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つり革が握れない…「潔癖症」を医学的に言うと? 原因や対処・治療法は?

いわゆる「潔癖症」として知られる、他人が触れた物や汚れを過度に気にする性質。「きれい好きとはどう違う?」「治すことはできる?」などの疑問について、精神科専門医に聞きました。

「潔癖症」とは?
「潔癖症」とは?

「電車のつり革を握れない」「何度も手を洗わないと気が済まない」「他人が作ったおにぎりやサンドイッチが食べられない」…このような、他人が触れた物や汚れ、雑菌などを過度に気にする性質はいわゆる、「潔癖症」として知られています。近年はコロナ禍による、感染リスクにさらされた生活の中で、もともとの潔癖さに拍車が掛かっているケースもあるようです。

 潔癖症について、ネット上では「どうして潔癖症になるんだろう」「きれい好きとはどう違う?」「治す方法はあるの?」など、さまざまな疑問の声が上がっています。潔癖症とはどのようなものなのか、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

生活に支障が出たら要注意

Q.潔癖症とは何でしょうか。いわゆる、「きれい好き」とはどう違うのでしょうか。

田中さん「潔癖症とは実は、精神障害の病名ではありません。潔癖症は『強迫性障害』という心の病気と関係があり、医学的には両者を区別することが重要になります。潔癖症の人は自分の体を清潔に保つために、外出中は汚染している(またはその可能性がある)物には触らないように気を付け、帰宅後は忘れずに手を洗い、うがいをします。

帰宅後、すぐにシャワーを浴びて、服を着替えたいという人もいるでしょう。家では、小さなごみやホコリを見つけると徹底的に掃除をします。自分の物を他人に触られることを嫌う人もいるでしょう。周囲の人からすれば、こうした行動は単なるきれい好きを通り越して、『ちょっぴり窮屈だな』『過剰だな』と感じるかもしれません。

一方、強迫性障害の人は不必要なまでに手洗いや掃除を何十回も繰り返し、日常生活に支障が出てきます。強迫性障害の場合には、何らかの脳機能の異常があるのではないかと考えられています」

Q.なぜ、潔癖症になるのですか。原因や発症のきっかけとして多いことはあるのでしょうか。

田中さん「きちんとした医学的なデータはないのですが、潔癖症はいわゆる、『きれい好き』な家庭で育った人に多いかもしれません。そうした人が昨今のコロナ禍で、感染症について膨大な量の情報にさらされ、状態を悪化させていることは十分にあり得ることだと思います」

Q.自分の潔癖の度合いについて、「もしかしたら、強迫性障害かもしれない」と気付くためのポイントはありますか。

田中さん「これまで、家族や友人から指摘されて、『自分は潔癖症かもしれない』と自覚している人は結構多いのではないでしょうか。ただ、最初のうちは潔癖にすることで気分がスッキリしていたのが、知らず知らずのうちに『やらなければならない』という考えに縛られ、苦痛を感じるようになってきたら要注意です。だんだんと手洗い、掃除、洗濯などの『繰り返し行為』が過剰になって、一日の大半の時間を費やしてしまう場合、強迫性障害を発症しているかもしれません」

Q.自分自身や家族が潔癖すぎるあまり、強迫性障害かもしれないと思ったとき、どうするのがよいのでしょうか。

田中さん「例えば、自分の物を他人には絶対に触らせない▽洗い過ぎて手が荒れている▽外出するのが一苦労になっている▽ごみの量が多い▽水道料金が高い、などの様子がみられたら、強迫性障害の発症を疑って、精神科クリニックの受診を検討してください。

もし、受診に迷うときには、自分自身できれいにしなければならないと思っている(実際にきれいにしている)場所、きれいにする方法とその時間を書き出してみるとよいでしょう。そして、家族や友人に、それが過剰になっているかどうかを確認してみてください」

Q.潔癖症の診断基準や治療法はあるのでしょうか。

田中さん「最初に述べたように、潔癖症は精神障害の病名ではなく、それだけでは治療の必要はありません。従って、診断基準もありません。一方、日常生活に支障が出ている強迫性障害の場合、アメリカ精神医学会による診断基準があり、薬物療法や行動療法などの専門的な治療が行われます」

Q.コロナ禍の影響で、もともとの潔癖症の傾向が、より過度に出ているケースもあるようです。潔癖症の人、また、身近に潔癖症の家族・友人がいる人に向けて、アドバイスはありますか。

田中さん「意外に忘れられているのが、潔癖症の人は『きれいにしてしまえば、気分がスッキリする』ということです。周囲から注意され、『やめなきゃいけない』と思いながらも結局、やってしまってつらいという人がいますが、きれい好きであることに罪悪感を抱く必要はありません。むしろ、自分が思うように『きれい好きの行動』をやり切った方が、気分が安定します。

さらに、やり切ることによって、『きれい好きの行動』を終わらせることができるなら、『繰り返し行動』に自分でも苦しむ強迫性障害に移行する心配はないといってもよいでしょう。周囲の人は潔癖症の人のことを『治そう』と必死にならず、そっと見守るくらいの方がよいのかもしれません」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医、産業医)・公認心理師

1974年生まれ。久留米大学附設高等学校、東京大学医学部卒業。杏林大学医学部、獨協医科大学埼玉医療センターなどを経て、現在は東京芸術大学保健管理センター准教授。芸術の最先端で学ぶ大学生の診療を行いながら、「心の問題を知って助け合うことのできる社会づくり」を目指し、メディアを通じて正しい知識の普及に努めている。都内のクリニックで発達障害、精神障害などで悩む小中高生の診療も行っている。エクステンション公式YouTubeチャンネル内「100の質問」(https://youtu.be/5vN5D9k9NQk)。

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