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実は日本以上に深刻 中国で「少子化」が著しく進むワケ 5年で700万人以上減

近年、中国で少子化が進んでいるのはなぜなのでしょうか。主な原因について、専門家が解説します。

天安門広場南側の正陽門付近に広がる前門大街。多くの人でにぎわっている(2023年10月、北京、時事)
天安門広場南側の正陽門付近に広がる前門大街。多くの人でにぎわっている(2023年10月、北京、時事)

 中国は長年、世界で最も人口が多い国でしたが、近年は少子化が進み、人口が減少しています。国連人口基金(UNFPA)が2023年4月に公表した世界人口の推計値によると、インドの人口が14億2860万人と、中国の14億2570万人を上回り、世界一となりました。なぜ中国で少子化が進んでいるのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんが解説します。

「合計特殊出生率」は1.09で日本を下回る

 中国で「麻雀学校」(スズメの学校)という言葉を耳にします。スズメは小さな群れを成すことから、在校生が10人以下の規模が非常に小さい小学校のことで、子どもの数が少ない農村地区を中心に存在しています。

 麻雀学校は教育環境、学習条件の質が低い点が問題視されていますが、存在するだけまだましで、次第に子どもが集まらないため、「貝殻学校」となり、やがて、老人ホームや民宿へと姿を変えていきます。2022年末時点では、全国で96万校の麻雀学校が廃校になりました。

 中国国家統計局が2024年1月17日に公表したデータによると、2023年末時点の中国の出生数は902万人で、前年から54万人減少しました。

 また、1人の女性が一生のうちに産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」は2022年時点で1.09で、人口1億人以上の国々の中で最も低い数値となりました。ちなみに、日本の2022年の合計特殊出生率は1.26です。

 中国政府が人口爆発を懸念し、「1組の夫婦に子どもは1人だけ」と無理やり決めた「一人っ子政策」を正式に導入したのが1980年です。2016年に廃止されるまで36年間続きましたが、その間に2人目の出産を強く望んだ人は多くいました。

 しかしながら、2人目の子どもの出産が解禁された2016年こそ出生数は1786万人と増加したものの、2017年は1725万人、2018年は1523万人と下降し、2022年には956万人と1000万人を切りました。政策撤廃後、多くの人々が選択したのは「産まない」もしくは「考慮中」だったのです。

男女比がアンバランス化し結納金の金額が上昇

 なぜ彼らは子どもを生まなくなったのでしょうか。理由は簡単です。「幸せ」の原型だった「結婚」「出産」「子育て」がもたらす明るい未来が描きにくくなったからです。結婚とは恐ろしいもの、いわゆる「恐婚」という考え方がまん延していきました。

 理由の一つに、男女比のアンバランスという問題があります。中国人の伝統的な考え方である「重男軽女」(男尊女卑)は現代でも根強く残り、一人っ子政策のもとで、男女の人口比率に差が生じていきました。一人っ子政策を導入する前、新生児の男女比率はほぼ同数でしたが、次第に男子の数が増えていったのです。

 中国国家統計局が2024年1月17日に公表した、2023年末時点の人口は14億967万で、前年よりも208万人減りました。そのうち男性は7億2032万人、女性は6億8935万人で、男性は女性より3097万人も多いのです。

 そんな中、男性独身者の数が膨れ上がり、2015年から2025年まで、中国語で「結婚できない男」を表す「剩男」は毎年15%ずつ増加し、平均して120万人の男性が初婚での結婚相手を見つけることができない計算になるといいます。条件が整わない男性と、超エリート女性が残るという現象を生みました。

 男女比のアンバランスは社会不安を生みます。男性を中心に、結婚貧乏が農村地区を中心に多く出現するようになりました。

 例えば、男性から女性側に渡す「結納金」の金額が、かつてないほど上昇しています。象徴的なのが「三斤三両」「万紫千紅一片緑」です。「三斤三両」は100元札で1.65キロ、約13万6000元(約285万円)に相当します。また、「万紫千紅一片緑」は紫色の5元札が1万枚、赤い色の100元札が1000枚、それに加えて可能な限り、緑色の50元札が必要だという意味です。合計すると、最低でも15万元(約314万円)になるといいます。

 現金に加え、結婚に欠かせないのが、車1台と一軒の家で、これらは「一動不動」と呼ばれています。結婚の際に「家」と「車」というのは、最低条件ですが、住宅を購入するには、一生分の年収が必要ともいわれています。

 ある調査によると、改革開放政策で、農民の収入は25倍に増えた一方、結納金の額は100倍以上になったということです。結婚は幸せなのだろうか、という疑問が頭をもたげても無理はありません。

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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