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Jリーグなら解任? 阪神、日ハム大不振でも「監督交代」の声が出ないワケ

サッカーのJリーグと違い、プロ野球の監督は、成績不振でもシーズン途中で解任されるケースが少ないですが、なぜなのでしょうか。専門家に聞きました。

プロ野球の監督が成績不振でも解任されにくい理由とは?
プロ野球の監督が成績不振でも解任されにくい理由とは?

 プロ野球は4月7日時点で、矢野燿大監督率いる阪神タイガースが1勝10敗、BIGBOSSこと新庄剛志監督の就任で注目された北海道日本ハムファイターズが2勝9敗と、セ・パ両リーグとも厳しい状況のチームがあります。サッカーのJリーグでは、数試合勝てない状態が続くと、チーム側がすぐに監督を解任することも珍しくありませんが、プロ野球の場合、成績不振でも、監督がシーズン途中で解任されるケースはそれほど多くないように思います。なぜプロ野球の監督は、シーズン途中で解任されにくいのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

プロ野球は勝率6割でもリーグ優勝が可能

Q.Jリーグに比べると、プロ野球の監督は成績不振でもシーズン途中に解任されるケースが少ないと思います。なぜなのでしょうか。考えられる理由について、教えてください。

江頭さん「野球とサッカーの競技性の違いが最大の理由です。野球では、9人の選手のポジションがルールで厳格に定められていますが、サッカーでは、選手が試合中にどの位置にいなくてはならないというルールはありません。監督の考え方によって、11人の選手を自由に配置することができます。いわゆるフォーメーションは、サッカー監督の最大の采配といえるでしょう。試合が始まったら、監督が選手に指示を出す機会は限られていますが、監督の考えによるフォーメーションが試合に与える影響は大きいと考えられます。

野球の場合は、1打席ごとにサインを出す監督も存在しますが、監督からのサイン通りにゲームが進まないことを前提に監督の評価が行われており、また、失敗が許される競技でもあります。バッターは70%失敗しても、3割打者として称賛されます。ピッチャーも無四球で9イニング(9回)投げることを要求されていません。

第2の理由としては、シーズンの構造です。サッカーのJ1リーグの場合、34試合(2022年)ですが、プロ野球は2022年の規定では143試合です。4倍の試合数を行うプロ野球における8連敗は、J1リーグの2連敗と同じ重みになります。

プロ野球のリーグ優勝チームの勝率は、2000年から2021年までセ・パ両リーグの平均で59.48%に過ぎません。つまり、100試合あったとして、そのうち40試合で負けても優勝可能です。2000年以降の優勝チームで最も勝率が高かったのは2012年の原辰徳監督率いる読売ジャイアンツで勝率66.7%、最も勝率が低かったのは、2015年の真中満監督率いる東京ヤクルトスワローズで53.9%でした。

J1リーグでも、同様に2000年から2021年の優勝チームのデータを確認しました。その結果、2ステージ制の年もあるので、野球との単純比較は難しいのですが、勝率の平均は、引き分けを試合数に含んだ場合は62.7%、引き分けを試合数に含まないと75.1%でした。優勝するためには敗戦を少しでも減らさなくてはなりません。

敗戦数に注目すると、2000年以降の優勝チームで最も敗戦が多かったのは、2016年に年間優勝した鹿島アントラーズの『11』です。当時は2ステージ制で、制覇できなかった第2ステージ分を入れても11敗しかしていなかったわけです。一方、プロ野球は、65敗しても優勝した2015年のヤクルトの事例があります。つまり敗戦1つの重みが、J1リーグと、プロ野球とでは大きく違うのです。

そして、Jリーグと違い、プロ野球には降格がありません。最下位になっても、翌年も同じリーグで試合をすることができますので、経営面での環境が大きく変化するわけではありません。競技性とシーズンの構造、リーグの構造、この3点が監督交代に関する評価の違いになっています」

