「糖尿病予備軍」ってどんな人? “脱する”ことはできる? 糖尿病歴30年の専門医に聞いた
耳にする機会も多い「糖尿病予備軍」、どのような人のことを指すのか正しく知っていますか。糖尿病専門医に詳しく聞きました。
健康診断などで、いわゆる“糖尿病予備軍”と診断された経験がある人もいると思います。この「糖尿病予備軍」について、「つまりどういう人のこと?」「どうして“予備軍”になってしまうの?」「糖尿病になる前に治せる?」といった疑問を持っている人も少なくないのではないでしょうか。
「糖尿病予備軍」とは、どのような人のことなのでしょうか。自身も1型糖尿病歴30年で、著書に「血糖値を自力で下げるやり方大全」(フォレスト出版)がある、内科医・糖尿病専門医の市原由美江さんに聞きました。
生活習慣を改善しなければ「糖尿病」に進展
Q.「糖尿病予備軍」とは、どのような人のことを指す言葉なのですか。
市原さん「『糖尿病予備軍』とは俗語で、医学用語では『境界型糖尿病』と呼びます。糖尿病の診断基準の一つに、1~2カ月前の血糖値の平均を反映した数値を示す『HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)』が6.5%以上、かつ、空腹時血糖値が126ミリグラム以上(1デシリットルあたり)という条件があります。健康な人は、HbA1cが6.0%、空腹時血糖値が110ミリグラム(1デシリットルあたり)を超えることはありません。
つまり、境界型糖尿病は『HbA1cが6.0%以上、6.5%未満』『空腹時血糖値が110ミリグラム以上(1デシリットルあたり)』の人が疑わしくなります。ただし、境界型糖尿病は『ブドウ糖負荷試験』をしないと診断できないため、これらの条件を満たす場合は糖尿病専門医に相談し、ブドウ糖負荷試験を受けることをお勧めします」
Q.「糖尿病予備軍」になってしまう原因は何でしょうか。
市原さん「糖尿病は、『遺伝的要因』と『環境要因』が相まって発症します。糖尿病の家族歴がある場合や、肥満・ストレスが多い、暴飲暴食をする、睡眠時間が短い、運動不足など規則正しい生活が送れていないと、糖尿病のリスクは高まります。
境界型糖尿病は、糖尿病の前段階です。この段階では、症状を自覚する人はほとんどいません。境界型糖尿病の段階で食事や運動を意識したり、肥満であれば減量をしたりするなどして生活習慣を改善できれば、糖尿病への進展を抑制することができます。境界型糖尿病の時点で、特に意識せずに放置していた場合は、数年後の糖尿病へと進展します。
私は、健康診断を毎年受けている人の記録を見ることが多いのですが、境界型糖尿病が疑われる段階を経て、徐々に糖尿病へ進展していることがほとんどで、『この時期に受診していれば違ったのにな』と思うことが多々あります」
Q.「糖尿病予備軍」を“脱する”ことは可能ですか。
市原さん「可能です。そもそも、なぜ血糖値が上がってくるのかについてですが、血糖値を下げる唯一のホルモンである『インスリン』を分泌するのは膵臓(すいぞう)です。過食や運動不足、肥満などによる血糖値の上昇を抑えるために、膵臓が頑張ってインスリンを分泌しています。この頑張りが長く続くことで、膵臓は疲弊し、インスリンをタイミングよく分泌できなくなって食後の血糖値が上昇し始めます。この段階が、境界型糖尿病に近い状態です。これがさらに続くと、インスリンの分泌量が減ってきて、食前の血糖値も上がってきます。これを糖尿病の段階と考えてください。
つまり、境界型糖尿病の段階で、既に膵臓の機能はかなり落ちています。もちろん、食事の量や種類に注意し、適度な運動を頑張って適正体重をキープする努力を続ければ、膵臓の負担は減るので血糖値は下がりやすくなり、境界型糖尿病から脱することも可能です。ただし、膵臓が弱っている事実は変わらないので、例えば暴飲暴食を繰り返して体重が増加するなどすれば、容易に境界型糖尿病の段階へ、場合によっては糖尿病の段階へと一気に進みます。
境界型糖尿病を脱する、そして糖尿病への進展を抑えるためには、まず体重を減らすこと、そしてそれを維持する生活習慣を続けることが大切です」
(オトナンサー編集部)
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