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他人とのトラブルの可能性も…貧乏揺すりをしてしまうのはなぜ? 減らすことはできる?

貧乏揺すりをしてしまうのはなぜなのでしょうか。考えられる原因や対策について、専門家に聞きました。

貧乏揺すりをしがちなのはどんなとき?
貧乏揺すりをしがちなのはどんなとき?

 職場や学校にいるときに、近くに座っている人が貧乏揺すりをすることがあります。机や床が揺れるので、振動や物音がどうしても気になりますし、試験会場のような集中力が求められる場所で貧乏揺すりをすれば、他の人とトラブルになる可能性もあります。ただ、中には貧乏揺すりをするのが癖になっていて、やめようと思ってもやめられない人もいるようです。そもそも、人はどのようなときに貧乏揺すりをすることが多いのでしょうか。また、貧乏揺すりの頻度を減らすことは可能なのでしょうか。あんどう内科クリニック(岐阜市)の安藤大樹院長に聞きました。

「やめよう!」と考えるのは逆効果

Q.人はどのようなときに貧乏揺すりをすることが多いのでしょうか。また、貧乏揺すりがひどい場合、病気の可能性を疑った方がよいのでしょうか。

安藤さん「一般的にはフラストレーション(欲求不満)がたまったときに起きやすい現象で、例えば、『上司に叱られた』『部下が思い通りに動かない』『子どもが全然言うことを聞かない』といった場面で無意識のうちに出ることがあります。また、貧乏揺すりに限らず、『爪をかむ』『頭をかきむしる』『にきびをつぶす』『指でテーブルをたたく』といった、無意識に無意味な動作を繰り返すことを『固着反応』と言います。いずれもストレスとの関連が深い動作です。

なお、単なる貧乏揺すりの中に『レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)』という病気が隠れている場合があります。主に脚を中心に、自分の意思とは関係なく体が動いてしまい、ひどくなると激しくドラムをたたいているような大きな動きや、水の中でもがいているような大きな動きになります。夜中に起こることが多く、ひどい場合は十分に眠れなくなることもあります。貧乏揺すりがどんどんひどくなり、腕の方まで症状が広がってきた場合は、迷わず医療機関に相談してください」

Q.貧乏揺すりが心理面や体調面に与える影響について、メリット、デメリットを含めて教えてください。

安藤さん「最近になって、人が貧乏揺すりをする原因として、情緒に関わる重要なホルモンである『セロトニン(別名:幸せホルモン)』が関わっていることが分かりました。セロトニンとは、私たちの心に安らぎをもたらしたり、ノルアドレナリンやドーパミンといった神経伝達物質の作用をうまく制御したりする、非常に重要なホルモンの一つです。

ストレスがたまったり、睡眠不足や不規則な生活が続いたりして、セロトニンが減ると、不安感や緊張感、意欲低下などの症状が出ますが、これを増やすのに有効なのがウオーキングやダンスなどのリズム運動であることが分かっています。つまり、足を小刻みに揺らし続ける貧乏揺すりは、セロトニンを増やす最もお手軽なリズム運動なのです。

また、貧乏揺すりは医学用語で『ジグリング』と呼ばれ、最近はさまざまな医学的効果がある運動として注目されています。具体的には『血流改善による足先の冷えの改善』『小刻みな筋肉の収縮による筋力アップ』『ふくらはぎの刺激によるむくみ改善』『関節の間にある軟骨を再生させ、関節痛を予防する』などです。

デメリットは行為そのものよりも、行為による影響の方でしょう。貧乏揺すりを続けていると、『行儀が悪い』『落ち着きがない』『品がない』『緊張感がない』など、周囲から眉をひそめられるかもしれません。中にはなかなか貧乏揺すりが止まらず、無意味に時間を過ごしてしまい、気付いたら予定の時間を過ぎていたということもあるでしょう。フラストレーションは誰でも感じるものだからこそ、貧乏揺すりなどの固着反応には気を付けたいものです」

Q.では、貧乏揺すりの頻度をできるだけ減らすにはどうしたらよいのでしょうか。

安藤さん「先述のように、貧乏揺すりをはじめとした固着反応はフラストレーションを健康的に解消できますが、周りの人に不快感を与えてしまうこともあります。そこで、次のことを試してみてください。

