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19歳の女性起業家が売っているのは「商品との偶然の出会い」

自分が買いたいものがわからない消費者や、欲しい物が特にない消費者の存在に注目し、新しい流通の形を目指す若手起業家がいます。19歳の坂内綾花さんです。

坂内綾花さん
坂内綾花さん

 私たちの周りには商品やサービスがあふれており、それに伴い、企業の広告などの情報もあふれています。確かに選択肢が増えることは便利なことですが、過剰な情報は返って私たちを惑わせる原因にも。そうかと思えば、近年は「フィルターバブル」という言葉があるように、特にインターネット上では、私たちは知りたくない情報や興味がない情報がフィルターで遮断された世界の中に閉じこもっているとも言われます。情報が増えることによる豊かさを、私たちは享受しきれずにいるのかもしれません。

 こうした背景から、自分が何を買うべきかわからない消費者、つまり“選べなくなった消費者”だけではなく、欲しい物が特にない、という消費者も増えています。今、そこにビジネスチャンスを見いだし、新しい流通の形の確立を目指す若手起業家がいます。19歳の坂内綾花さんです。

「謎の箱」を売る通販型サービス

 坂内さんの手がけるビジネスは、注文者に、一体どんな商品が入っているのかわからない「謎の箱」を送る通販型サービス。おもに購入型クラウドファンディングサイトを利用して販売を開始し、発売から約5カ月間で注文数は1200件を超え、すでに800万円以上を売り上げています。

「どんな商品が入っているかわからない」という期待感を売るビジネスは、従来から存在していました。たとえば、福袋などはその一種と言えます。もっとも、近年では、福袋の中身を公開して販売している企業も多く、本来の魅力は失われつつあるかもしれませんが「偶然が生み出すサプライズな旅」をコンセプトとしたJALの「どこかにマイル」は、4つの行き先の中からランダムで行き先が決まる旅行サービスとして人気を博しています。

 坂内さんが「フォーチュンボックス」と名付けて販売する謎の箱の中身は、食品から日用雑貨までと幅広く、これといった特定のジャンルに絞られていません。ただし「ありふれた商品は売らない」「品質実感に乏しい商品は売らない」など、独自のルールを決めて、あくまでも高品質なものを坂内さんの目利きで選んでいるとのこと。今後の展開の中で、地域を絞ったり、ジャンルを絞ったりすることも予定しているそうですが、あくまでも「何が入っているかわからない楽しみ」という価値を提供することにはこだわるつもりだそうです。

 坂内さんは「このようなサービスが成り立つのか大きな不安の中でスタートしました。ふたを開けてみると購入者からはお褒めの声を頂くことが多く、励みになっています」と当初の想像以上の手応えを感じているそうです。「自分が価値として提供したいと考えていることと、お客様が期待していることが別物であれば、不満や後悔の原因になります。新しい商品との出会いやそこからの学びに期待してほしい、というアナウンスを丁寧にするようにしています」。商品に対するクレームなどはほとんど届いていないようです。

 19才という若さで新規ビジネスを思いつくだけではなく、実現できている理由を聞くと「自分ができることは限られているので、できるだけやるべきことを絞るようにしています。このビジネスにとって一番大切なのは、より多くのメーカーさんに出会って話を聞き、商品やそれにまつわる情報を見つけ出していくこと。これが顧客満足に直結します。たとえば、個々のお客様からの要望など細かいリクエストへの対応などは私が提供する価値の中では重要ではないので、現時点では力を入れていません」とのこと。

 起業前に読んださまざまな本や経営者の話などを参考に、自社の価値を最大化するために経営資源を絞り込む戦略を採っているそうです。売っているのはあくまでも「商品との偶然の出会い」やそこからくる期待感。しかし、商品の品質が凡庸であれば、早期に飽きられてしまうでしょう。だからこそ、品質実感がしやすい商品を集めることを重視するという戦略は、おそらく正解と言えるのではないでしょうか。

「日本中には、無名でも素晴らしい商品を作っているメーカーがたくさんあります。何が送られてくるかわからないが、キュレーターを信頼して買うという新しい消費パターンができると、そういうメーカーと消費者の橋渡しができるはずです。新しい流通の形を作り上げていきたい」と今後の展望を語る坂内さん。

 ライバルとなる新規事業者の参入を想定しつつ、“選ばない”消費市場が形成されていくこともにらんだ若手起業家のビジョンが実現する日は近いのかもしれません。

(ライター 安井秀樹)

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