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あなたの近くにスパイがいるかも? 「外国人スパイ」の特徴を元警視庁公安部外事課捜査官が語る

元警視庁公安部外事課捜査官が“外国人スパイ”の特徴について教えてくれました。外国人スパイの実態とは…。

外国人スパイの実態とは…
外国人スパイの実態とは…

 “スパイ”を題材とした映画「ミッションインポッシブル」シリーズや「キングスマン」シリーズなどが好きな人も多いのではないでしょうか。普段、何気なく生活していますが、街ですれ違ったりしている人の中には、正体を隠し、スパイ活動をしている人物がいるかもしれません。

 スパイ捜査官として外国からの諜報活動の取り締まりを行っていたという元警視庁公安部外事課捜査官で日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんに、さまざまな質問をしてみました。

「スパイと近距離で目が…」 恐ろしさ&スキルの高さに驚愕

Q.ずばり、“外国人のスパイ”の容姿と特徴はどのような感じなのでしょうか?

稲村さん「スパイが属する国によって特徴が異なってきます。警察白書で指摘されている日本にスパイ活動を行う主な国としてロシア、中国、北朝鮮が挙げられています。

ロシアは、外交官などの公的身分を有して入国し、日本でスパイ活動を行います。スパイとしてのスキルが非常に高く、日本語も堪能で、自身が担当する専門領域の知識に長けています。例えば、ロシアのスパイ機関である『SVR(ロシア対外情報庁)』では、科学技術の情報は“ラインX”、政治関連は“ライン●”、暗殺は“ライン▲”といった形でチームに分かれています。

彼らは皆さんがイメージする『スパイ』のイメージに近い一方で、情報収集の際は人当たりが非常に良く、日本人に容易に接近し、その心を奥深くまでつかんでしまいます。その見た目はロシア人そのものであり、スマートな人からお酒好きの恰幅(かっぷく)いいスパイまでさまざまです。

中国は、ロシアとは異なり、外交官などの公的身分のスパイも含む一方で、普通のビジネスマンや留学生、主婦といった形で、多くのチャネルを使って情報収集を行います。

その手法は『千粒の砂戦略』と言われ、スパイ工作員や外交官だけを使うのではなく、世間に浸透している中国人をチャネルの一つとして、砂浜の粒をかき集めるように広く細かな情報を収集していきます。善意の在日中国人を利用したり、フロント企業や友好団体を表に掲げる場合が多く、その実態の把握は極めて難しい状況です。

見た目はやはりアジア人のため、日本社会に非常になじみやすい特徴があります。

北朝鮮は、ロシアのように典型的な工作員がスパイ活動を行う一方で、同じアジア人なので中国のように日本社会に浸透しやすく、日本で活動する足場として在日朝鮮人の特別永住者などの協力者(=土台人)を使って活動を進めていきます。

代表的な事件は拉致事件ですが、韓国などでは暗殺も行っており、その実態は法を冒すことを全くいとわない危険な工作員となります。

見た目は同じアジア人のため、日本社会に非常になじみやすい特徴がありますが、その任務の厳しさから、精悍(せいかん)で厳しい目つきをしているとされます」

Q.外国人スパイの目的は、どのような内容が多いのでしょうか。

稲村さん「スパイの目的はさまざまです。まずは、情報収集です。日本の先端技術や国防に関する情報、外交、政治、経済など非常に多くの情報を収集します。

そして、影響力工作です。メディアを使ったプロバガンダ、偽情報の流布、政界への働きかけなど多くの工作を通じ、日本の世論を誘導し、自国に有利な日本の在り方を作っていきます。

中国で言えば、例えば“日本と米国の分断”が中国にとって非常に重要であり、時にその意図が日本政府に対する活動家による抗議活動とつながって透けて見えることもあります。

米国では、ロシアや中国による選挙介入(候補者への脅迫やハニートラップ、SNSを駆使した偽情報の流布)が話題となりましたが、同様の危険は日本でも懸念されています。

現に、我々日本社会が気が付いていないだけで、相当数行われているものと推察します。また、日本では数多く見られていませんが、破壊工作も挙げられます。

例えば、ウクライナ侵攻後、ロシアが北海で漁船や調査船を装ってスパイ活動をし、風力発電所や通信ケーブルなど重要なインフラ施設を破壊する計画を立てていると報道されています。

