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給食の皿うどんで事故 「歯が欠ける」とはどういう状態? 原因や治療法は?

埼玉県内の小学校で、給食の「皿うどん」を食べて歯が欠けるという事故が発生しました。「歯が欠ける」とはどのような場合に起こり、どう治療するのでしょうか。

どんなときに歯が欠ける?
どんなときに歯が欠ける?

 埼玉県朝霞市の小学校で3月11日、児童と教師計7人が給食の「皿うどん」を食べて、「歯が欠ける」事故が発生しました。朝霞市教育委員会の発表によると、調理の際の揚げ過ぎで、皿うどんの麺が硬くなっていたことが原因のようです。

「歯が欠ける」とはどのような場合に起こり、どう治療するのでしょうか。また、硬い食べ物に負けないよう、歯を強くすることはできるのでしょうか。歯科医師の中村貢治さんに聞きました。

歯ぎしり、食いしばりも原因に

Q.「歯が欠ける」という状態や主な原因を教えてください。

中村さん「『歯が欠ける』というのは、主に歯の頭部分(エナメル質など)に実質的な欠損が生じることをいいます。簡単にいうと、歯が一部損失するということです。起こり得る事象としては、硬い物を食べて、その硬さに耐えられずに欠ける場合や虫歯などで歯の質が弱くなっていて欠ける場合があります。子どもの場合、鉄棒などにぶつけてしまうといった事故で欠ける場合もありますし、大人の場合は歯ぎしり、食いしばりが原因のこともあります」

Q.朝霞市のケースは「揚げ過ぎた麺」が原因のようですが、食べ物で歯が欠ける事例は多いのでしょうか。

中村さん「硬い食べ物で歯が欠けることは、比較的よくあります。例えば、ホタテの貝柱の干した物、草加せんべいなど硬いせんべい、アイス類など、さまざまです。食べ物だけでなく、鉛筆、ボールペン、ナイフやフォークなどの金属食器、カニの甲羅などをかんで欠けることもありますし、常識では考えられませんが、瓶のふたを歯で開けようとした場合や、固く縛ったひもをほどこうとして、ひもをかんで歯が欠けたという珍しいケースもあります」

Q.歯が欠けた場合、どのように治療するのでしょうか。乳歯と永久歯で違いはありますか。

中村さん「歯が欠けた程度により治療法は変わります。乳歯でも永久歯でも、エナメル質のみの欠損の場合は、歯と同じような材質であるレジン(樹脂製の詰め物)で充填(じゅうてん)する(埋める)治療をします。さらに、エナメル質の内側の象牙質まで欠損している場合は、歯の神経である『歯髄(しずい)』まで達していなければ、レジンでの充填、もしくは歯全体に『冠』をかぶせることで対応できます。

冠の材質は部位によって健康保険が利用でき、前歯から真ん中の小臼歯(しょうきゅうし)までは、金属と白い材質(ハイブリッドレジン)を用いた治療が保険で可能です。大臼歯においては、ほとんどが金属の冠ですが、条件によっては白い材質の冠をかぶせることができます。

歯髄(歯の神経)まで達している場合は成人であれば、『抜髄(ばつずい)』といって神経の処理をします。つまり、歯の神経を抜く治療です。子どもの場合は小さな露出であれば、神経を保護して保存する方法を取ることもあり得ますが、基本的には、子どもも抜髄(神経を除去)処置がメインとなります。

また、乳歯が欠けた場合、年齢によっては永久歯が生えるのを待つというケースもあり得ます。前歯であれば、6歳程度なら1年ぐらいで生え替わります。12歳から15歳程度であれば、奥歯も生え替わるまで待つということもありますが、欠けている範囲や神経の露出の有無など、ケースによって、その対処は異なります。歯科医院で状況を確認してもらい、適切な処置をしてもらうことが肝要です」

Q.欠けた歯の破片が見つかった場合、つなぎ合わせることはできるのでしょうか。

中村さん「応急処置的に破片を歯科専用の接着剤で付けることはできますが基本的に、一度欠けた歯は骨とは違い、つなぎ合わせても接着することはありません。歯科医院に持参してみれば、その是非は分かると思います」

Q.歯が欠けないように硬くする、あるいは歯を強くすることはできるのでしょうか。

中村さん「『歯を強くしたいのであれば、カルシウムを摂取しなさい』とよく言われますが、多く摂取するほど歯が強くなるというわけではありません。歯の基本的な強度は決まっていますので、適度にカルシウムやリンを摂取することで、その強度を保つというのが現実的です。

ただし、カルシウムやリンが不足し過ぎると歯の強度が低下することがあります。そのため、食生活では適切に栄養を摂取すること、歯の手入れとしては食後30分ほどの間に歯磨きをすることで強度を保ちましょう。また、フッ素入りの歯磨きや洗口剤を使用することで、歯の質を高めることはできます。ただし、それをしたから歯が強くなるという認識は誤解です。歯の質が高まっても、それで硬い物が食べられるようになるというわけではありません」

Q.歯を大事にするためには、硬い食べ物は避けた方がよいのでしょうか。それとも逆に、鍛えるために食べた方がよいのでしょうか。

中村さん「先ほど述べた通り、基本的には、しっかりとした食生活をすることで歯の質は保たれます。硬い物を食べたからといって、歯が硬くなるわけではありません。ただし、硬い物を避けて、やわらかい物ばかり食べていると、これは推測ですが栄養が偏り、歯自体が弱くなる可能性が高いです。カルシウムやリン、亜鉛など必須栄養素をしっかりと摂取することが大切です」

(オトナンサー編集部)

中村貢治(なかむら・こうじ)

歯科医師

神奈川歯科大学大学院時代、NASAでの宇宙実験で博士号を取得。その後、神奈川歯科大学放射線学教室医局長、大学講師を経て、中村歯科医院を開業。現在は一般社団法人小倉歯科医師会理事、一般社団法人福岡県歯科医師会部会部員など、診療だけでなく社会活動にも従事。中村歯科医院ホームページ(https://www.nakamura-ct-dc.com/)。

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