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生徒の健康、福祉…震災10年で思う「学校」の価値、次世代をどう育てるか

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

避難所となった学校の廊下で勉強する子どもたち(2011年4月、時事)
避難所となった学校の廊下で勉強する子どもたち(2011年4月、時事)

 新型コロナウイルス感染症がなかなか終息しない中、3月11日、東日本大震災から10年の節目を迎えました。この10年間で、改めて痛感させられたのが「学校」の重要性です。コロナ後の「ニューノーマル(新常態)」の世界がますます不確実性を帯びる中、未来志向で学校を発展させる必要もありそうです。

当たり前に存在していた学校

 当たり前のように存在していた学校に通えない状況が続いた中で、子どもたちや各家庭の日常において、学校がどれだけ大きな存在であったのかということが改めて浮き彫りになった――。中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)は1月の答申で、こう指摘しました。昨年3月から、新型コロナの感染拡大防止のため、全国で最長3カ月間の臨時休校措置が行われたことを受けたものです。

 この指摘はまさに、10年前の被災地にも当てはまることです。当時も子どもたちの「学習機会の保障や心のケアなどに力を尽くし」(中教審答申)たのが学校の教職員でした。自らも被災者でありながら、避難所となった勤務校で公務員の一人として地域住民のお世話にも追われつつ、児童生徒の安全確認と心身の安定に走り回り、学校再開に向けて尽力していた姿が思い起こされます。

 熊本地震(2016年)、九州北部豪雨(2017年、2019年)、大阪北部地震(2018年)、北海道胆振東部地震(同)…この10年の間も、日本列島はさまざまな自然災害に襲われてきました。その都度、被災地では先のような学校・教職員の姿が見られました。

 学校は「学習機会と学力を保障するという役割」だけでなく、全人的な発達・成長を保障する役割や人と安全・安心につながることができる居場所・セーフティーネットとして「身体的、精神的な健康を保障するという福祉的な役割をも担っている」(中教審答申)ことも浮き彫りとなりました。全国どこでも災害に襲われるかもしれない時代の学校は、そうした点も考慮に入れておく必要があるでしょう。

未来を切り開く教育とは

 今後の学校の在り方を考える際に参考となりそうなのが、経済協力開発機構(OECD)の提言です。OECDは東日本大震災の被災地視察で目の当たりにした、日本の学校や教職員の役割に注目、復興支援として「OECD東北スクール」を展開する中で新たな教育の在り方を試行しました。それを契機に2015年から始めたのが「Education2030プロジェクト」で、日本をはじめ各国の英知を集めて、未来の教育の在り方を世界に向けて提言しようとしています。

 2019年に公表した学習枠組み「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」では「VUCA(ブーカ=より変わりやすくて不確実、複雑で曖昧=)」な世界に、子どもたちが「エージェンシー(変革を起こすために自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力)」を発揮して、自他はもとより、地球規模の「ウェルビーイング(人々が心身ともに幸福な状態)」を目指す理念が掲げられています(白井俊「OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来」、ミネルヴァ書房)。

 震災やコロナ禍はまさに、VUCAの代表例です。くしくも、「Education2030プロジェクト」と同時並行で改訂した新しい学習指導要領はコロナ禍の下で全面実施(小学校は2020年度から、中学校は2021年度から)の時期を迎えています。一方で、小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が過労死ラインを超えて働いている(文科省2016年度調査)という現実もあります。

 日本と世界が災禍を乗り越え、困難な時代を切り開く次世代を育てるためにも、改めて、学校の重要性とそのための充実策をこの機会に考えたいものです。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。

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