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欧米は制限、日本は「Go To トラベル」で緩和 経済や正常化優先で問題ない?

欧米では、新型コロナウイルスの感染が再拡大する一方、日本では「Go To トラベルキャンペーン」などにより、人の往来が活発になっています。本当に問題ないのでしょうか。

「Go To トラベル」で東京発着が対象になって最初の週末、にぎわう東京・浅草(2020年10月、時事)
「Go To トラベル」で東京発着が対象になって最初の週末、にぎわう東京・浅草(2020年10月、時事)

 欧米では、新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加傾向にあり、各国政府は飲食店の夜間営業禁止など市民の活動を制限することで、感染者の食い止めを図っています。一方、日本では、経済立て直しを目的に「Go To トラベルキャンペーン」(旅行代金の一部を国が負担する制度)が7月から実施され、週末ともなれば、観光地は多くの人でにぎわっています。また、企業の中には、これまで実施していた在宅勤務から、出社しての勤務へと移行する動きもあり、春先から続いていた自粛ムードが緩和されつつあります。

 確かに、経済の立て直しや日常生活の正常化も大事ですが、この時期に緩和しても問題ないのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

これまでの対策継続が大切

Q.世界の国々とは対照的に、日本では「Go To トラベル」により、人の動きが活発になるなど緩和ムードが広がっています。これからの時期はインフルエンザなどの感染症が流行しますが、そんなときに自粛を緩和しても問題ないのでしょうか。

森さん「制限緩和は社会経済活動の活発化という側面から必要と考えられており、現在の日本の政策は『感染防止策の徹底と社会経済活動の両立』という方針に基づいて進められています。

一方、日本における感染確認数は8月上旬の最大値からは減少しているものの、緊急事態宣言が出された4月上旬と同水準の報告が続いています。新規感染者が出ていない、あるいは数人で推移している県が多い中、東京を中心とする首都圏、大阪、沖縄などでは2桁、3桁の報告が続いており、特に東京では7日間平均で180人前後の高い水準で推移しています。

これは感染再拡大への警戒が必要な状況であり、感染者の集団(クラスター)が複数発生していることにも警戒が高まっており、『問題ない』とはいえません。入院患者を受け入れている医療機関に長期にわたり、大きな負荷がかかっていることも事実です。さらに、ヨーロッパやアメリカでは感染が再拡大しているため、今後、渡航自粛勧告の緩和や入国規制を緩和する際は、相手国の状況を見て慎重に対応する必要があります。

一方で、20代、30代を中心とした無症状感染者も多く、重症者も横ばいで推移しているため、直ちに『医療崩壊』が起きる状況は回避できています。感染リスクの高い環境や行為が明らかになり、個人や店舗、施設などがより効果的な対策を取ることで新規感染者を食い止めているともいえます」

Q.在宅勤務を段階的に解除する企業が増えつつありますが、本当に問題ないのでしょうか。

森さん「感染拡大防止という視点だけで考えれば、オンラインを活用した在宅勤務が望ましいとは思いますが、業界、業種、規模によって、従来の働き方が求められる企業もあり、そういう企業や職種では在宅勤務の解除はやむを得ないと思います。

しかし、在宅勤務を解除した多くの企業で、マスク着用や換気、体調が悪い場合は出社させないなどの基本的な感染予防策に加え、ウェブ会議システムが浸透したり、時差出勤が導入されたり、週休を増やしたりするなど『ウィズ コロナ』の働き方が取り入れられています。今後、対面を前提にしない営業活動、ネットワークのセキュリティー対策、オンライン決済などが社会的に進めば、さらに働き方は変わると思います。

企業にとって大切なのは社員を守ることであり、働く環境の感染リスクを下げることはもちろんですが、感染者が発生した場合の対応についてもシミュレーションしておくことが必要ではないでしょうか」

Q.もし、勤務先で在宅勤務が解除された場合、気を付けるべきことはありますか。

森さん「まずは、基本的な感染防止対策を徹底することが大切です。『小まめな手洗い』『換気』『人と人との距離を十分に取る』『飛沫(ひまつ)が飛ぶのを防ぐためマスクを着用する』『密集した場での会話を控える』『事務用品や文具の貸し借りを避ける』などです。可能であれば、時差通勤や徒歩、自転車、自家用車での通勤を検討するとよいでしょう。

特に注意が必要なのは、近い距離で話しながら昼食を取ったり、『密』になった更衣室で話をしながら着替えたりすることです。休憩室や更衣室は人と人との距離を取りにくいことが多く、換気できない場合もあります。リラックスする場ではありますが、できるだけ会話は控えるよう心掛けましょう。また、社内行事での大人数の会食などは必要性を慎重に検討してください」

旅行で気を付けるべきことは

Q.「Go To トラベルキャンペーン」を利用し、旅行に行く人が増えています。これからの時期、旅行に行く際の注意点や心掛けるべきことについて教えてください。

森さん「大勢の人が広範囲に移動することで感染拡大のリスクは高まります。『Go Toトラベル事業』の実施に当たり、国も『小規模で分散型の旅行』を推奨しています。少人数で、可能であれば、週末に偏らない日程を組み、行き先の検討も従来とは違った視点が必要かもしれません。

その上で、『発熱がないことを確認する(発熱がある場合は旅行を取りやめる)』『通勤時間帯を避けて移動する』『特別な理由がなければ、マスクを着用する(飛沫を飛ばしたり、受けたりしないため。手で口や鼻を触らないため)』『人と人との距離を保つよう心掛ける』『混み合う場所を避ける(駅や空港の待合室なども注意)』『可能であれば、小まめに石けんで手を洗う(または手指消毒)』 『飲食店やサービスエリアなど不特定多数が密になる可能性が高い場所ではマスクを外したまま大声で話さない』など『感染する』『感染させる』リスクを下げるための行動が求められます。

宿泊を伴う場合は、ホテルや滞在施設の感染対策に沿った行動を基本とすることが大切です。共有スペースを利用する場合は、お互いが不安なく過ごせるよう心掛けましょう」

Q.今後、新型コロナウイルスの感染者数が夏よりも増える可能性はありますか。また、「Go To トラベル」が感染者数の増加に何らかの影響を与える可能性はありそうでしょうか。

森さん「『Go Toトラベル』を利用したかどうかは分かりませんが、旅行や帰省から戻ってきた後に感染が確認された人がいることは確かです。何らかの影響を与えるとは思いますが、感染者数が夏より増えるかどうかは分かりません。

旅行における感染リスクは移動や観光という行為そのものよりも、訪れる場所の環境や旅行者の行動が大きく影響すると考えられます。大規模な『Go To キャンペーン』が実施される中、今のところ、各自が十分な対策を取ることで感染者の急増は抑えられているのではないでしょうか。ただし、キャンペーンが続くことによる『慣れ』には注意が必要で、引き続き感染対策の徹底が大切です」

Q.新型コロナウイルス対策に関する今後の課題はありますか。

森さん「日本国内で1例目の新型コロナウイルス感染が明らかになってから、9カ月が経過し、感染リスクが高まる場面や行為、重症化する人の傾向が明らかになりました。検査や医療の体制も整備され、重症化を防ぐ有効な治療法も示されています。このような知見から、感染拡大させないためには暮らしの中で何が重要なのかが分かってきました。

すべての場面で常に緊張し、不安な気持ちで過ごす必要はありません。これからは個々の場面で、必要で適切な感染対策を抜かりなく実施するメリハリが大切です。科学的知見と経験を生かした感染対策を実践することが今後の課題ではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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