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「フードデリバリー」の商品で体調悪化…飲食店と配達員、どちらの責任問うべき?

真夏に「フードデリバリーサービス」で届けられた料理が傷んでいて、食後に腹痛など体調が悪化したとき、注文者は飲食店と配達員のどちらにクレームを言えばよいのでしょうか。

フードデリバリーの料理が傷んでいたら?
フードデリバリーの料理が傷んでいたら?

 コロナ禍で、飲食店の料理などを配達員が届ける「フードデリバリーサービス」の利用者が増えました。飲食店で注文番号を店員に言っている配達員や、自転車で、料理を入れたバッグを背負って走る配達員を見たことがある人は多いと思いますが、真夏は配達された料理が傷まないか、気になる人もいるでしょう。

 フードデリバリーサービスでは飲食店と配達員の2者が関わるため、責任の所在が分かりにくいと思いますが、もし、届けられた料理が傷んでいて、食後に腹痛など体調が悪化した場合、飲食店と配達員のどちらにクレームを言えばよいのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

責任の所在が不明確なケースも

Q.フードデリバリーサービスで届けられた料理が傷んでいて、食後、体に何らかの悪影響が出た場合、注文者は飲食店と配達員のどちらにクレームを言えばよいのでしょうか。

佐藤さん「フードデリバリーサービスについて、『食品を安全に届ける』ことは飲食店と、配達員、またはフードデリバリーサービスを提供している会社との間の契約内容になっています。そのため、配送過程に明らかな問題があり、その影響で食べ物がつぶれたり、腐ったりした場合は、配達員側が契約違反で債務不履行責任を負うことになります。具体的には、注文者は配達員ではなく、飲食店に返金や交換を求め、飲食店が配達員側に返金や交換によって生じた損害を求償するケースが多いでしょう。

食品衛生法では飲食店に対し、『自らの責任において安全性を確保する』よう努めることを求めており、料理の品質について、まず責任を負うのは飲食店だと考えられるからです。配達員は飲食店から運ぶことを委託されているにすぎず、フードデリバリーサービスの規約上でも、飲食店に返金や交換を求める取り決めになっていることが多いでしょう。

ただ、実際には、届けられた料理が傷んでいて、食後に腹痛など体調が悪化した場合でも、飲食店の調理や保管に問題があったのか、配送に問題があったのか、それとも、注文者の保管や食べ方に問題があったのか、明確に原因が分からないことも少なくありません。現状では、まずは飲食店が責任を負うケースが多いですが、実際のところは、誰が責任を負うのかがはっきりしないこともあり、この状態が続くと、注文者は不安を抱いたまま、サービスを利用し続けることになると思います。

今年2月には、フードデリバリーサービス事業を行う13社が一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会(東京都渋谷区)を設立し、食の安全や衛生管理を徹底するとともに、トラブルが生じたときの補償の在り方について、業界の指針作りに取り組もうとしています。こうした動きによって、補償の在り方が確立されていけば、注文者の安心感はより高まるでしょう」

Q.デリバリーサービスでは、企業に直接雇用された配達員もいれば、ウーバーイーツなど個人事業主の配達員もいます。届けられた料理が傷んでいた場合、店側は個人事業主の配達員にも責任を問えたり、賠償を求めたりできるのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、注文者は届けられた料理が傷んでいた場合、飲食店に対して返金や交換を求めるのが一般的です。飲食店が注文者に対して責任を果たした後、原因が配達員にあると考えられた場合、配達員に対して、返金や交換によって生じた損害の回復を求めることはあり得ます。

この場合、配達員が雇用されていれば、飲食店は雇用主である企業に対して責任追及することができます。一方、配達員が個人事業主である場合、原則として、フードデリバリーサービスを提供している企業は責任を負わず、飲食店は配達員個人にしか責任を追及できません。なお、配達員が個人事業主であったとしても、企業の指揮監督下にあるといった事実上の雇用関係にあったことなどが裁判所に認められれば、企業が責任を負う可能性もあります」

Q.フードデリバリーサービスで注文した料理を食べた後、腹痛など体調が悪化して医療機関で治療を受けたとき、治療費を飲食店に請求できるのでしょうか。

佐藤さん「フードデリバリーサービスの料理が原因で腹痛などを起こし、医療機関で治療を受けた場合は、飲食店側に治療費や慰謝料などを請求することができます。食中毒を引き起こす料理を提供することは債務不履行や不法行為に当たるからです」

Q.フードデリバリーサービスの中には、配達員が玄関前に荷物を置いて帰る「置き配」もあるそうです。置き配で届けられた料理が傷んでいたときは、注文者の自己責任になることもあるのでしょうか。

佐藤さん「置き配に限りませんが、フードデリバリーサービスの場合、飲食店内での飲食と異なり、注文者の保管や食べ方によって安全性に大きな影響を及ぼします。例えば、夏の暑い日に置き配されたまま、長時間、外に放置して料理が傷んだ場合は、注文者の責任が重く、飲食店が返金や交換に応じないということもあり得ます。食中毒を防ぐためには、注文者も早めに消費すること、保管が必要な場合はすぐに冷暗所で保管することなどが大切です」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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