【(1)貧乏揺すりをしていることに『気付く』】
固着反応は無意識に始めてしまうものなので、完全にやめるのは難しいですが、やっていることに『気付く』ことはできます。そこで、自分がどういった場面でその行動をしやすいかを知っておく必要があります。つまり、貧乏揺すりが『起こりやすい環境』(テスト中、会議中、リモート作業中、上司との会話中など)や『起こりやすい感情』(焦っているとき、苦手な人と一緒にいるときなど)、『起こりやすい姿勢』(低めの椅子に座っているとき、スリッパを履いているときなど)を把握することが大切です。

【(2)貧乏揺すりの原因を『具体化する』】
貧乏揺すりが持つネガティブなイメージのために、貧乏揺すりをしていることに気付いたときに『またやってしまった。自分はダメだ』と悪く考えてしまいがちです。そのときは『もうやったらダメだ』と反省すると思いますが、その反省が新たなストレスとなり、『さらに貧乏揺すりをする』という負のサイクルに陥ります。そこで、貧乏揺すりをしても反省するのではなく、『自分はストレスがたまっている』と認識した上で、その原因を具体化するとよいでしょう。

【(3)貧乏揺すりを他の行為に『置き換える』】
貧乏揺すりをしていることに気付き、その原因を具体化したら、少しでも意識をそらすために、他の行動に置き換えましょう。効果的なのは、その場を離れることです。例えば、トイレなど別の場所に行き、気分を変えてみましょう。その他にも『伸びをする』『深呼吸する』『さゆを飲む』など何でも構いません。会議中やテスト中など動きにくい環境の場合は、自分の胸に手を当てて鼓動を感じたり、手首で自分の脈を数えたりするのもよいでしょう。『貧乏揺すりをしたらこう行動する』というルーティンをつくっておきましょう」

Q.家族や知人、職場の同僚の貧乏揺すりが気になる場合、どのように接したらよいのでしょうか。

安藤さん「貧乏揺すりをしているということは、相手はストレスによって論理的な考え方ができなくなっている可能性があります。下手に声を掛けると、相手をいら立たせてしまうかもしれません。

そこで、まずは相手がストレスや不安といった不安定な気持ちを抱えているということを認識してください。『貧乏揺すりが不快』という感情をぶつけるのではなく、例えば相手が家族や友人、職場の後輩であれば、『何か悩み事があるの?』『心配事があるなら相談に乗るよ』といった優しい言葉を掛けてみましょう。また、温かい飲み物やスイーツなどをそっと差し入れるのも有効でしょう。

一方、伝える相手が自分の上司の場合は、対応も格段に難しくなります。関係が近い上司なら勇気を持って貧乏揺すりを指摘してもいいと思いますが、その際は貧乏揺すりをやめてもらいたいのは、あくまでも『こちら側の都合』であることが伝わるようにする必要があります。ダメ出しをするようなそぶりは厳禁です。あくまで『お願い』をする形にして、相手がやめてくれたら、『ありがとうございました』と感謝の言葉を伝えましょう。

ただし、注意点があります。先述のように、貧乏揺すりをはじめとする固着反応は、意識すればするほど出やすくなる反応です。否定されたことで『もうやってはダメだ』と意識しすぎることで、かえって固着反応に意識が集中してしまい、結果的にその反応を繰り返してしまう場合があります。一度伝えても相手が繰り返してしまう場合、さらに伝えることは避けるのが無難です。むしろ、その人の背後にあるストレスの原因に目を向ける方が、現実的な解決法です」

Q.ちなみに、なぜ貧乏揺すりと言うのでしょうか。

安藤さん「貧乏揺すりという名前の由来は諸説ありますが、明確な理由はまだ分かっていません。例えば、『足をゆすると貧乏神に取りつかれる』と言い伝えられてきた説、貧乏な人が飢えや寒さに耐えるために体を小刻みに震わせていた様子から命名された説、江戸時代の高利貸が貧乏人から取り立てをするときに、いら立って足を小刻みにゆすっていた様子から命名された説など、江戸時代を起源とした説が多いです。いずれにしても、ネガティブなエピソードから始まっていることは間違いないようです」

(オトナンサー編集部)

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安藤大樹(あんどう・だいき)

医師

2004年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業。同年藤田保健衛生大学病院(現・藤田医科大学病院)初期研修、2006年に一般内科入局。2007年より医局長、2011年、総合診療内科/救急総合内科医局長を務める。2015年、岐阜市民病院総合診療・リウマチ膠原(こうげん)病センターに医員として着任。同年、同大学救急総合内科客員講師。2017年より、あんどう内科クリニック院長として治療に当たる。2018年、岐阜市民病院研修管理委員会外部委員、2020年、岐阜大学医学部総合病態内科学客員講師。あんどう内科クリニック(http://andoc-clinic.com/)。

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