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放置していたら網膜剥離→失明の恐れも! 「網膜裂孔」とはどんな状態?

「網膜裂孔」という目の状態があります。放置していると、「網膜剥離」になって、最悪の場合、失明に至る恐れもあるようです。眼科医に原因や治療法を聞きました。

「飛蚊症」から網膜裂孔が分かることも
「飛蚊症」から網膜裂孔が分かることも

 目に違和感があって眼科を受診したり、定期的な検診を受けたりして、「網膜裂孔」と診断される人がいます。自覚症状がない場合もあるようですが、放置していると、「網膜剥離」になって最悪の場合、失明に至る恐れもあるようです。「網膜裂孔」とはどんな状態のことなのでしょうか。かわな眼科(千葉県松戸市)の川名啓介院長に聞きました。

網膜に穴、レーザーで治療

Q.網膜とはそもそも、目の中でどのような働きをしているのでしょうか。

川名さん「網膜というのは、目の中にある神経の膜です。外から入ってきた光が網膜に当たり、電気信号に変換されて脳に情報が送られることで、『ものが見える』のです。そのため、非常に大事な膜です」

Q.では、「網膜裂孔」とは、どういう状態のことを言うのでしょうか。治療法も教えてください。

川名さん「網膜裂孔とは、網膜に穴(医学用語で『孔』)が開いている状態です。放置すると網膜剥離という病気につながり得る、怖い状態です。

原因は大きく2つあります。年を取っていくとともに、目の中にある『硝子体(しょうしたい)』というゼリーのようなものが縮んでいき、そのときに網膜を強く引っ張って穴が開く場合と、近視が強くて網膜が薄くなり、自然に穴が開く場合の2つのパターンです。

前者は多くの場合、飛蚊症(ひぶんしょう)といって、視界にごみのようなものが急激に増えて見えるという症状があります。後者の場合にはあまり自覚症状はありません。どちらもレーザーで治療します。現在の医学では網膜裂孔自体をふさぐという方法はなく、穴の周りにレーザーで小さいやけどを作り、それが治る力を使って、穴の周りを固めます。ちょうど、壁に画用紙を張る際、画用紙の端を画鋲でびっしり張り付けていって、剥がれないようにするイメージです。

実際の外来診療では、通常の視力や眼圧などを測定した後に診察を行い、『散瞳薬』という瞳を大きくする薬を点眼して、30分ほど待ちます。そうすると目の奥が詳しく見えるようになりますので、その状態で、網膜裂孔の診断を行います。

瞳が開いていれば、そのままレーザー治療ができるので、外来の混雑の具合もありますが、その後、30分~1時間程度で治療可能です。レーザーの時間は5~15分くらいですが、穴の数や大きさによって異なります」

Q.網膜裂孔を放置していると、網膜剥離になると聞きます。

川名さん「網膜裂孔が起きると、やがて、その下に眼内の水が回り込んで、剥がれてしまいます。これが『(裂孔原性)網膜剥離』です。網膜剥離になると、飛蚊症が増えて、膜がかかったように暗く感じることがあります。一番良いのは、網膜裂孔の状態で見つけてレーザー治療をすることです。網膜剥離まで悪化してしまうと、大掛かりな手術が必要となってしまいます」

Q.網膜が剥離すると、どのような点で問題があるのでしょうか。

川名さん「網膜が剥がれてしまうと、網膜が血流不足になります。そうすると徐々に壊死(えし)といって、網膜細胞が働けない状態になります。その剥がれた部分は、光を感じることができずに見えなくなってしまうのです。

そのため、網膜剥離は起きたらなるべく早めに手術する必要があります。特に物を見る真ん中が剥がれてしまった場合には、手術で治しても視力があまり上がらなくなることがあります。そのため、真ん中が剥がれた場合には、特に早めに(できれば1週間以内に)手術する必要があります」

