フランスに来て驚いた“旧姓”の存在感 病院でも旧姓、夫の説明もピンとこず不思議な感覚
フランスにおける“旧姓”の扱い方に驚いた体験を描いた漫画が話題に。日本では、結婚後は旧姓を意識することは少なくなっていきますが、フランスでは…。

フランスにおける“旧姓”の扱い方に驚いた体験を描いた漫画がSNS上で話題となっています。国際結婚をし、現在はフランス在住の女性。日本では、結婚後は旧姓を意識することは少なくなっていきますが、フランスでは事情がまるで違っていて…という内容です。作者の女性に聞きました。
至るところに懐かしい旧姓が
この漫画を描いたのは、フリーライターのMariko(ペンネーム)さんです。インスタグラムで「フランス絵日記」を発表しています。
Q.漫画を描き始めたのは、いつごろからでしょうか。
Marikoさん「美術系大学に在籍していたのですが、入学後、絵よりも文章の方が向いていると気付き、教授にもそのように指摘されたので、卒業後は“描く”ことを離れ“書く”ことに集中してきました。その後、フリーランスに転身してからは会社員時代より時間の余裕ができたこともあり、iPadで趣味程度に絵を描くようになりました。
フランス暮らしに慣れてしまう前に、新鮮な日々の気付きを記録しておきたいという気持ちがあったこと、『ブログのように文章で記録するほどではないけれど、メモ程度に残しておきたい』という出来事が続いたことなどから、少しずつ、人にシェアするようになりました」
Q.今回の漫画を描いたきっかけは。
Marikoさん「国際結婚をして、しばらくは日本で暮らしていたのですが、その間は職場での呼び名以外は自分の旧姓を目にすることはほとんどなくなっていました。しかし、フランスに移ってからは、郵便物や公的書類など至るところで懐かしい旧姓を目にすることに。旧姓も尊重されていることが、夫婦別姓や事実婚を広く受け入れるフランスらしい感覚だなあと印象に残ったことがきっかけです」
Q.郵便や病院以外でも、旧姓を含めて呼ばれるのですか。
Marikoさん「名前を呼ばれるときは『Madame(マダム)~』と新姓で呼ばれることが一般的だと感じますが、保険証など公的書類には新姓と旧姓が併記されることが多いです」
Q.それは結婚してすぐの時期だけなのでしょうか。
Marikoさん「いえ、ずっと続くようです」
Q.旧姓が残っていることをどう感じますか。
Marikoさん「フランスでは、出生時に与えられた場所や名前を個人のアイデンティティーの一つとして尊重する感覚が強いのかなと感じています。多様なルーツを持つ国民が共生する国だからこそ、ということもあるのかもしれません。公的な手続きや書類のやりとりを行う場合、旧姓だけでなく出生地を尋ねられることも多いです。『日本の〇〇県』だけでなく『〇〇市』まで尋ねられることもあります。
日本で国際結婚手続きをした際、申請しない限りは基本的に別姓になる(外国籍の者は戸籍を持つことができないため)と知ったことをきっかけに、それまであまり気にしてこなかった名字についていろいろと考えました。『別姓のままでもいいかな』『夫姓を取ろうかな、それとも、家庭裁判所に申し立てて両姓にしようかな』など、しばらく迷いました。
そんなこともあり、フランスに来て意図せず“両姓”を手に入れたようで、うれしく感じています」
Q.旧姓が残っていることで便利なこと、また不便なことは。
Marikoさん「便利だと感じることは今のところ特にありませんが、日本らしさが残るのは個人的にうれしく思います。ヨーロッパはさまざまなルーツを持つ人々が混在しているので、他国にルーツを持つ姓も多く、発音についても気にする人は少ないように思います。かくいう私の夫もフランス国籍でありながら、名字は他国ルーツのため、『子どもの頃から、名字を正しく発音されたことなんて一度もないよ』と笑っています」
Q.日本では夫婦別姓が議論されています。夫婦別姓についてどう思いますか。
Marikoさん「日本には長い歴史の中で築いてきた独自の文化があり、『他国で夫婦別姓が認められているから日本もそうしよう』と安直に考えることはできないと思います。ただ、日本社会も多様性が増していく中で、新しい物事や動き、変化する時代の感覚をきちんととらえ、それに合わせて慣習を変化させていく柔軟性も必要だと思います。歴史や文化を壊すということではなく、あくまで、歴史や文化の上に新しい価値観を上乗せしていくような感覚で。
例えば、前述したように『日本人が国際結婚をする場合は基本的に別姓になる』という事実は『日本人同士が結婚するときは別姓を取ることができない』という事実と相反すると私は感じます。『日本人同士だからこう』『国際結婚だからこう』と線引きをするのではなく、それぞれの事情などをくみ、もう少し柔軟に個人の希望に添える社会体制になっていくといいのかなと思います」
Q.創作活動で今後、取り組んでいきたいことは。
Marikoさん「漫画という意識はなく、自分の気付きを分かりやすく人とシェアする『イラスト付きのつぶやき』という感覚でぽつぽつ描いています。今後、フランスでずっと暮らしていくかもしれませんし、日本に戻る日が来るかもしれません。はたまた、別の地に赴くなんてこともなきにしもあらず…一日本人の私が持つその時々の視点を、読んでくださる方と少しずつシェアできるような場にしたいと思います」
(オトナンサー編集部)
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