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全国初! 鳥取県「全学年30人学級」方針を手放しで称賛できない理由

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

30人学級は先進的?
30人学級は先進的?

 鳥取県の平井伸治知事が1月20日の定例記者会見で、県内公立小学校の全学年を30人学級にする方針を発表しました。実現すれば、全国初だといいます。一方、文部科学省は2025年度までに順次、小学校の全学年を35人学級にする計画を進めています。鳥取県の取り組みは、全国的な動きの一歩先を行く先進事例といえますが、果たして、ただ、手放しで称賛していて、いいものでしょうか。

独自の引き下げ、既に広がる

 まず確認しておきたいのは、鳥取県では既に小学校の1、2年生が30人学級になっていることです。3~6年生は35人(全国レベルでは2025年で完全実施することを、既に実現しているのです)で、これを2022年度から順次、30人に引き下げ、2025年までに全学年を30人学級にそろえよう、というわけです。

 一部の学年であれば、30人以下の学級にすることは珍しくありません。文科省によると2020年度の段階で、都道府県・指定都市のうち、独自の取り組みとして小中学校の少人数学級を実施しているところが、67自治体中64自治体ありました。具体的には、40人学級の学年を35人学級に引き下げる例が55自治体と最も多くなっています。特に30人以下学級は、小学校で19自治体、中学校で6自治体が実施。このうち小学校の対象学年は、1年生が17自治体、2年生が15自治体となっています。鳥取県もその一つでした。

 この他、政令市ではない市や区で、独自に教員を採用し、少人数学級を実現する例もあります。

背景に地方への権限移譲

 かつては学級定員にも、国による厳密なルールが適用されていました。公立小中学校などの教職員給与の2分の1を国が負担していた時代には、国庫負担の根拠となる法律に従う必要があったからです。

 2000年ごろ、教育面でも地方に権限や財源を委譲すべきだという声が強まりました。それを受けて文科省は2004年度、国のルールに縛られることなく教職員数を自由に決められる制度を導入。2006年度には国の負担率を3分の1に引き下げたことで、ますます地方の裁量が強まりました。

 この流れの中では、地方独自に学級定員を引き下げることが、むしろ奨励されました。今回、国の基準として40人学級を35人学級に引き下げるということは、「独自にもっと下げてもいいよ」というメッセージでもあったわけです。

教育の自治体格差も招く

 かつて学級編成に厳格なルールが適用されていた時代には、全国どこに住んでいても国が責任をもって等しく義務教育の水準を確保する、という大きな理念がありました。20世紀のうちは、選挙で選ばれる首長にとって「教育は票にならない」と言われていたほどです。

 しかし地方への権限移譲によって、むしろ「教育が票になる」状況が生まれました。予算の権限を持つ首長の判断次第で、その自治体の教育条件を良くすることができます。裏を返せば、住んでいる自治体によって教育条件が違うことにもつながりました。

 一方、一般公務員と同様に、給与を引き下げて教職員の数を増やす動きも広まりました。正規教員1人分で臨時任用教員2人を採用することも、普通になっています。

 1月31日の文科省の発表では、全国の公立小中学校で、2021年度当初に2000人以上の「教師不足」が発生していたことや、2021年度の教員採用試験で、小学校の倍率が過去最低の2.6倍となったことが明らかになりました。実は、これらの問題も、国の縛りが弱まったことに加え、国の基準自体が15年以上も大きな改善ができず、現在の中堅層の採用を抑えたことから、教員の年齢構成がアンバランスになっていることが背景にあります。

 今になって国の基準による35人学級が実現したのは、遅きに失したと言えるかもしれません。鳥取県の取り組みはもちろん良いことなのですが、それが「先進事例」と見えるのは、実は、周囲や国全体の動きが遅過ぎる裏返しともいえます。このまま地方の裁量に任せていては、教育条件の自治体間格差も広がるばかりです。手放しで称賛していいか、疑問が残るのはそれゆえです。

 ますます多様化する子どもに対して、現代にふさわしい教育条件はどうあるべきか、真剣に考えなければいけない時代に来ていることだけは、確かなようです。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。

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