Q.網膜剥離になった場合の「大掛かりな手術」とは、どのようなものですか。

川名さん「硝子体手術、あるいは強膜内陥(きょうまくないかん)術というものです。硝子体手術は、局所麻酔をして、目に3カ所ほど細い穴を開け、中にある硝子体を小さく切りながら、吸い取ります。多くの場合には、穴の周りに硝子体が強くくっついてしまっているので、その部分の硝子体は、特に念入りに吸い取ります。網膜を内側向きに引っ張る力をなくして、網膜を元々あった場所に戻すのです。さらに、その周りにレーザー光線で小さいやけどを作り、最後に目の中を空気や特殊なガスで置換して、手術が終わります。

空気やガスの上向きにくっつける力を利用するため、手術後はうつぶせの態勢になる必要があります。手術は1~1.5時間程度かかります。日帰りで行う施設もありますが、一般的には、1週間から10日程度の入院が必要となります。

強膜内陥術は、目の外から冷凍凝固という方法で、穴の周りがくっつきやすくなるようにします。その次に、網膜の下にたまった水を抜いて、特殊なスポンジを外から当てて、縫い付けます。比較的大掛かりな手術のため、全身麻酔で行うことが多いです。手術も1~2時間程度かかります。こちらの方法は、基本的に1~2週間程度の入院が必要になります」

Q.網膜剥離から失明する恐れもあるのでしょうか。その場合、失明を防ぐには、どうすればいいのでしょうか。

川名さん「ここまで述べたように、網膜剥離が起きている期間に応じて、網膜の機能がどんどん低下します。さらに放置すると、『増殖性硝子体網膜症』という、目の中の網膜が剥がれて、その剥がれた網膜同士が、かさぶたのような組織でくっつく状態になります。ここまでくると、手術の難易度が極端に上がり、治療が難しくなります。適切な治療をしないと、失明に至る恐れがあります。そのため、網膜剥離になった場合には、可及的に早く手術するのが望ましいです。

もちろん、先ほど述べたように、網膜裂孔の段階で治療して、網膜剥離に進まないようにするのが理想です」

Q.網膜裂孔になりやすい人はいますか。

川名さん「近視が強くなると、目の玉が大きくなります。網膜を構成する細胞の数はほぼ一定なので、網膜が相対的に薄くなります。薄くなるので、何かのきっかけで、網膜裂孔が起きやすくなります。一般に、近視が進むほど網膜裂孔は起きやすくなると考えてよいでしょう。その他、遺伝的に起きやすい人もいます。家族で網膜裂孔を起こした人がいる場合、要注意です」

Q.網膜裂孔はどのようにして見つかることが多いのでしょうか。自覚症状やセルフチェックができるのであれば教えてください。

川名さん「先述したように、網膜裂孔には大きく分けて2つのでき方があります。1つは目の中にある硝子体というゼリー状のものが、加齢とともに縮んで網膜を引っ張り、穴が開く場合です。この場合には急な変化をきたすので、多くの場合に飛蚊症といってごみのようなものが急に多く見えます。

もう一つは、もともと網膜が弱いところに穴が開く場合です。この場合には、ほとんど自覚症状が出ません。たまたま眼底検査をして見つかるということが多いです。近視が強い人は、網膜裂孔が起きやすいので、気になる場合には一度、眼科で診察を受けるとよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

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川名啓介(かわな・けいすけ)

医師(眼科)

医療法人社団かわな眼科院長・理事長。日本眼科学会認定眼科専門医、医学博士。1999年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院、日製日立総合病院、総合病院土浦協同病院勤務を経て、2006年から筑波大学大学院人間総合科学研究科講師となる。2009年、千葉県松戸市でかわな眼科を開設。「快適な眼で、人生に潤いを」を目指し、患者さんにわかりやすい医療を提供することを目指している。専門分野は白内障、緑内障。かわな眼科(https://kawanaganka.com/)。公式YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCS1bdAnSyjcnZSuM38PLzKQ)。

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