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便意や腹痛、日常生活に支障も…「おなかが弱い」体質は変えられる?

慢性的な腹痛や下痢などに悩まされている「おなかが弱い人」がいます。日常生活に支障が出るケースもあり、「この体質を変えたい」と思っている人も多いですが、可能なのでしょうか。

「おなかが弱い」体質、変えられる?
「おなかが弱い」体質、変えられる?

「しょっちゅう、おなかが痛くなる」「急な下痢に襲われることが多い」。こうした慢性的なおなかの不調に悩まされている「おなかが弱い人」は少なくありません。中には、場所を問わず、急な便意に襲われたり、腹痛が毎食後起きたりと日常生活に支障が出かねないケースもあるようです。

 ネット上では「年中、おなかを下しています」「おなかの不調は日常のことなので、症状が出ても放置している」「この体質を変えられるなら変えたい」などの声が聞かれます。おなかが弱い体質は変えることができるのでしょうか。みどりクリニック(札幌市清田区)の笹島順平院長(消化器科)に聞きました。

遺伝的、心理的な要因も

Q.おなかが弱い人にみられる胃腸のトラブルには、どのようなものがありますか。

笹島さん「いわゆる、おなかが弱い人とは、おなかの症状を慢性的に自覚している患者さんです。よくみられる症状としては、みぞおちや下腹部の痛みといった腹痛症状、おなかの張りや胃もたれなどの腹部膨満感、下痢や便秘を繰り返すといった、便に関する不具合、そして、それらの症状が日常的に起こることに対する不安感などがあります。これらは健康な人でも一度は自覚した経験があると思いますが、おなかの弱い人はこうした症状を自覚する頻度が多い人といえます。

症状があっても、胃カメラで胃炎や胃潰瘍などの原因が判明した場合は、治療することで症状も治まります。しかし、いろんな検査をしても原因となる病気が見つからず、慢性的におなかの症状に悩まされているのが、おなかの弱い人です。医学的には、みぞおち中心の胃の症状が主の場合は『機能性ディスペプシア』、便に関係する腸の症状が主の場合は『過敏性腸症候群』と呼ばれています」

Q.おなかが弱い人によくみられる特徴はありますか。

笹島さん「先述の機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群と診断される人は若年層の女性に多いといわれていますが、日本ではまだ、見解が定まっていません。実際、高齢者の男性でもおなかの弱い人はよくみます。実際に診療していて感じるのですが、おなかの弱い人は、おなかが弱いことを自分で十分に自覚しているためか、食生活や生活習慣について既に十分注意されていることが多いです。

おなかの弱さには遺伝的な要因や幼少時の虐待、感染性胃腸炎の経験などが関係している可能性が報告されていますが、さまざまな因子が複雑に関与していると考えられます。中でも重要なのが、不安感との関連が強いといわれている点です。『不安を感じやすい人はおなかも弱い』というのは皆さんも納得しやすいことだと思います」

Q.なぜ、おなかが弱い人とそうでない人がいるのですか。

笹島さん「私たちは自分の意思で胃腸を動かすことはできません。動かしているのは自律神経です。自律神経は交感神経と副交感神経という2種類の相反する神経が拮抗(きっこう)し合い、自動的に調節されています。過剰に動けば痛みや下痢となり、逆に動かなければ膨満感や便秘、吐き気といった症状につながります。

食事を取ると自動的に自律神経が反応し、胃腸が適切に動くことで消化→吸収→排便と進みます。これにより、食事をしたら胃腸が動いて、もともと腸にあった便が出るのです。この調節がうまくいかないことがおなかの弱さにつながると考えられます。つまり、おなかの自律神経機能不全が『おなかの弱さ』の正体だと思います。

自律神経の発達は遺伝的な要因や幼少期の生活環境が大きく影響します。また、自律神経の中枢は脳なので、脳の状態によっても大きな影響を受けます。学校や会社でのストレス、自身の不安を感じやすい性格は少なからず、自律神経機能に影響を及ぼします。おなかの弱さの原因はいまだに分かっていないことが多いですが、このように遺伝的要因、心理社会的因子、生活環境、ライフスタイルといった要素が複合的に関与していると考えられているのです」

Q.慢性的な胃腸の不調が日常化している人の中には、症状が出ることに慣れてしまい、放置しているケースもあるようです。放置してもよいのでしょうか。

笹島さん「おなかの弱い人は慢性的に症状を感じるため、生活の質が低下するといわれていますが、おなかが弱い人が皆、医療機関を受診するわけではないと思います。症状が続く期間ではなく、症状の強さが受診行動につながっているといわれます。ただ、おなかが弱いことで余命が短くなるという報告はなく、慢性的なおなかの不調を自覚していても、症状の程度が軽ければ、放置しても問題はないでしょう」

Q.おなかが弱い体質を改善することは可能でしょうか。

笹島さん「先述したように、おなかの弱さにはさまざまな因子が複雑に絡んでいるため、体質を完全に変えることは容易ではありません。しかし、心理社会的な要因は環境を整えることで緩和が可能かと思いますし、ライフスタイルの乱れを正すことで改善できるかもしれません。

食事や生活習慣については、満腹まで食べずに少量ずつ複数回に分ける▽高脂肪食を避ける▽禁煙する▽飲酒やコーヒー摂取を避ける――といったことが推奨されていますが、実際の改善の程度は個人によって変わってくるでしょう。また、治療で症状が改善すれば、毎日の生活がよりよいものになることが期待されるので、かかりつけの医師に相談することもおすすめします」

Q.おなかが弱い体質とうまく付き合っていくためのポイントとは。

笹島さん「腹痛や下痢、便秘、不安を感じることは程度の差はあれど、誰しも経験するものです。私は『おなかが弱い』ことは皆、多かれ少なかれあるもので、決して異常なことではないと常日頃から、患者さんにお話ししています。そのような自分を受け入れ、上手に『おなかの弱さ』と付き合っていくことが大切だと思います。

心療内科の治療法に『認知行動療法』があります。患者さん自身がどういう状況で症状が出るかを解析し、症状改善・回避のためにどのような考え方や行動を取るのが適切か考えて、認知・行動を変えていく治療法です。おなかの症状が出現するときの、自分の行動や心理状態はどうだったかを振り返ってみると、自分の体質とうまく付き合うコツをつかめるかもしれません。

『おなかの弱さ』はおなかの調節機構の不調であるとともに心の影響も大きいので、心の健康を保つことも重要だと思います」

(オトナンサー編集部)

笹島順平(ささじま・じゅんぺい)

医師(消化器科)

医療法人社団緑稜会理事長。みどりクリニック院長。旭川医科大学大学院医学研究科修了後、旭川医科大学第三内科に入局。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院への留学、胆道や膵臓(すいぞう)の専門医、膵がんの研究者としての17年間の勤務経験を経て、2019年に緑稜会の理事長に就任。患者さまやご家族にご納得いただける「心ある医療」を目指し、北海道で長沼内科消化器科、みどりクリニック(訪問診療)を運営。みどりクリニック(http://www.midori-clinic.jp/)。

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