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近畿大学は関関同立の壁を崩したのか 志願者数日本一、マグロも話題

入試や授業内容、学生の就職支援など、大学のさまざまな話題について、教育関連の情報発信に携わってきた筆者が解説します。

近大の図書館には、ソーシャルディスタンス用に「近大マグロ」の模型が(2020年6月、時事)
近大の図書館には、ソーシャルディスタンス用に「近大マグロ」の模型が(2020年6月、時事)

 2021年春の入学者を決める今年の大学入試一般選抜で、私立大学の志願者は12%減と激減しました。その中で、志願者数がトップだったのは近畿大学で8年連続の1位です。近年、入試の難化も始まり、少子化と相まって2018年をピークに志願者は減少し、今年も昨年より9371人、6.4%減少したものの13万5979人を数えました。

 大阪の、ある進学高の進路指導教諭は「『近大ならどこの学部でもいい』という生徒が増えている」と言います。「志願者数日本一」の効果もあって、近大の人気は高まり、「近大マグロ」のブランド化や著名人プロデュースによる入学式など、全国的な注目を集める機会も増えました。

 関西の私大としては長らく、「関関同立」の4大学がトップクラスとされてきましたが、近大はその“壁”を崩したといえるのでしょうか。

「関関近立」と呼ぶ人も

 志願者10万人超が当たり前になった近大ですが、躍進の理由はたくさんあります。その中で注目されるのが「改革力」の高さでしょう。筆者が常務を務める「大学通信」は全国約2000の進学校の進路指導教諭に毎年、アンケートを行っています。昨年は910校から回答があり、その中で「改革力が高い大学」はどこか聞いたところ、近大がトップ評価で、しかも5年連続です。

 最近の学部新設では、2010年に総合社会学部、2011年に日本初の建築学部、2016年に国際学部を設置しています。来年2022年には家庭用ゲーム機「プレイステーション」の開発者でもあった久多良木健(くたらぎ・けん)氏を学部長に、情報学部の新設を構想しています。

 研究力の高さも注目を集め、「近大マグロ」として有名になったクロマグロの完全養殖、ウナギ味のナマズの開発など、水産研究所の研究成果を受験生や保護者に分かりやすく伝えたことで注目度が高まりました。

 もちろん、どこの大学も研究には力を入れていますが、一般的には分かりにくく、受験生や保護者までは伝わらないのが普通でした。それを分かりやすく広報したことが評価されます。コロナ禍で昨年は開催されませんでしたが、それまではオープンキャンパスで養殖魚の試食会が行われ、人気を集めていました。

 卒業生のつんく♂さんがプロデュースした入学式も大きな話題になりました。その狙いは、第1志望だった他大学を不合格になって入学してきた学生も少なくない中、それらの学生が「近大で頑張ろう」という気持ちにさせるイベントという位置付けです。入試の面でも、日本で初めて、出願をすべてネットに切り替えました。今では私立大のほとんどがネット出願ですが、このような面でも先行していたのです。

 さまざまな改革を試み、志願者数も日本一となりましたが、では、関西の大学序列は変わったのでしょうか。関西では私立大は関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)のグループがトップとされます。近大は次の産近甲龍(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)のグループで呼ばれています。もちろん、さまざまなグループ分けがあり、最近では関関同立から、「頭一つ先行した」ともいわれる同志社大を外して、近大を加える「関関近立」という言い方も出てきました。

 ただ、入試の難易度について、近大と同じ系統の関関同立の学部を比べると、並んでいるものはあっても、近大が超えているものはありません。文系を中心とした関関同立と同じ系統の学部ではまだまだ、関関同立の方が難関ということになります。

 もちろん、難易度が大学の評価のすべてではありませんが、このグループ分けを頻繁に使うのが高校の進路指導教諭や受験生です。高校の大学合格実績の説明で、グループで合格者数を説明した方が分かりやすいということもあります。「関関同立が昨年の△△人から○○人に増えた」などです。そうなると、どうしても同レベルの大学のくくりになり、難易度での分類になります。

 一方で、近大には関関同立にはない医、農、建築、新設予定の情報学部など比較できない学部もあります。これらの学部では、近大は「関西の私立大トップ」といっていいでしょう。志願者数や改革力の評価で、関西どころか日本でトップをひた走り、知名度や人気も上昇している近大。関関同立の壁を崩したとまではいえなくとも、その一角に食い込みかけているとはいえるでしょう。

(大学通信常務 安田賢治)

安田賢治(やすだ・けんじ)

大学通信常務

兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、1983年に大学通信入社。現在、同社常務取締役で、出版編集とマスコミへの情報提供の責任者。小・中・高・大の入試から高校の大学合格実績、大学生の就職までの情報提供と記事を執筆、講演も多数。大正大学人間学部で講師も務める。著書に「中学受験のひみつ」(朝日出版社)、「笑うに笑えない大学の惨状」「教育費破産」(ともに祥伝社新書)がある。

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