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教科書見直しも? 進む教育のデジタル化、財政問題で注目される菅内閣の判断

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

菅義偉首相(2020年10月、時事)
菅義偉首相(2020年10月、時事)

 菅義偉内閣が発足して、1カ月がたちました。安倍晋三前首相は「教育再生」を内閣の最重要課題の一つに掲げましたが、菅首相の下で教育政策がどうなるか、現段階では見えてきません。唯一、さらに進みそうな施策があります。教育のデジタル化です。遠い先のことと思われていたデジタル教科書の無償化まで、視野に入ってきそうな勢いです。

平井担当相がデジタル化を提案

 平井卓也デジタル改革担当相と河野太郎行政改革担当相は10月2日、萩生田光一文部科学相と「2+1」会合を行い、オンライン教育について意見交換しました。これについて、平井デジタル相は同6日の記者会見で「1人1台の端末が配備されることを前提に教科書は原則、デジタル教科書にすべきではないか」などとして、教科書制度の見直しを提起したことを明らかにしました。

 これに先立つ9月29日、文部科学省は2021年度概算要求に「学習者用デジタル教科書普及促進事業」として、国公私立を問わず小学5、6年生に1教科分、中学校の全学年に2教科分のデジタル教科書を支給する経費の全額を国が負担することを盛り込みました。デジタル教科書のコンテンツをクラウドで配信するための実証実験という位置付けです。

 デジタル教科書をめぐっては2019年度から、紙の教科書に替えてデジタル教科書を使用できるという制度化が行われました。新学習指導要領に合わせた検定教科書では、小学校(2020年度から使用)の94%、中学校(2021年度から使用)の95%でデジタル教科書が発行されます。

 ただし、導入の効果や健康上の影響なども考慮して、まずは原則として、授業時間数の2分の1未満という制約を付けています。今後、この規制を撤廃するかどうかも論点になります。

1人1台は経産省の働き掛けで

 教育のデジタル化をめぐってはそもそも、1人1台端末でさえ先の話と思われていました。というのも、学習者用コンピューターの整備は地方交付税で措置されてきたため、自治体が予算化しない限り、公立学校での整備が進まなかったからです。

 文科省と総務省は2014~2017年度に毎年1678億円、2018年度からは毎年1805億円を措置し(2022年度まで)、せめて、3クラスに1クラス分、授業で使いたいときに1人1台が使える環境を整備しようとしてきました。しかし、2020年3月1日の段階で、1台当たりの児童生徒数は4.9人と目標値の3.6人には依然として及びません。

 そうした中、安倍内閣の下、2019年度補正予算で「GIGAスクール構想」が打ち出され、補助金を加えることにより、国公私立を問わず2023年度までに1人1台環境を整備する工程表を作りました。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大による臨時休校措置の長期化で、家庭でのオンライン教育の必要性が急浮上したため、2020年度補正予算で、整備目標を本年度中に前倒しすることにしました。両補正により投入される国費は計4610億円に及びます。

 国費投入に当たっては、文科省とは別に「未来の教室」事業を進める経済産業省サイドからの働き掛けがあったといいます。地方分権や財源移譲の観点から、地方交付税でしか措置できないと思い込んでいた文科省にとっては虚を突かれた格好でした。

 このように、安倍・菅内閣では棚ぼたのように教育のデジタル化が進んでいます。ポストコロナや「新しい日常」の下、学校現場にとっては、対面とオンラインを組み合わせた授業の「ハイブリッド化」が課題です。一方、教科書化のデジタル化をめぐっては、文科省の実証事業だけでも52億円を計上しており、現在の紙の教科書と同様、全教科をデジタルで無償支給する場合、国にとっては多額の財政負担がのし掛かることになります。

 新型コロナ対策で財政支出や国の借金が膨らみ、税収減も予想される中、菅内閣の判断が注目されます。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。10月22日に「学習指導要領『次期改訂』をどうする―検証 教育課程改革―」(ジダイ社)を刊行。

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