オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

近所の「火事」に自宅が巻き込まれ延焼…火元の住人に賠償請求はできる?

近所の住宅で発生した火事に自宅が巻き込まれ、全財産を失った場合、火元の住人に賠償請求できるのでしょうか。

新潟県糸魚川市での大火災(2016年12月、時事)
新潟県糸魚川市での大火災(2016年12月、時事)

 新聞やテレビで住宅火災のニュースが報じられることは珍しくありませんが、どこか人ごとに聞こえてしまうかと思います。ただ、ある日突然、近所で発生した火事に巻き込まれて自宅が全焼し、現金や預金通帳、家財道具といった全財産を一度に失う可能性もゼロではありません。もし、隣家、あるいは近所で発生した火災の延焼で財産を失った場合、火元の住人に賠償を求めることはできるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

ポイントは「重過失」の有無

Q.隣家、または近所の住宅で発生した火災で自宅が全焼し、財産を失った場合、火元の住人に賠償を求めることはできるのでしょうか。

井上さん「財産を失った人は、火元の住人に対して、『失った財産を弁償しろ!』と言いたくなると思います。しかし、『失火の責任に関する法律』と呼ばれる法律があり、火災によって失われた財産については、火元の住人に賠償を請求することはできないとされています。

日本の家の多くは木造で、家を建てる土地もあまりないため、密集して建てられています。このような住宅事情では、一度火災が起きると、瞬く間に隣近所へ延焼してしまうことがあります。その全てについて賠償を請求することは、火元の住人にとってあまりにも酷です。

そこで、火元の住人に『重過失』、つまり人が当然払うべき注意を甚だしく欠いた行為がない限り、損害賠償責任を負わせないこととしました。つまり、火元の住人に重過失がない限り、賠償は請求できないのです」

Q.重過失と見なされる行為には、どのようなものがありますか。

井上さん「例えば、てんぷら油を火にかけたまま台所を離れたことにより火事になった場合や、寝たばこが火災につながると知っていたにもかかわらず、寝たばこをして火事になった場合などです」

Q.火元の住人に重過失がない場合、巻き込まれた側は家や財産を失ったままになるのでしょうか。

井上さん「先述の通り、重過失がない限り、火元の住民に失った財産の賠償を求めることはできません。そのため、各自の責任で火災に備えることが必要で、火災保険加入は必須です。貯蓄が豊富にある人であれば、火事になっても、また新しい家や家具を買いそろえられるでしょうが、多くの人は、すぐに新しい家や家具を買うだけの余力はないでしょう」

Q.火災保険に入っていたら、失った財産分が全額返ってくるのでしょうか。また、自宅や自室が火元の場合と、隣家や隣室の火事に巻き込まれた場合で補償額に違いはあるのでしょうか。

井上さん「返ってくる金額は保険の契約内容によります。火災保険は、火災で失った建物や家財について再度購入する場合にいくらかかるかを予測し、その価格によって保険の補償範囲を決めていることが多いです。あくまで、補償の範囲内の保険金が支払われるだけで、建物や家財を購入するのにかかった金額とイコールになるとは限りません。自宅や自室が火元の場合と、隣家や隣室の火事に巻き込まれた場合についてですが、多くの場合、補償額に違いはないようです」

Q.火事で財産を失った場合、まずすべきことは。

井上さん「まずすべきことは、保険会社への連絡です。加入している保険会社に連絡し、どのような手続きが必要なのか確認しましょう。同様に免許証、クレジットカード、預金通帳などについても、警察やカード会社、銀行に連絡し、再発行の手続きをすることになります。

例えば、免許証の場合、管轄の運転免許試験場や警察署で再交付の申請手続きを行います。即日交付のところもあれば、2、3週間程度かかるところもあるようです。なお、これらの手続きには本人確認書類が必要となるので、住民票などの本人確認書類を準備してから、各手続きを進めていくとよいでしょう」

Q.それでは、自宅や自室が火元になって近所の住宅に被害を与えた場合、やるべきことは何でしょうか。

井上さん「『失火の責任に関する法律』により、重過失がない限り損害賠償責任を負わないため、被害の弁償などをする必要はありません。しかし、ご近所関係を良好に保つためにも、被害に遭った住人におわびをすべきだと思います」

(オトナンサー編集部)

井上圭章(いのうえ・よしあき)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。九州国際大学法学部卒業後、京都産業大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「債権回収」「不動産トラブル」などを得意分野とする。労働問題に関する相談(https://labor.gladiator.jp/)。

コメント