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取得進まない現実? 男性の「育児休業」、理想的なあり方や期間は?

「積極的に育児に参加したい」と考える男性は増えているようですが、制度や企業の対応が追い付いていない現状もあります。男性の育児休業の「理想と現実」とは。

男性の育児休業、「理想と現実」は?
男性の育児休業、「理想と現実」は?

 年々、関心が高まる男性の育児休業。共働き家庭や「積極的に育児に参加したい」と考える男性の増加なども影響しているようですが、現状、そのような意識に制度や企業側の対応が追い付いていないのも事実です。

 育児休業は原則、最長1年の取得が可能ですが、男性が取得する場合、その期間については「1カ月では少なすぎる」「最低でも半年は取得してほしい」「本音としては子どもが2歳になる頃まで休んでほしい」「2~3カ月くらいがちょうどいい」「正直、1年間取得されるとちょっと長い」など、女性の中でも意見や考えに違いがあるようです。

 男性の育児休業の取得やその期間を巡る「理想と現実」について、子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに見解を聞きました。

出産直後の取得が望ましい

Q.まず、現在の日本における「育児休業制度」の内容と、男性の育児休業取得率について教えてください。

佐藤さん「育児休業制度とは、1歳に満たない子を養育する男女労働者が法律に基づいて取得できる休業のことで、労働者の申し出により、原則として、子どもが1歳に達するまで取得できます。父親・母親双方が協力して育児休業を取得できるよう、『パパ・ママ育休プラス』『パパ休暇』などの特例も設けられています。

パパ・ママ育休プラスとは、両親が共に育児休業を取得する際、要件を満たしていれば、本来は『1歳まで』の休業可能期間が1歳2カ月に達するまでに延長される制度です。また、パパ休暇とは、母親の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、特別な事情がなくても再度、父親が育児休業を取得できるという制度です。

ただ、こうした父親向けの制度は存在しつつも、実際の取得率は低いです。厚生労働省『雇用均等基本調査』によると、2019年度の育児休業取得率は男性が7.48%。2009年度が1.72%だったことを考えると上昇はしていますが、10年たってもまだ1割に満たない状態とも取れます。女性の取得率83.0%(2019年度)とは大きな開きがあるのが現状です」

Q.佐藤さん自身は、育児休業を取得する男性や取得を希望する男性が増えていると感じますか。

佐藤さん「私は日頃、育児に悩むご家庭の相談に乗っていますが、母親が1人で育児を抱えていることが子育てを大変にさせ、悩みに発展していることも多いので、むしろ、『父親の協力が得られない』というお悩みに遭遇する確率の方が残念ながら圧倒的に高いです。よって、正直、育児休業の取得を希望する男性が増えているとは全く感じていません。働いている母親がこれだけ増えているのに、まだまだ育児を母親に任せきりのご家庭も多く、育児休業以前の問題も山積みだと考えています」

Q.仮に男性が1年間の育児休業を取得した場合、期間中の育児について、父母が連携して動くことが特に望ましいと思われることは何でしょうか。

佐藤さん「実際は育児休業を取ることよりも、育児休業期間をどのように過ごすかが非常に大切です。つまり、取得したことで満足してしまわないことがポイントになります。『何をしていいか分からない』のは初めてのお子さんであれば、父親だけでなく母親も同じです。にもかかわらず、女性の方が早く“母親”になれるのはそれだけ、現場にさらされているからです。

赤ちゃんは生まれてから1年の間に身体面も認知面も大きく成長します。人見知りが起こるのも、過去のことが記憶できるようになり、『いつも一緒の人』とそうでない人を見分けられるようになるからです。『お母さん以外はだめ』という状態は普段、お父さんが一緒にいられないから起こってしまうので、育児休業が取れたのなら、その状態をつくらないためにも積極的に関わることが大事です。

いちいち確認しないと動けない状態にならないよう、育児書に書いてある最初の1年の成長段階は少なくとも頭に入れておき、とにかく実践してみることが大事です。特に新生児時代は、母親が夜中の授乳で極度の睡眠不足に陥りがちです。赤ちゃんのお世話だけでなく、母親の睡眠不足を補うサポートも求められるでしょう」

