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最前線で奮闘 医療従事者への感謝示すライトアップ、なぜ「青色」?

新型コロナウイルス感染症患者の治療に携わる医療従事者に、感謝の気持ちを示すライトアップが行われていますが、なぜ「青色」なのでしょうか。

青くライトアップされた熊本城(2020年4月、時事)
青くライトアップされた熊本城(2020年4月、時事)

 新型コロナウイルス感染症患者の治療に最前線で携わる医療従事者に感謝の気持ちを示そうと、施設を「青色」にライトアップする取り組みが全国各地で行われています。東京都庁や東京スカイツリーで行われているのは有名ですが、数多くある色の中で「青色」を採用している理由は、あまり知られていないのではないでしょうか。

 なぜ、ライトアップの色は「青色」なのか、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

ライトアップは英国から開始

Q.医療従事者に感謝の気持ちを示そうと、施設をライトアップする取り組みが全国各地で行われています。どのような背景からライトアップが始まったのですか。

森さん「2020年3月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、厳しい『外出禁止』が導入されていたイギリスで、医療や介護に従事する全ての人と、イギリスの国民保健サービス『NHS(National Health Service)』への感謝の気持ちを込めて、一斉に拍手を送るキャンペーンが行われました。同時に、ロンドンを象徴する観光スポットが青色に照らされました。

これは『Make It Blue』『Light It Blue』といったキャンペーンとして、ソーシャルメディアを中心にイギリス全土に広がり、4月上旬にアメリカ112都市、中旬にはスペイン、そして、アジアへと世界的な広がりを見せ、日本では4月中旬から始まりました。現在までに、札幌市時計台、東京スカイツリー、大阪城、熊本城など全国各地の多くの建物や施設が青くライトアップされています」

Q.なぜ、ライトアップの色は青色なのでしょうか。例えば、医療関係者の手術着は青っぽい色ですが、医療と青色には何か深い関係があるのでしょうか。

森さん「キャンペーン発祥国イギリスの国民保健サービス『NHS』のシンボルカラーが青色だったからです。青色そのものが、特に医療と関係が深いというわけではありません。ちなみに、医療従事者の手術着に青っぽい色が多いのは、手術中に血液の赤色を見続ける医療従事者の視覚を補うためと言われています」

Q.こうしたライトアップは、感謝の気持ちを示す以外に、どのようなことを期待して行われているのですか。

森さん「ライトアップは自然発生的に始まった感謝の表現ですが、医療の最前線を支えてくれている人たちへ感謝の気持ちを表すことで、“思いを一つにしてウイルスと向き合う”ことの大切さを気付かせてくれるのではないでしょうか。

しかし、そのような取り組みの一方で、感染リスクのある仕事をする人たちやその家族に心ない言葉を投げつけたり、不適切な対応を取ったりするなどの問題も表面化しています。今後、多くの人がこのライトアップ活動の意味を知ることにより、そうした中傷や差別的な行為がなくなることにもつながってほしいと願います」

Q.医療従事者は正直なところ、こうしたライトアップの取り組みをどのように思っているのでしょうか。

森さん「もちろん、『励まされる』『うれしい』と受け取ってくれる医療・介護従事者の声もあります。しかし、新型コロナウイルス感染症を治療する医療現場や、感染を防がなければならない医療・介護現場の人たちは、ライトアップを見る余裕がないほど忙しいというのも現実ではないでしょうか。

重症者の治療は24時間態勢で、通常の倍以上のスタッフが必要ですが、人員配置に全く余裕のない状態が現在も続いています。また、感染を防がなければならない病院や介護施設では、いまだに防護衣やフェースシールド、医療用マスクが不足しており、集団感染を出さないために強い緊張感のある状態が続いていると聞きます。

外出自粛の成果が出て感染拡大のスピードが落ち着き、私たちの感謝を込めた青色のエールを思い出してもらえる時期が少しでも早く来るといいですね」

Q.自らの感染のリスクを抱えながら治療にあたる医療従事者のために、ライトアップ以外で私たちができる行動は何でしょうか。

森さん「寄付や医療資材の寄贈など、資金や物資の面で支えることの他に、今すぐ誰でもできることがあります。『感染しない、させない』ためにできることの継続です。緊急事態宣言が延長となったものの、大型連休が終わり、再開するお店や施設、出社が必要な人たちが増えてきていますが、(1)マスクの着用(2)小まめに丁寧な手洗い(3)人と人との距離を一定以上離す――などの習慣はこれまで同様に大切です。

また、感染リスクが高いといわれる『3密(密閉、密集、密接)』を避けることも引き続き必要です。経済活動や社会活動が再開される中で、感染リスクを下げる『新しい生活様式』を取り入れていくことが、感染拡大を防ぎ、その結果、医療従事者を支えることにつながるのではないでしょうか」

Q.新型コロナウイルス感染症の有無を確かめるPCR検査の検体搬送、患者の聞き取り調査などを行う保健所職員も厳しい状況に置かれています。私たちは、医療従事者だけではなく、保健所職員への感謝も必要だと思われますか。

森さん「新型コロナウイルスの感染拡大を抑え、終息に向かわせるための私たちの生活は、医療・介護従事者の他にもさまざまな職種の人たちによって支えられています。特に、感染症対応の中心となる保健所は電話相談、検体回収、聞き取り調査、入院調整など役割が多岐にわたり、職員は多忙を極めていると聞きます。

また、スーパー、コンビニ、ドラッグストアの店員さんや公共交通機関の関係者、ごみ収集を担当する人たちなど、私たちの生活維持のために欠かせない仕事に従事している人たちも大勢います。

こうした人たちに感謝の気持ちを示すことは大切ですが、新たにキャンペーンのような取り組みをすることよりも、一人一人に『ありがとう』の気持ちを持って接することや、感染拡大をさせないためにできることを徹底することが、一番伝わる感謝の気持ちではないでしょうか。青色のライトアップは、支えてくれる全ての人への感謝の意味を持っていると思います」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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