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「鼻毛」は切ったり抜いたりしてもいい? ボーボーのまま放置したらダメ? 耳鼻科医に聞く

異物の侵入を防いでくれる一方で、伸び過ぎて出てしまうと恥ずかしい「鼻毛」。処理にまつわるさまざまな疑問について、耳鼻科医に聞きました。

鼻毛の処理、していますか?
鼻毛の処理、していますか?

 コロナ禍以降はマスクの下に隠れがちな「鼻」ですが、日頃から鼻毛の処理を行っている人もいると思います。鼻毛は、外から異物が入ってくるのを防いでくれる一方で、伸び過ぎると鼻の穴から出てしまうなど、外見に関わる部分でもあるため、「切ったり抜いたりしても問題ないの?」「抜き過ぎると風邪をひきやすくならない?」「ボーボーのまま放置してもいいのか気になる」など、お手入れの程度に迷う人も少なくありません。

 抜いたり切ったりしてもいいのか、抜き過ぎるとどうなるのか…「鼻毛」にまつわるさまざまな疑問について、東京みみ・はな・のど サージクリニック(東京都多摩市)名誉院長の市村恵一さん(耳鼻咽喉科)に聞きました。

1カ月に平均4〜5ミリ程度伸びる

Q.そもそも、鼻毛とは何でしょうか。

市村さん「鼻毛とは、鼻の穴(外鼻孔)から入った最初の部分である『鼻前庭(びぜんてい)』に密生している毛のことをいいます。この部分は顔面の皮膚と続いており、鼻毛は皮膚表面にある毛根から生えてきます。鼻前庭より鼻の奥にいくと皮膚ではなく、粘膜になりますが、そこには鼻毛は生えていません。

鼻毛は他の部位の毛よりも太く、成長スピードは性差や体質、環境の状態によって差はありますが、平均では1カ月に4〜5ミリ程度伸びます。他の体毛と同じく男性ホルモンの影響を受けるため、男性の鼻毛は太く、また長く伸びて鼻の穴からはみ出すこともあります。また、ほこりの多い場所などでは早く伸びるようです。なお、鼻毛の本数を記載した文献は見当たりません。鼻の手術をする際に邪魔になるので、手術開始前に患者さんの鼻毛を切りますが、そのときの印象では、人により本数は千差万別です。正確な統計ではありませんが、平均すると片側50本くらいの印象です」

Q.鼻毛は何のために生えているのですか。

市村さん「人体の各構成要素には何らかの存在意義があり、不要なら進化の過程でなくなってきているはずです。鼻毛には、体内への異物の侵入を防ぐ働きと、加湿の働きがあります。

5マイクロメートル以上の粒子は鼻毛に絡みつくため、菌やほこりの体内への侵入を鼻毛が防ぎます。鼻毛での粒子沈着量は鼻腔内での沈着量よりも多く、鼻毛が長いと、また太いと粒子に接する面積が増えるため、沈着効率が高まります。2011年のトルコの研究報告によれば、鼻毛の濃さで3群に分けてぜんそくの有病率を調べたところ、薄い群から順に44.7%、26.2%、そして16.7%となり、『鼻毛の濃い群はぜんそくが少ない』という結果でした。つまり、吸気時にアレルギーの抗原を絡め取り、気管支に入り込むのを防ぐことで、ぜんそくの発症を予防できることが示されました。

また鼻毛は、呼気に含まれる水蒸気を吸着し、鼻から息を吸い込む際に蒸発させます。これにより、わずかながら呼気に含まれる水分を回収しています。結果として、鼻腔内の温度や湿度を一定に保ち、粘膜を乾燥から守ってくれるのです」

Q.「出ていたら恥ずかしい」「伸び過ぎると気になる」など、見た目を理由に鼻毛の処理をする人も多いですが、実際のところ、切ってもよいのでしょうか。

市村さん「先述したように、鼻毛は立派な働きをしているので、医学的観点でいえば鼻毛を切らなくてはならない理由はありません。あるとしたら美容的な問題だけです。全く鼻毛を処理しないとなると、見た目の清潔感が失われてしまい、印象を左右してしまうでしょう。

パナソニック(大阪府門真市)が2018年に実施した調査によれば、男性は小まめに鼻毛の処理をしている一方、女性は定期的には処理をせず、『気付いたときだけ』処理しているという結果でした。鼻毛切りは身だしなみの一つとして、人に不快感を与えない程度の処理にとどめるのがよいかと思います」

Q.鼻毛のお手入れを全くせずに放置しても、美容面以外の弊害は本当にないのですか。

市村さん「弊害を強く訴える人は経験していません。ただ、著しく濃い鼻毛の人の診察をすると、花粉症やその他の鼻炎などで鼻水が出たとき、それが鼻毛に付着して、いわゆる“鼻くそ”がたまっていることがよくあります。また、鼻毛を切ると、主観的にも客観的にも鼻の詰まり感が減ることがアメリカから報告されており、特に鼻毛の濃い人でそれが目立ちました。鼻毛が濃過ぎて密集していると、鼻の空気の通りは悪いでしょう」

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市村恵一(いちむら・けいいち)

医師(耳鼻咽喉科、「東京みみ・はな・のど サージクリニック」名誉院長)

東京大学医学部医学科卒業。医学博士、自治医科大学名誉教授、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)、日本気管食道科学会認定専門医。鼻血を繰り返す全身性の難病「オスラー病」の数少ない権威でもあり、全国から患者が訪れる。耳と鼻、気道といった耳鼻科全般の豊富な経験を持つ。現在は短期滞在手術施設「東京みみ・はな・のどサージクリニック」(東京都多摩市)の名誉院長を務め、一般外来、補聴専門外来を担当。(https://tokyo-ent-surgi.com/)。

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