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「あおり運転」ドラレコで録画! 加害者の顔や車のナンバーをネット上にさらしたらどうなる?

あおり運転の被害に遭った人が、加害者の顔や車のナンバーを撮影した動画や画像をネット上に投稿した場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。弁護士に聞きました。

後方から車間距離を詰めて圧力をかけてくることも
後方から車間距離を詰めて圧力をかけてくることも

「不用意に車間距離を詰めて接近する」「急な進路変更や蛇行運転」など、他の車の通行を妨げる「あおり運転」が社会問題化しています。中には、あおり運転をした人が車外に出て、他の車の窓ガラスをたたいたりボディーを蹴ったりといった危険行為に及ぶこともあり、ドライブレコーダーの設置が推奨されています。

 ネット上では、「○○ナンバーに気を付けて」といった文章とともに、あおり運転をする人を撮影した動画や画像が投稿されることがあります。あおり運転の被害に遭った人が、加害者の顔や車のナンバーを撮影した動画や画像をネット上に投稿した場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

名誉毀損罪に該当する可能性も

Q.あおり運転の被害に遭った人が、加害者の顔や車のナンバーを撮影した動画、画像をネット上に投稿した場合、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「加害者の顔を特定できる形で撮影し、そのままネット上に投稿した場合、法的責任を問われる可能性があります。

本人の許可なく顔や体などを撮影し投稿すると、肖像権(承諾なしにみだりに自己の容貌などを撮影されない自由、および自己の容貌を撮影された写真や動画を公表されない自由)やプライバシー権の侵害に当たるとして、あおり運転の加害者から損害賠償請求されることも考えられます。

場合によっては、名誉毀損(きそん)罪に問われる危険もあります。公共の利害に関する事実について、公益目的で真実を発信した場合は、たとえ相手の社会的評価を下げることになったとしても、名誉毀損罪に問われることはありません(刑法230条の2)が、あおり加害者への個人的な怒りや嫌がらせ目的から情報を発信したり、編集などによって誇張した画像や映像を発信したりするケースでは、名誉毀損罪に問われる可能性も考えられます。

あおり運転の加害者を特定できる形でネットに投稿する行為は、私的な報復やさらし行為とも受け取られかねず、あおり運転の加害者側が逆上し、さらなる報復をしてくるなど、新たなトラブルに発展する危険もあります。私的制裁である『私刑』は違法行為でもあるため、加害者を特定できる情報をネット上に投稿することは避けるべきです。

なお、車のナンバーについては、そこから所有者などを特定することは難しいため、たとえナンバーが写り込んだ動画や画像をそのままネット上に投稿したとしても、それだけで法的責任を問われる可能性は低いでしょう。ただし、背景などが原因で、相手の個人情報につながることもあり得るので、ナンバーが分かる形で投稿することも避けた方が安心です」

Q.では、あおり運転の加害者が、自身の顔が映った動画や画像をネット上で発見した場合、投稿主の法的責任を問えるということでしょうか。

佐藤さん「はい。先述のように、あおり運転の加害者が、自身の顔が特定できる動画や画像を投稿された場合、肖像権やプライバシー権を侵害されたとして、投稿主に対して損害賠償請求することは可能です。

裁判上、違法な侵害に当たるかどうかは、撮影の目的や態様、必要性、撮影された人の立場などを総合的に考慮して、社会生活上受忍すべき限度を超えるかどうかで判断されることが多いです。例えば、加害者を特定する情報がなく、車のナンバーだけが映っている場合は、賠償請求をしても請求が認められる可能性は非常に低いと言えるでしょう」

Q.テレビ番組などで、あおり運転の加害者の顔にモザイクをかけ、声を変えた状態で映像を公開することがあります。この行為について、映像の制作者側が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「あおり運転の加害者の顔にモザイクをかけたり、声を変えたりすることで、視聴者が加害者を特定することは難しくなるため、法的責任を問われる可能性はないでしょう」

Q.あおり運転に遭遇して、「車を壊された」「相手に殴られた」などの被害に遭った場合、どのように対処すべきなのでしょうか。

佐藤さん「あおり運転は『妨害運転罪』(道路交通法117条の2の2第11号、117条の2第6号)や『危険運転致死傷罪』(自動車運転死傷行為処罰法2条)の対象になり得る犯罪なので、まず警察に相談しましょう。また、ドライブレコーダーの映像は、あおり運転の有力な証拠になるため、そのまま保管し、警察に提供してください。

『車を壊された』『相手に殴られた』といったケースでは、修理費や治療費、慰謝料などを加害者に請求することもできます。自身で対応が難しいときは、弁護士に相談することをお勧めします」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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