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9月1日が最多…子どもの夏休み明けの自殺、なぜ増える? 防ぐには? 臨床心理士に聞く

夏休み明け前後は、子どもの自殺が増える傾向にあります。その原因や予防法を、臨床心理士に聞きました。

子どもの夏休み明けの自殺、どう防ぐ?
子どもの夏休み明けの自殺、どう防ぐ?

 夏休み明けの前後に子どもの自殺が急増する――。このような傾向についてネット上で話題になっています。

 内閣府の「自殺対策白書(2015年)」によると、1972~2013年の42年間に自殺した18歳以下の子どもは1万8048人。「日別自殺者数」は9月1日が131人で最多です。同白書では、長期の休み明け直後は子どもに「大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすい」と指摘しています。

 これについて、ネット上では「小学生の子どもがいるので他人事ではない」「保護者としてどんなことに気を付けたらいいんだろう」など、さまざまな声が上がっています。子どもの夏休み明けの自殺を防ぐケアについて、藪垣心理療法研究室の藪垣将室長(臨床心理士)に聞きました。

不調や変化の早期発見が重要

Q.夏休み明け前後に自殺する子どもの心理的背景とはどのようなものでしょうか。

藪垣さん「厚生労働省の『自殺対策白書(2016年)』によると、生徒の自殺の原因・動機として最も多いのは『学校問題』です。学校問題を原因・動機とする小中学校の年間の自殺者数はここ10年ほど、50名前後で推移しています。

さらに、文部科学省の『子供の自殺等の実態分析(2014年)』では、子どもの自殺が生じる背景として、『友人関係のトラブルやいじめから孤立感を強める』などの学校要因、『保護者との関係がうまくいかず悩んでいた』などの家庭要因、パーソナリティーや精神疾患の問題といった個人要因、などが関連していると指摘されています。

学校生活において、いじめや対人関係の問題、学業の不安などがある場合、長期休暇の間は一時的に離れることができますが、長期休暇が明けるとそうした問題に再び直面することになります。そこで『来週からまた学校が始まるから気が重い』というように感じる子どもはいると思います。

ただし、精神的にうつ状態にあることが、必ずしも自殺に結びつくわけではありません。休み明けに限らず、子どもの変化を周囲の大人が敏感に感じ取ることが大切です」

Q.子どもの精神的不調に気づくためのサインとなる具体的な行動・言動を教えてください。

藪垣さん「サインには『表情の暗さ』『これまで楽しめていたことが楽しめなくなる』『睡眠の問題(寝つきが悪い、朝早くに目が覚めてしまうなど)』『頭痛や腹痛を訴える』『ご飯をあまり食べなくなる』『つらさを口にする』『自分を傷つける』などがあります。

周囲の大人が気を付けたいポイントとして、子どもの自傷行動に関しては、ささいな行為に見えても『大したことはない』と軽く見てはいけないということが挙げられます。例えば、小学校低学年の子どもが石けんをかじった場合、死に至ることはないとしても、本人が本気で『死のう』と思って石けんをかじったのだとしたら、そのことを重く受け止めて心理的な手当てをする必要があります」

Q.子どもが精神的不調に陥っていた場合、どのような対処が求められますか。

藪垣さん「一時的に精神的不調に陥ることは、誰しもが経験することです。まずは話を聞いてあげるなど、コミュニケーションを取ることで改善を図るとよいでしょう。その際のコツとして、『何か困っていることがあれば話してほしい』『話したくないことは話さなくてよい』『助けになる準備がある』と子どもに伝えることが大事です。

精神的不調が続くようであれば、学校のスクールカウンセラーや、心療内科や児童精神科、思春期外来などを有する医療機関の精神科医など、専門家に相談するとよいでしょう。その際、本人の同行が望ましいですが、子どもが病院やクリニックの受診を避けるようであれば、まずは保護者の方だけで相談することも可能です」

Q.子どもの夏休み明けの自殺を防ぐために、保護者や周囲の大人に求められる行動や、気を付けるべきことは何でしょうか。

藪垣さん「子どもの不調をできるだけ早く発見することが重要です。そのためには、子どもの様子をよく観察し、普段からコミュニケーションを取る必要があります。『自分の言っていることを否定されない』『自分の話を聞いてもらえる』といった安心感の中で、子どもは自分の悩みを打ち明けます。

本人は悩んでいるのに、親に打ち明けなかったり、困り事を秘密にしたりすることもあります。本人の不調に気付いてはいるものの、どのように働きかけたらよいか分からず、保護者が戸惑ってしまうケースもあります。表情の暗い中学生の子どもを見て、保護者が『困っていることがあったら教えてね』と声をかけても、『別に……』と返されては、それ以上どうしたらよいか分からなくなります。

こうした状況では、ぜひ専門家の力を使っていただきたいと思います。子どもと保護者の関係性やそれぞれの性格、現在の生活状況などを踏まえたアプローチの方法が見つかります。先に述べたスクールカウンセラーがアクセスしやすいでしょう。子どもが一人で悩みを抱えないことが大事であるのと同様、保護者が一人で悩みを抱えないことも大事です」

(ライフスタイルチーム)

藪垣将(やぶがき・しょう)

藪垣心理療法研究室室長、臨床心理士、日本家族療法学会認定ファミリーセラピスト

2007年国際基督教大学教養学部卒業、2009年東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース修士課程修了、2016年同博士課程修了。博士(教育学)。国際医療福祉大学大学院臨床心理学専攻助教を経て、2016年藪垣心理療法研究室を開室。日本女子大学、東海大学、立教大学大学院非常勤講師。また、埼玉県教育委員会スクールカウンセラー、茅ヶ崎市教育委員会特別支援教育相談員として、講演活動や、不登校や発達障害などに関する臨床活動を行う。専門は家族療法、統合的心理療法、中年期夫婦関係、および精神的健康、治療的アセスメント。藪垣心理療法研究室(http://ypiyabugaki.wixsite.com/ypi-yabugaki)。

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