすると、世の中の購買意欲を高められるのでしょうか。

大庭さん「そのようにアナウンスをすることで『今買っておかないと、今後、この商品を入手できなくなるかもしれない』という思いを抱く消費者が現れます。そうなることで、販売休止した新商品の在庫分の売れ行きがさらに加速します。また、このようにアナウンスをすることで『この商品は人気で希少価値がある』という思いを抱く消費者も現れます。

そうなることで、今後、生産体制が整って、出荷を再開した新商品の売れ行きが加速し、企業ブランドの認知度も向上します。このように『販売休止』のアナウンスは消費者の購買意欲を高める効果があります」

Q.一方、販売休止すると新商品を購入したい客の要望に応えられず、メーカーの評判が落ちる可能性もあります。デメリットも大きいのに、なぜ、「予想以上の売れ行きで販売休止」という事態がなくならないのでしょうか。

大庭さん「先述したように“意図的ではない”販売休止もありますが、“意図した”販売休止の場合は『メーカー内での在庫を適正化する』『商品や企業に対するブランド力を高める』などの効果が期待できるため、デメリットがあることを認識しつつも、品薄商法に踏み切るケースがあるのです。

新商品の場合は一般的に、市場で販売してみないと、中長期的にどの程度の販売が見込めるものなのかが分かりません。最初から過剰な生産を行ってしまうと、販売数が売り上げ見込み数を大幅に下回った場合、メーカーは大量の在庫を抱えることになります。そうなると、新商品の開発コストを回収できなくなる▽在庫の維持や処分のコストが発生する――などのリスクが生じるため、意図的に最初の出荷量を少なくすることがあります。

さらに『想定外の売れ行きで販売休止に追い込まれた』という状況をつくることで、商品や企業への注目度が高まり、今後の商品販売(マーケティング)戦略に良い影響を与えることがあります」

Q.新商品が頻繁に「予想以上の売れ行きで生産が追い付かない」として販売休止になるメーカーを見たとき、「わざと販売量を少なくしているのでは?」と疑う人もいますが、このように考えるのは早まった考えなのでしょうか。

大庭さん「同じメーカーや同じ商品で販売休止が繰り返された場合、『品薄商法ではないか?』と疑いたくなる気持ちはよく分かります。しかし、同業他社間やグローバルな環境下での競争が激化し続けている現在、販売機会の損失や消費者からの不信感を招くというリスクはメーカーにとって大きな脅威です。こうしたリスクを伴う品薄商法を、メーカーも安易に行うことはないでしょう。

すぐに品薄商法だと疑うのではなく、消費者ニーズが多様化したことで、メーカーも新商品の販売数の予測が難しくなったことが、販売休止という結果を招いていると解釈することも必要ではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

コメント