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「ボーナスもらってすぐ辞める」は正解か? 転職時期とお金の関係

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「ボーナスをもらってすぐ辞める」は正解?
「ボーナスをもらってすぐ辞める」は正解?

 今年ももう年末になってきて、冬のボーナス=賞与が話題になる時期です。転職を考えている人の中には、「ボーナスをもらうまでは我慢して、もらったらすぐに辞めよう」と考える人もいるようです。それは、就業規則などに「支給日に在籍しない者には賞与を支給しない」といった支給日在籍要件を定めている場合があるからです。このように、社員側から見ると、金銭的にも区切りとしてもいいように思うのですが、この考え方は正解なのでしょうか。それとも間違っているのでしょうか。

転職にはよい時期

 ボーナスは夏と冬の年2回支給されることが一般的で、公務員のボーナスに合わせてか、夏は6月か7月、冬は12月に設定されていることが多いようです。このため、ボーナス支給日までは在籍をしておいて、そこから転職活動をするという人も増えます。6月や12月から転職活動を始めると、それらの4カ月後が10月や4月といった、多くの会社が決算期初としている月になります。

 会社は決算期ごとに要員計画・採用計画を立てているので、10月や4月入社の求人は他の月に比べて多くなります。転職活動は3カ月から半年くらいの人が多いので、ボーナス支給月に活動を始めると、求人数の多い時に活動でき、タイミングとしてはちょうどよいのではないでしょうか。実際、「doda転職求人倍率」などを見ると、たいていの年で12月の求人倍率は極大値になっています。つまり、年末の転職は会社よりも個人が強い「売り手市場」で、転職しやすい時期と言えるでしょう。

無職期間延びればチャラ?

 お金の面ではどうでしょうか。「そりゃあ、もらえる方がもらえないよりもいいに決まっている」と思うかもしれません。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」2021年9月分と2022年2月分の結果速報等によれば、2021年の夏季ボーナスの平均額は38万268円、冬季ボーナスの平均額は38万787円でした。

 これだけの額をもらえるのであれば、賞与月まで転職せずに、じっと我慢している方がよいように見えます。ただ、この賞与の金額はおおよそ、平均的な基本給の1~2カ月分です。もしも、ボーナスを待つことで転職チャンスを逃してしまい、無職期間が3カ月を超えるようなことになったとすれば、ボーナス分の金額はチャラになってしまいます。そう考えると、ボーナスのため「だけ」に、何がなんでも転職時期を調整すべきとは言えないように思います。

 また、厚生労働省の「2021年雇用動向調査結果」によると、前職の賃金に比べ「増加」した割合は34.6%、「減少」した割合は 35.2%、「変わらない」の割合は 29.0%となっていました。つまり、3分の1の人にとっては、早く転職すればするほど、早く高い給料を得られるということです。

 ちなみに、賃金が1割以上増加した人の割合は23.7%、おおよそ4人に1人でした。この「1割以上」というのを、おおよそ1カ月分の年収が増加すると考えると、ボーナスに近い額、増加するわけです。以上のように考えると、もしも今回の転職がキャリアアップ的なもので、年収の増加が見込める人なら、これまたボーナスのことを考えすぎる必要はないと思われます。

有休取得できず、差し引きゼロも

 退職時の有給休暇取得という観点もあります。厚生労働省が2021年に実施した「就労条件総合調査」によると、労働者1人あたりの平均取得日数は 10.1日で、有給休暇取得率の平均は56.6%でした。逆に言えば、4割強、日数で言えば8日程度は有給を残しているということです。

 有給休暇の消滅期限は2年ですので、倍の16日ほど有給を保持している人の場合、退職時にこれを消化できるかもしれません。土日祝日を入れると、多くの人が1カ月ほど丸々休むことができる、つまり、働かなくてもボーナス分程度の報酬がもらえるということです。

 もちろん有休はそもそもの権利なので、プラスということではないですが、ボーナスはもらったものの、その後、急に転職が決まって引き継ぎなどのために有休消化がまったくできないこともあり得ます。そうなれば、ボーナスと差し引きゼロになってしまいます。

結論、賞与を意識しすぎない

 ここまで、いろいろな観点から考えてみましたが、転職の時期を検討する際に、「ボーナスをもらえる/もらえない」を意識しすぎる必要はないと思います。自分に合ったいい求人がいつ出るのか、どれくらい転職活動がかかるのか、いつ納得いく内定が出るのか、引き継ぎの量はどの程度で、いつまでかかるのか、などなど、転職活動のタイミングについては不確定要素が多すぎます。

 それなのに、とにかく「賞与をもらわねば損」ということばかり考えて無理すれば、突然引き継ぎもせずに退職して、会社に迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。そこで信用を失ってしまうほどに、賞与が大切なのかどうか、十分考えてみるべきだと思います。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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