Q.外国人スパイは、我々一般人の中にどのように溶け込むのでしょうか。また、接触してきたりする可能性はあるのでしょうか。

稲村さん「スパイはターゲットのことを徹底的に調べ上げます。中国のハニートラップでは数年単位でターゲットを調査し、家族構成や交友関係はもちろん、趣味嗜好(しこう)、性癖まで知り尽くした後に、機会を見計らって工作を行う場合もあります。

その上で、スパイは非常に人当たりがよく、相手が話に応じてくれるよう、調べ上げた情報とスパイが持つ人心掌握術を組み合わせて巧みにすり寄ってきます。

例えば、ロシアのスパイは日本人に接触する場合、道を聞いたり、偶然隣席に座って話しかけてみたりと、ターゲットにふと話かけて、連絡先の交換、情報の交換、機密情報の収集までこぎつけてしまいます。

そもそもターゲットとされる人物は、機密情報を持つ人物だけではなく、そういった人物と交友関係を持つ人物などスパイ活動の“足掛かり”となりそうな人物もターゲットとなります。例えば、機密情報を持たない人であっても、スパイが影響力工作に使いたい団体の人物と交友関係にある人物なども狙われます。

要するに、自分がターゲットとなるかは判断できず、あくまで『スパイが欲しいモノを決める』という理解になります。

Q.稲村さんはどのように諜報活動の取り締まりを行っていたのでしょうか。何かエピソードがありましたら、教えてください。

稲村さん「公安部時代の具体的なエピソードは一切お話できませんが、外国による日本でのスパイ活動を目の前で見てきたので、彼らの恐ろしさとスパイスキルの高さに驚愕(きょうがく)しました。

一度、スパイと近距離で目が合ってしまったことがあるのですが、それだけで恐怖を覚えるほどです。彼らはプロ中のプロです。

民間の経験では、違法なスパイ活動ではなく、合法的な経済活動を通じた日本の技術窃取の現場を見てきました。例えば、一見、先端技術を有しない日本企業とその役員を深掘り調査してみると、背後に中国共産党の強い影響下にいる人物が潜み、その日本企業を通じて良質な技術を持つ日本企業と提携を試みていたような事例もあります。

また、ある小さなメディア関連企業のドメイン情報などから、北朝鮮系のメディアとつながっている状況を把握したような事例もありますが、そういった形で影響力工作が深い水面下で行われていると認識しました」

Q.一般人がスパイ活動をしている人を見抜くのは難しいのでしょうか。

稲村さん「難しいです。捜査権限とリソース、ノウハウを持つ捜査機関でさえ、スパイ活動を把握するのは困難です。そのような中で、我々一般人がスパイか否かを見極めるのは至難の業です」

Q.もし、一般人が「この人、スパイかも!」って思ったら、どこに相談すればいいのでしょうか。

稲村さん「ぜひ警察に相談することをお勧めします。その際、110番ですと緊急性の高い事案の通報が阻害されてしまうので、緊急性のない場合は、所轄の警察署に電話をし、相談することが重要です。

また、警視庁公安部外事課の経済安全保障に関する相談窓口や、公安調査庁の通報窓口『公益通報窓口』も相談窓口として機能しています」

 稲村さんによると、外国人スパイは身近に存在しているようです。一般人に「スパイだ」と見抜くのは難しいようですが、何かトラブルに巻き込まれる危険性を感じるようなことがあったら、警察に相談するようにしましょう。

(オトナンサー編集部)

稲村悠(いなむら・ゆう)

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事/国際政治・外交安保オンラインアカデミー「OASIS」フェロー

 警視庁元警部補。警察学校を首席で卒業し、同期生で最も早く警部補に昇任。警視庁公安部外事課の元公安部捜査官として、カウンターインテリジェンス(スパイ対策)の最前線で多くの諜報活動捜査及び情報収集に従事、警視総監賞など多数を受賞。退職後は金融機関社内調査や調査委員会による不正調査従事を経て、経済安全保障や地政学対応コンサル、諜報活動対策支援や研修、安全保障・危機管理講師などで活躍中。多数のテレビ番組に出演しているほか、メディアで寄稿も行っている。著書「元公安捜査官が教える『本音』『嘘』『秘密』を引き出す技術」(WAVE出版)がある。

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