歯を磨かずに「歯科検診」へ…“虫歯”見落とされる? 歯科医師が説く「口内ケアの重要性」
もし歯を磨かずに歯科検診に行った場合、虫歯を見落とされる可能性はあるのでしょうか。歯科医院に聞きました。

歯の健康を維持するため、1年に1~2回、歯の定期検診を受けることが推奨されています。歯科検診に行く際は、事前に歯を磨かなければならないと聞いたことがある人は多いと思いますが、もし歯を磨かずに検診に行った場合、虫歯を見落とされる可能性はあるのでしょうか。歯を磨かずに歯科検診を受けるデメリットについて、きみえ歯科(兵庫県姫路市)院長で歯科医師の中村喜美恵さんに聞きました。
正確な診断が先延ばしになる
Q.「歯科医院に行く前は歯をしっかり磨かなければならない」といわれていますが、本当なのでしょうか。もし歯をしっかり磨かずに歯科医院に行った場合、どのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか。例えば、虫歯を見落とされる可能性はありますか。
中村さん「検診日に、どうしても正確な虫歯のチェックもしてほしい場合は、歯科医師がきちんと精査できる状態にしておくことが大切だと思います。見落としというより、診断不可能な環境では、きちんとしたチェックができません。
歯石や磨き残しの汚れなどをしっかり落とさなければ、口腔(こうくう)内の細かいチェックができません。患者が検診に来院された場合、各種検査の後、歯磨き指導をし、まずは歯垢(しこう)や歯石を取り除いて口腔内を清掃します。そしてその後に虫歯のチェックをしていきます。
しかし、常に磨き残しが多く歯肉に炎症がある場合は、口腔内の清掃をするだけで歯肉からの出血がみられ、細かいチェックができません。まずは歯磨き指導をし、毎日きちんと口腔内の清掃を実践していただくことで、患者自身に歯肉の炎症を改善していただくことが先決になります。歯科医師がチェックできる状態にまで口腔内の状態が改善されてから細かくチェックしていくため、正確な診断が先延ばしになりますね。
普段から磨かれている場合とそうでない場合とでは、歯垢や歯石の硬さ、こびり付き方が違います。歯石除去にかかる時間や労力も違ってくるので、治療にかかる時間や期間にも影響が出てきます。口の中をきれいにして初めて、小さい虫歯も見つけることができると考えてください」
Q.では、歯科医院に行く前はデンタルフロスを使ってしっかり歯垢を取り除くべきなのでしょうか。
中村さん「確かに歯科医院受診前に、歯磨きのほかにフロスも使用し、歯垢をしっかり除去するのは理想的です。歯ブラシだけのブラッシングでは、約4割の磨き残しがあるといわれています。歯と歯の間の磨き残しは、フロスや歯間ブラシを使用しないと除去できず、フロスの使用は必須です。状態によっては歯間ブラシも併用する必要があります。歯ブラシのほかにフロスも使用することで、約8割の歯垢を除去できます。
ただ、歯垢を除去できたとしても、歯石は歯ブラシやフロスでは除去できないため、歯科医院での歯石除去は必要です。
歯科医院では、苦手な部位の磨き方の指導や適切な清掃用具のアドバイスなどはもちろん行いますが、歯と歯茎の間にできる『歯周ポケット』の入口付近から上の部分の清掃は主に患者が担当し、歯周ポケットの中の清掃、除菌などは医院で担当すると考えてください。どちらが欠けても口の中の管理はうまくいかないのです。
口の中で悪さをする細菌は、空気を嫌う菌です。歯周ポケットの入口付近にたくさん歯垢が残ったままだと、歯周ポケットの中は空気が少ない状態になり、一気に歯周ポケット内の悪玉菌が増えていきます。毎日の積み重ねでひどくなっていくため、歯科医院の受診前だけ清掃したとしても、口の中の状態はすぐに良くはならないのです。
そう考えると、ホームケアとして患者自身ができる限り口腔内に増えた細菌の数を減らす作業を続けていくことこそ、歯科医院に通院することによる効果が最も発揮されるのです。ホームケアと専門的な治療の両輪があって、歯周病も改善しますし、虫歯の治療も早く進みますし、経過も良いと考えてください。
口の中の細菌の密度は、大腸の中の細菌の密度と同じであるといわれています。就寝時は唾液の分泌量が低下することにより、口腔内の細菌数が増加しやすくなります。就寝前に歯を磨かない場合、就寝中に一気に細菌数が増加すると覚えておいてください。
ですから、起床後の食事前には必ず『舌磨き→歯磨き→うがい』により、増殖した細菌数をぐっと減らしておくことが大切です。歯や歯肉以外の口の中の粘膜には、歯や歯肉の約3倍の細菌が存在しています。細菌が増殖した状態だと食事により、口腔内の細菌を体の中に取り込んでしまいます。
ここでフロスの話に戻ります。1998年にアメリカの歯周病学会が“Floss or Die”というキャッチコピーを発表しました。これは、『フロスで清掃するか、しないで死を選択するか?』という内容の問いかけです。それほど口腔内の細菌をしっかり取り除くことが、全身の病気の予防に直結するということなのです」
Q.歯科医院の患者は歯をしっかり磨いてから来院する人が多いのでしょうか。それとも、歯をあまり磨かずに来院してしまう人も比較的多いのでしょうか。
中村さん「患者の中には出先から直行したことなどを理由に、『磨けなかった』とおっしゃる場合もありますが、ほとんどの患者は自分なりに歯を磨いて来院されています。
虫歯の治療だけなく、歯磨き指導やメンテナンス治療(定期的な口腔内清掃)など、患者の状態に応じて併行して行うため、徐々に患者の意識も変わり、歯の磨き方を習得されるように思います。次第に、磨き方も上達されることが多いですね。『今日はちゃんと磨けていた?』などと自発的に質問されることもありますよ」
(オトナンサー編集部)








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