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逃れられない宿命? 「視力」に遺伝が関係するのは本当なのか

「視力」は、さまざまな生活習慣に左右される部分が大きいものですが、遺伝の影響はあるのでしょうか。眼科医に聞きました。

視力は遺伝する?
視力は遺伝する?

「視力」というと、テレビやスマホ、タブレット端末などの使用頻度をはじめ、さまざまな生活習慣に左右される部分が大きいものですが、子どもを持つ親の中には「視力の遺伝」を気にする声も少なくありません。ネット上では「夫婦そろって視力が悪いせいか、小学生の子どもも既に眼鏡」「遺伝からは逃れられないのかな」といった体験談の他、「そもそも、遺伝するのは事実なの?」「両親とも視力が悪い場合、どうしたらいい?」などの疑問の声もあります。

 視力に遺伝が関係するというのは本当なのでしょうか。かわな眼科(千葉県松戸市)の川名啓介院長に聞きました。

視力は「2点を分離できる最小の視角」

Q.そもそも、「視力」とは何でしょうか。「視力がよい/悪い(矯正が必要)」とされる数値についても教えてください。

川名さん「視力は『2点を分離できる最小の視角』と定義されます。要するに、遠くにある2つの点をきちんと『2つ』だと分かるということです。5メートルの距離で、視力検査で用いられる『ランドルト環』(“C”のような形に見えるもの)の隙間が1.5ミリであるものを見分けられると視力は1.0となります。ちなみに、この“C”の大きさが7.5ミリで線の幅が1.5ミリです。この10倍の大きさでないと分からない場合が視力0.1となるのです。

視力がよい/悪いというのは相対的なものですが、学校保健安全法に基づく基準では、1.0以上を『A』、0.7以上を『B』としています。眼鏡をかける基準として0.7程度が目安となっているので、裸眼視力で0.7以上をおおむね、『視力がよい』としていると考えられます。そうすると、0.6以下が『(裸眼)視力が悪い』といえるのではないでしょうか」

Q.小学生の子どもにとって望ましいとされる視力は、おおよそどのくらいですか。

川名さん「学校保健安全法に基づく基準が目安になると思います。一般的には1.0以上が望ましいといわれますが、0.7あれば、黒板の字はおおよそ識別可能と考えられるので、小学生では裸眼で0.7以上の視力が望ましいといえるでしょう。低学年では、先生が黒板の字を大きく書くことが多いため、文字が識別しやすく、0.5程度でも問題ない場合があります。高学年になるにつれて、文字の大きさが小さくなるので、よりよい視力が必要と考えられます」

Q.視力に影響を及ぼす要素や病気が遺伝することはあるのですか。

川名さん「夜間に見えにくくなったり、進行すると視力が下がったりすることがある『網膜色素変性症』という病気があります。発症率は4000〜8000人に1人と低い確率ですが、50%程度の人に遺伝が関与することがあります。また、『レーベル遺伝性視神経症』という病気もあり、こちらは大人になってから、徐々に視力が低下するというもので、母型遺伝の形式を取ります。しかしながら、非常にまれな病気です。

つまり、視力低下の可能性がある病気については遺伝が関与する場合もありますが、確率としては非常に低いものです。あまり気にしすぎない方がよいと思われます」

Q.近視や遠視、乱視などの有無も遺伝の影響を受けるのでしょうか。

川名さん「近視は遺伝の要素が強いと考えられています。これは、一卵性双生児では同じくらいの近視になりやすいことや、両親が近視の場合、そうでない場合に比べて、子どもが近視になりやすいことから説明できます。

ただし、特定の1つの遺伝子の問題ではなく、複数の遺伝子が関与していると考えられているため、確率の計算は極めて困難といわざるを得ません。両親が近視でなくても、子どもが近視になる場合もありますし、その逆に両親が近視であっても、子どもは近視にはならない場合もあるということです。

遠視は少しだけ遺伝することがあるといわれていますが、実際の臨床上においては、ほとんど見られません。乱視についても、遺伝の関与はいわれておりません。眼科で診察する患者さんで、眼鏡などで矯正が必要な子どものうち、近視が9割5分程度で、その他の遠視や乱視はごく少数です」

Q.両親の視力が低い場合、どうすればよいですか。遺伝の影響を最小限にすることは可能なのでしょうか。

川名さん「遺伝の要素については、受精卵に入る遺伝子を調節することができないため、影響を減らしたり、増やしたりするのは困難です。近視によって裸眼視力が低い場合、その近視の進行抑制が重要になります。

近視は遺伝の影響によって最初の程度が決まりますが、その後の成長過程において、環境要素の影響を強く受けます。スマホやタブレットといった近くのものを長く見ることや、屋外活動が少なく、太陽光に当たる時間が少ないことなどが近視の進行原因となると考えられています。

近視の進行により、大人になってから、白内障や緑内障、網膜剥離や近視性黄斑症になりやすくなってしまうため、幼少時からの進行抑制が望ましいです。実際に台湾では、週に2時間半以上の屋外での体育授業を義務化して、太陽光に当たる時間を確保し、近視の進行抑制に取り組んでいます」

Q.その他、両親の視力が低い場合、子どもの視力について意識するとよいことはありますか。

川名さん「やはり、近視進行抑制の環境を整えることが大切だといえます。デジタルデバイスの使用時間を減らすこと、外で太陽の光をしっかり浴びることが重要です。また、子どもの裸眼視力が低下して、眼鏡が必要となった場合、眼鏡の矯正をぴったりにするか、やや弱くするかどちらがよいかという議論が、かつてありました。今までのさまざまな論文を総合すると、眼鏡矯正はぴったりに合わせた方が近視進行抑制には有効だと考えられています。

最もよくないのは近視眼鏡の過矯正です。子どもはピント調整機能がとてもよく働くため、きちんと眼科で視力測定をして眼鏡を調整しないと、その子どもにとって、強すぎる眼鏡となる場合があります。過矯正は近視の進行を促進してしまうので、これだけは絶対に避けたいところです。子どもの眼鏡を作る際は必ず、眼科専門医の診察を受け、処方箋をもらった上で作った方がよいでしょう。

その他、近視の進行抑制方法としては『低濃度アトロピン点眼(マイオピン)』と『オルソケラトロジー』という方法が挙げられます。マイオピン点眼治療はシンガポールで、2年間で近視の進行速度を50%抑制したと報告されました。また、オルソケラトロジーは特殊なコンタクトレンズを夜間に装用するもので、5年間という長期にわたって、近視進行を30%抑制したと報告されています。

『近視は遺伝だから』と諦めずに、さまざまな方法を駆使して、進行を抑制するのが望ましいでしょう」

(オトナンサー編集部)

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川名啓介(かわな・けいすけ)

医師(眼科)

医療法人社団かわな眼科院長・理事長。1999年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学付属病院、日製日立総合病院、総合病院土浦協同病院勤務を経て、2006年から筑波大学大学院人間総合科学研究科講師となる。2009年、かわな眼科を開設。「快適な目で、人生に潤いを」を目指し、患者さんに分かりやすい医療を提供することを目指している。専門分野は白内障、緑内障。かわな眼科(https://kawanaganka.com/)。

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