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捜索に多くの税金…災害で「川、田んぼを見に行く」と外出する人の心理とは?

台風が接近したり、大雨の予報が出たりしているときに「川を見に行く」「田んぼを見に行く」と言い残して外出し、被災する人がいます。なぜ、そのような行動をするのでしょうか。

「常総水害」で、冠水した住宅地を捜索する自衛隊員(2015年9月、時事)
「常総水害」で、冠水した住宅地を捜索する自衛隊員(2015年9月、時事)

 6月に入りました。九州南部や四国などで既に梅雨入りの発表があり、全国的にも自然災害が増えるシーズンが近づいています。

 自然災害といえば、台風が接近したり、大雨の予報が出たりしているときに「川を見に行く」「田んぼを見に行く」と言い残して外出し、川や田の近く、あるいは、そこへ向かう途中で被災したという報道が毎年のようにあります。なぜ、危険が予想される中で、そのような行動をとってしまうのでしょうか。

 防災心理に詳しい、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授の島崎敢さんに聞きました。

多くの人は軽いやじ馬根性から…

Q.台風が接近したり、大雨の予報が出たりしているときに「川を見に行く」人は、なぜ、そのような行動をとるのでしょうか。

島崎さん「『自宅が流されるんじゃないか』といった不安から、様子を見に行く人もいるでしょうが、好奇心からの人もいるのではないでしょうか。不安に感じる人が川を見に行くのは、川の様子を見て、『まだ大丈夫だ』と不安を鎮めたいのかもしれませんし、『本当に危険そうであれば避難しよう』と思っているのかもしれません。

好奇心から見に行く人については、大災害は珍しいことなので、その場の好奇心も満たされますし、目撃者となっておけば、後にも『あのときはこうだった』的なことを語れそうです。最近では、SNS上で投稿すると大きなリアクションがある場合もあり、ますます『見て記録に残しておきたい、発信したい』という欲求が強くなっているのかもしれません。

不安感から見に行く人を除いて、ほとんどの人は、まさか自分が流されるとは思っておらず、軽い気持ちのやじ馬根性で行っているのではないかと思います。どのくらい危険なのか、事の重大さが分かっていないが故の行動でしょう。

大きな災害は一生のうちにそう何度も経験できるものではないので、どのようなことが起きるのか、町がどうなってしまうのかイメージが湧いていないのかもしれません」

Q.台風や大雨の際、「田んぼを見に行く」という人もいます。これはなぜでしょうか。

島崎さん「こちらは仕事上、やむを得ないことと思われます。降水量に応じて、田んぼの水位を調整するため、水門の開け閉めや水路の詰まりなどに対応する必要があるそうです。こちらは好奇心などではなく、仕事として、生活を守るために行っているのでしょう。

農家の人たち同士では『見に行く』で意味が伝わると思いますが、正確に言えば、『田んぼを見に行って、必要があれば、対応作業をしてくる』ということでしょう。報道では大抵、『田んぼを見に行くと行って出掛け、被災した』としか伝えないので、農家の事情を知らない人は、やじ馬と同じように思ってしまうのかもしれません。

このように、農家の皆さんにはやむを得ない事情があるようですが、危険な行動であることには変わりないので、記録的な雨が降っているときなどは、諦める勇気を持つことも必要かと思います」

Q.台風の接近や大雨の中で、川や田んぼを見に行くことの危険性について改めて教えてください。

島崎さん「水の力は大変強いので、膝下ぐらいの水位でも足をすくわれます。また、自分がいる場所の雨量は大したことがなくても、上流の雨やダムの放流などで急激に水かさが増す場合もあり、その場所に取り残されることがあります。さらに、水で穴や溝などが見えなかったり、水以外のいろいろなものが流れてきたりするのでとても危険です」

Q.台風が通過したり、雨がやんだりした後で川や田んぼを見に行く人もいます。その心理と危険性を教えてください。

島崎さん「雨がやんだら、『嵐は過ぎ去った』と思う人が多いのでしょう。それに加えて、先述した好奇心や不安感、農業の仕事の問題もあります。しかし、実際には、川の水位のピークは雨のピークより少し後ろにずれます。流域が広い川の上流の方で降った場合などは、ずっと後になってからピークが来ることもあります。

こういうことが、あまり知られていないのも問題ですね。実際に、2015年9月の常総水害では、堤防の決壊や越水から2日以上たってから、たくさんの家が水没しています」

Q.川や田んぼを見に行かずに不安感を和らげることができる方法があれば、教えてください。行政のライブ映像活用や、ウェブカメラの取り付けは解決策になるでしょうか。

島崎さん「ウェブカメラなどを取り付ければ、川や田んぼに行かなくても見ることはできますが、見たからと言って不安が解消されるわけではありません。また、カメラを見て、『まずい状況だから対処しに行く』という人が出てくるかもしれません。

やじ馬根性は別として、不安感に対しては危険性に関する正しい教育と、被害が発生してしまった場合の補償制度がきちんとしていれば、危険を冒さずに安心して安全な場所に避難できるのではないでしょうか。新型コロナウイルスの影響による、行政からの休業要請と同じですね。

ちなみに、人が1人(以上)流されると、捜索に多大な税金が使われます。捜索時点では生死が分からないので、国民の命を守るために国が総力を挙げて捜索するのは当然だと思いますし、捜索費用がご本人や家族に請求されることはありません。

一方で、炎上を恐れずに言うと、軽率な行動をとらなければ多大な税金をかけずに済みますし、捜索に当たる人たちの命を危険に晒(さら)すこともありません。『死なないこと』はご本人や家族にとってだけでなく、災害対応に当たる人たちや地域の災害復興にとっても、大変重要なことなのです。

田んぼの調整をしに行く人も、行かずに作物がだめになってしまえば確かに生活は困窮するかもしれませんが、その場で流されて死んでしまうよりはマシです。まずは安全な場所で過ごすことで、ご自分の命を、そして、捜索に行く人たちの命や税金も守っていただけるとありがたいです。

そのためのリテラシーを広める活動もとても大切です。みんなが災害の危険性を理解し、川や田を見に行って流される人がいなくなって、捜索にかけるお金を減らし、その分を作物がだめになった人の補償に回せるといいですね」

(オトナンサー編集部)

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