Q.男性の育児休業の期間について、女性の中では「最低でも半年間」「1年でも少ないと感じる」「2~3カ月でいい」「1年間は長過ぎる」など、さまざまな考え方があるようです。

佐藤さん「女性の中でも意見がさまざまなのは、ライフスタイルの違いや実家のサポートレベルなども影響していると思われますが、実際にご主人が育児休業を取った場合、『どれくらい助かるか』ということも想定しての意見だからではないでしょうか。

例えば、取得してくれることで明らかに助かる場合は『1年でも少ないと感じる』かもしれませんし、逆にもし、子どもとちょっと遊ぶ程度で『育児休業』と捉えているのなら、『2~3カ月でいい』と思うかもしれません。先述しましたが、大事なのは取得すること以上に『取得してどう過ごすか』です。取得する際、夫婦がいい形で連携できるような準備(父親教室など)をするのも助けになると思います。

実際、子どもの心理発達を踏まえれば、最初の1年に夫婦2人でたっぷり関わることができるのは非常に理想的です。父親がしっかり、子どもと関われる状態をつくっての育児休業であれば、長い方が望ましいといえるでしょう」

Q.各家庭の状況やライフスタイルの違いがあり、一概には難しいとは思いますが、男性が育児休業を取得する上での「理想的な期間(少なくともこのくらいは取得するとよいと思われる期間)」はどのくらいだと思われますか。

佐藤さん「育児は0歳には0歳の大変さがあり、1歳には1歳の大変さがあります。何歳なら楽というのはないのが子育てですが、それでもやはり、出産直後の大変さは経験した人にしか分からないつらさがあります。それを踏まえ、出産直後の半年程度が『このくらいは取得するとよいと思われる期間』に当たるのではないでしょうか。

授乳による睡眠不足で、母親の『とにかく寝たい』という訴えが多い時期なので、少しでも休息してもらい、父親が育児や家事をするという関わりは大きな助けになると思います。また、この時期に育児にしっかり関わることで、子どもとの精神的な絆であるアタッチメント形成にもつながります」

Q.ちなみに、これまでさまざまな国で暮らし、海外生活のご経験が豊富な佐藤さんからみて、海外の男性の育児休業や男性の育児に対する意識・行動について、どのような思いをお持ちですか。

佐藤さん「私がこれまでに住んだヨーロッパの国々を見ると、男性の育児に対する意識や行動はそれぞれ違うと思いますが、それでも日本と比べると、ヨーロッパの国同士は似ていると思います。

基本的にどこの国でも夜遅くまで働いていないので、夕食を家族で取れることのメリットは大きいです。日本は子どもに関わりたくても時間的に無理という人も多いと思うので、働く環境の改善は何より大事だと考えています。夫婦ともに時間がないことが子育ての問題や悩みにつながる部分が大きいからです。

フランスでは、男性の7割が出産直後の育児休業を取得しているといわれていて、実際に私がフランスで出産したときも主人が2週間の育休を取りました。これももう10年以上前の話で、当時の日本ではまだ100人に1人の取得率だった頃です。フランスでは2021年7月から、さらに育休制度が充実するのだそうです。

フランスの合計特殊出生率がEU加盟国の中で最も高い水準にあるように、子どもを産み、育てやすい国にするためには絶対的に環境を整えることが必要です。日本は『子どもを社会で育てる』という意識が諸外国と比べて低く、母親が孤軍奮闘し、何とかつないでいる状態なので、その依存を何としてもやめていかないと育児環境はますます悪化すると懸念しています」

(オトナンサー編集部)

佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)

公認心理師(児童心理専門)

ポジティブ育児研究所代表。育児相談室「ポジカフェ」主宰。英レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。現在は、ポジティブ育児研究所でのママ向けの心理学講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポートする活動をしている。著書に「子育て心理学のプロが教える 輝くママの習慣」(あさ出版)など。All About「子育て」ガイド(https://allabout.co.jp/gm/gp/1109/)を務めている。公式サイト(https://megumi-sato.com/)。

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