Q.プロ野球の球団が成績不振などを理由に、シーズン途中で監督を解任するデメリットについて、教えてください。

江頭さん「途中で監督が変わると、チームをつくり直さなくてはなりません。ここで『いいチーム』とは何かということを整理してみましょう。音楽のバンドやユニットには『グループ』という言葉が使われますが、スポーツにはこの言葉は使われません。スポーツマンシップの観点から、『チームは、選手のパフォーマンスの総和を超える成果を出すことができる集団』と考えられています。

例えば野球の場合、100点の選手が9人でチームをつくって、単純加算の900点のパフォーマンスしか出せない場合、いいチームとは言えません。1000点近くを出していいチームになるということです。

具体的には、相手チームの1塁ランナーが2塁への盗塁を仕掛けたときに、肩があまりよくないキャッチャーが盗塁を阻止すべく、味方のセカンドの選手にボールを投げたものの、2塁手前でバウンドした場合です。この場合、ショートとセカンドの選手が捕球技術を上げて、バウンドの送球でも盗塁を阻止できれば、キャッチャーの肩がよくない問題は解消されます。このように、チームメートの弱点を解消する補完関係がチーム内に網の目のように張り巡らされている状態が、いいチームと考えています。

この補完関係をつくるために、プロ野球ではシーズン前にキャンプとオープン戦を行い、監督も選手の強みも弱点もよく理解した上で、シーズンに向けたチームづくりをしていきます。公式戦をしながら選手同士の補完関係を構築することは、なかなかできません。そのため、途中で監督が交代した場合、ヘッドコーチなどチームの内情を理解している指導者が就任することが多いのです。プロ野球において、シーズン中の監督交代は、できるだけ回避すべきです。

一方、サッカーの場合は、全く違うフォーメーションにするために、外部から新監督を招く例も少なくありません」

Q.プロ野球の場合、球団側が監督を解任する際、「解任」ではなく、「辞任」などと別の言葉で発表することが多いと思います。なぜなのでしょうか。

江頭さん「日本のプロ野球界が軽度の“鎖国状態”にあることが関係しています。選手が世界進出することは多くなりましたが、指導者がMLB(メジャーリーグ)やアメリカマイナーリーグで成功した事例はほとんどありません。韓国リーグでわずかに聞く程度です。

プロ野球の球団が『解任』と発表した場合、解任された人の再就職が難しくなりますし、球団側は退職金のようなものを支払うことができなくなります。日本のプロ野球界は2月のキャンプインから始動するので、監督を解任された人は、それまでの間、無職で過ごさなくてはなりません。成績低迷とは言えチームの一員だった人が、次の職に就くまでの間に経済的に困窮せず、また、再就職の機会を失わないために、球団側は解任と発表しないことが多いです。

日本のサッカー界も世界に通用する指導者が少ないですが、サッカーの市場は世界に開かれているので、指導者が解任されても世界に数多くあるリーグで仕事に就く機会は残されています。例えば、外国人監督の場合、J1リーグとは合わなくても、オランダリーグとは相性が良く、結果を出す監督は存在するでしょう。指導者の転職市場の大きさが解任扱いを容易にしているのです」

Q.今後も成績不振が続いた場合、阪神タイガースの矢野燿大監督とBIGBOSS(新庄剛志監督)がシーズン途中で交代させられる可能性はあるのでしょうか。

江頭さん「個人的には矢野監督とBIGBOSSがシーズン中に交代させられる可能性は低いと思います。矢野監督はシーズン前に『今季限りで監督を退任する』と表明しており、また、BIGBOSSは監督初就任であり、2人ともキャリアにとって重要なシーズンだからです。両チームとも、いい結果を出せるよう、監督を全力でサポートするに違いありません。

『野球は2アウトから』という言葉がある通り、シーズン終了まで采配を振っていただかないと、本当の力量は分かりません。プロ野球は先述のように、通算で65敗しても、リーグ優勝が可能です。まだまだ負けても優勝は遠のきません。ファンもフロントも、監督を信じてほしいです。

スポーツものの映画や小説によくある、『最初は弱かったチームが成長して素晴らしい結果を出す』といった、わくわくするストーリーをこれから描いてくれると思います」

(オトナンサー編集部)

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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