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食品ロスは問題でも…残った弁当を黙って持ち帰った従業員、法的責任は?

スーパーやコンビニの従業員が売れ残った食品を黙って持ち帰った場合、法的責任を問われるのでしょうか。弁護士に聞きました。

食品ロス削減は大切だけど…
食品ロス削減は大切だけど…

 食べ残しや売れ残りなどの理由で、本来食べられるはずの食品を廃棄する、いわゆる「食品ロス」が社会問題化しています。農林水産省と環境省によると、国内の食品ロスの発生量は年間約600万トン(2018年度の推計値)に達しています。

 8月8日に閉幕した東京五輪の会場では、大会スタッフらの弁当約13万食が廃棄されていたことが明らかとなり、ネット上では批判が殺到しました。食品ロスに対する世間の目が厳しくなっていることから、食品を扱う事業者には、廃棄軽減に向けた取り組みが求められます。

 食品ロス削減は大切ですが、一方で「もったいない」「食品ロスを少しでも減らしたい」「どうせ捨てられるのだから…」といった気持ちで、スーパーやコンビニの従業員が売れ残った弁当や総菜を黙って持ち帰った場合、法的責任を問われるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

窃盗罪に該当する可能性も

Q.スーパーやコンビニの従業員が売れ残った弁当や総菜などの食品を黙って持ち帰った場合、法的責任を問われるのでしょうか。また、「パッケージが破れた」など何らかの理由で販売できなくなった食品や、賞味期限切れの食品を黙って持ち帰った場合はどうでしょうか。

佐藤さん「スーパーやコンビニの従業員が売れ残った弁当や総菜などの食品を黙って持ち帰った場合、窃盗罪が成立する可能性があります。窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役、または50万円以下の罰金です(刑法235条)。

窃盗罪が守ろうとしているものは平穏な占有(物に対する事実上の支配・管理)です。売れ残った弁当や総菜を事実上、支配・管理しているのは店長、または他の役職の人だと考えられるので、従業員が店長などに黙って、売れ残りの商品を持ち帰れば、彼らの占有を侵害したとして窃盗罪に問われる可能性が出てきます。

『売れ残りはどうせ捨てられる物で財産的価値がないに等しいのだから、窃盗罪に問うのは行き過ぎではないか』と感じる人もいるでしょう。しかし、ほとんど価値のない石の塊を盗んだケースで窃盗罪の成立を認めた判例もあり、財産的価値が低いことは窃盗罪の適用を免れる理由になりません。売れ残りだけでなく、不良品や賞味期限切れの食品を黙って持ち帰った場合も同様の理由で窃盗罪に問われる可能性があります。

売れ残りや不良品、賞味期限切れの食品といった、価値が低く、処分するしかないような物を一度だけ、1つ持ち帰ったようなケースの場合、悪質性が高くないといえるため、店長が被害届を出したり、実際に警察が捜査したりすることはほとんどないでしょう。ただし、持ち帰りの頻度や個数、態様などから悪質性が認められるケースでは、刑事事件に発展することもあり得ます。

このほか、店の就業規則で食品の持ち帰り行為が禁止されている場合、黙って持ち帰ると懲戒処分の対象になることも考えられます。懲戒処分に至らなくても厳重注意を受けることになるでしょう」

Q.では、店舗のごみ捨て場に置かれた食品を黙って持ち帰った場合はどうでしょうか。食品がごみ捨て場に置かれた時点で、店側の占有権は喪失するのではないでしょうか。

佐藤さん「食品が店の敷地内にある限り、店長などの責任者が事実上の支配、管理(占有)を継続していると考えられるので、ごみ捨て場に置かれた場合であっても、黙って持ち帰れば、先述のケースと同様、窃盗罪に問われる可能性があります」

Q.店側に黙って持ち帰った食品を他人に無料で提供する、もしくは転売した場合、法的責任がより重くなるのでしょうか。また、他人に食品を提供した後に食中毒が発生した場合は。

佐藤さん「黙って持ち帰った食品を他人に無料で提供しても、問われる可能性があるのは店に対する窃盗罪のみです。ただし、転売した場合は窃盗罪とは別に、転売相手に対する詐欺罪に問われる可能性があります。転売する側の人が、盗んできた物だと知らせずに売れば、相手は店から無断で持ち出された物ではないと信じ、だまされてお金を支払うからです。

また、他人に食品を提供後、食中毒が発生した場合、窃盗罪とは別に、食中毒になった人に対して責任を負うことになるでしょう。具体的には、食中毒になった人から、通院や入院が必要になった場合の治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されることが考えられます。場合によっては、過失傷害罪(刑法209条、30万円以下の罰金、または科料)に問われる可能性もあります」

Q.黙って持ち帰る行為が店側の占有権を侵害することになるということですが、では、事前に店の責任者から許可をもらえば、従業員は売れ残った食品を持ち帰っても問題ないのでしょうか。

佐藤さん「問題ありません。先述のように、売れ残った食品の持ち帰りが問題となるのは店側の占有を害したり、ルール違反に該当したりするからです。食品ロスを減らすためにも、消費期限によっては、従業員が消費した方がよいこともあるでしょう。こっそり行うのではなく、店長などに確認を取った上で、店のルールに従って行うことが大切です」

Q.スーパーやコンビニの従業員が売れ残った食品を黙って持ち帰って、裁判に発展した事例・判例があれば、教えてください。

佐藤さん「裁判に発展した事例は、私は聞いたことがありません。売れ残り食品の持ち帰りについて、被害届が出されるほど悪質なケースは少なく、多くは店舗内部での注意や処分で解決に至っていると思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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