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障害年金の受給認められず… うつ病の23歳ひきこもり長女に残された道は?

障害年金の受給が認められなくても、その後、条件を満たせば再度請求することは可能です。請求の条件について、専門家が解説します。

障害年金の受給が認められなかったらどうする?
障害年金の受給が認められなかったらどうする?

 病気などで就労困難なひきこもりのお子さんを抱えるご家族の中には、「(子どもの)障害年金を請求したが、受給が認められなかった」という事態に陥った際に、「二度と障害年金は請求できない」と考えるケースもあるようです。しかし、障害年金は条件を満たせば再び請求することも可能です。これを「事後重症による請求」と言います。

17歳からひきこもるようになった長女

 筆者は社会保険労務士でもあるので、ひきこもりのお子さんを抱えるご家族向けの講演会で、障害年金の話をすることがあります。年金制度は複雑なので、ご家族が講演会に参加して初めて知る制度もあるようです。

 講演会後、筆者はある母親(54)から声を掛けられました。

「ひきこもりの長女(23)の障害年金について、少しお話をさせていただきたいのですが…」

「はい、構いません。どうぞ」

 筆者はそう答え、母親から事情を伺いました。

 長女は17歳の頃、学校になじめずひきこもるようになり、その後うつ病を発症。症状が改善せず仕事をすることが難しかったため、長女が20歳を過ぎた頃、障害年金の請求をしたそうです。しかし結果は不支給決定。つまり、障害年金の受給が認められませんでした。親子で時間をかけて書類をそろえ、とても大変な思いをして請求したにもかかわらずです。長女はその事実を受け入れることが難しく、さらに体調を崩してしまったそうです。

 母親は筆者に次のような相談をしました。

「今回の講演会で、不支給決定を受けてしまっても再チャレンジできることを知りました。長女はとても働けるような状態ではありませんので、もう一度、障害年金を請求してみたいと思っています。一体どうすればよいのでしょうか」

「そうですね。再チャレンジの請求を『事後重症による請求』と言いますが、まずはその内容から確認していきましょうか」

 この提案に母親は同意しました。

請求前に確認すべきことは?

 筆者は、日本年金機構が発行する「障害年金ガイド」のパンフレットを出し、該当ページを開きました。そこには次のような説明が記載されています。

 障害認定日に法令に定める障害の状態に該当しなかった方でも、その後病状が悪化し、法令に定める障害の状態になったときには請求日の翌月から障害年金を受け取ることができます。このことを「事後重症による請求」といいます。

 説明を聞いた母親は困惑した表情を浮かべました。そこで、筆者はもう少しかみ砕いて説明しました。

「仮に、娘さんが前回障害年金を請求したとき、法令で定めている障害の状態よりも軽かったので障害年金は認めてもらえなかったとします。しかし、その後体調を崩され、現在は法令に定める障害の状態に該当している場合、現在の状態で障害年金を再度請求することで、障害年金が受給できる可能性があるというものです。事後重症による請求は、請求した日の翌月分から支給されます。例えば2022年5月に請求をしたとすると、翌月の6月分から受給できることになります」

「すると、長女は障害年金がもらえる可能性が残されているかもしれないということですよね。長女は、事後重症による請求が可能なのでしょうか」

「いくら再チャレンジが可能とはいえ、事後重症による請求も障害年金の請求に変わりはありません。請求する前に、さまざまな条件がクリアできているか確認することが重要です」

 筆者は条件の中で特に重要なものを3つ示しました。

・初診日の証明ができること
・保険料の納付要件を満たしていること
・現在の病状が法令に定める障害の状態であること

 母親に確認したところ、長女は18歳ごろにうつ病で初めて病院を受診し、現在も同じ病院に通っていることが分かりました。現在も同じ病院を受診しているのであればカルテも残っているので、初診日の証明をすることはできます。

 また、初診日が20歳前で公的年金に未加入のときなので、保険料の納付要件も自動的にクリアすることができます。保険料の納付要件をざっくり言うと、「公的年金の保険料の未納が多過ぎないか」というもの。この保険料の納付要件を満たさないと、そもそも障害年金が請求できません。初診日が20歳以降にある場合、年金が未納状態のままになっていないか注意する必要があります。

 長女の場合、初診日の証明も保険料の納付要件も共にクリアできることが分かりました。後は、現在の状態を踏まえた診断書を医師に書いてもらい、その他の必要書類をそろえれば事後重症による請求をすることができます。

 請求までの見通しが立ちましたが、母親の表情はさえません。

「事後重症による請求でも、また最初から書類をそろえていくことになるのですね…」

 当時の大変だった作業を思い出したようで、母親は眉をひそめました。そこで、筆者は次のような提案をしました。

「請求に必要な書類は私の方で作成することもできます。どの書類から作成すればよいのか、どのように作成すればよいのかなども全部把握していますから、お力になれるかもしれません。娘さんにもそうお伝えしてみてください」

「そう言っていただけると大変心強いです。長女にも相談してみます」

 母親は初めてほっとした表情を見せました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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