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電車乗れない…小田急線傷害事件でも話題の「PTSD」、症状や必要なケアは?

大きな事件・事故、災害などが起きた際、被害者や目撃者の「PTSD」が話題になることがあります。その症状や必要とされるケアについて、専門家に聞きました。

事件後、騒然とする祖師ケ谷大蔵駅(2021年8月、時事)
事件後、騒然とする祖師ケ谷大蔵駅(2021年8月、時事)

 8月6日夜、東京都世田谷区内を走行中の小田急線の車内で、乗客10人が刃物で切りつけられるなどして重軽傷を負う事件が発生しました。容疑者は逮捕され、警察の捜査が続いていますが、報道によると、被害を受けた人の中には「人混みが怖い」「怖くて電車に乗れない」などの精神的被害を訴えている人や、実際に電車の利用ができなくなった人も出てきているようです。

 ネット上では「逃げ場のない恐怖は想像を絶するものだろうな」「電車が怖くなるのは当然だよね…」「被害者のメンタルケアは必須だと思う」「心身の傷が少しでも早く癒えますように」と被害者を心配する声が多く上がっています。こうした事件の後に懸念される「PTSD」の症状や必要とされるケアについて、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

記憶や緊張感で生活に支障

Q.「PTSD」とは何でしょうか。

田中さん「PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、事件・事故、災害、性被害などの『命の危険を伴うようなトラウマ状況』の当事者(被害者や目撃者)になり、1カ月以上にわたってトラウマ(心的外傷)の記憶と緊張感が強烈に残ることで、日常生活に支障が生じるものです。トラウマ状況の当事者となった後の日常生活でも安心感が得られず、孤立した状況が続くと、PTSDを発症するリスクが高まると考えられます。

また、トラウマ状況の映像を繰り返し視聴したり、部外者による心ないコメントを読み続けたりすることもよくありません。診断基準としては、トラウマ状況を実際に体験したり、直接目撃したりした当事者であること、後述するPTSDの症状が1カ月以上みられること、日常生活に支障があることなどです」

Q.PTSDの症状とは。

田中さん「PTSDの症状はトラウマ時の断片的な記憶が反復して出現する、とてもつらいものです。目が覚めているときは『フラッシュバック』として、寝ているときは『悪夢』として、トラウマ時の体験そのものが再現します。

同時に、トラウマ時の自律神経系の緊張感が反復して出現します。すなわち、トラウマ時の交感神経系の興奮が残り、睡眠障害以外にも動悸(どうき)や呼吸の詰まり、息苦しさ、吐き気などが出現します。また、人によっては、イライラや怒りの感情、警戒心、自己破壊的な行動などが目立つようになることもあります。

他にも、トラウマがあったときと似た状況を避け、そうした状況が苦手になってしまう回避症状がみられたり、孤立感を覚え、楽しい気分や前向きな気持ちになれなかったり、トラウマ状況自体が悪かったはずなのに『自分が悪い。助かって申し訳ない』と考えてしまうなどの罪悪感があったりします」

Q.PTSDはどのくらいの期間、症状が続くことが多いのでしょうか。

田中さん「一般的に、当事者の多くは数日のうちにPTSDの症状が軽減していきます。いつの間にか、日常生活に戻っているような感じです。PTSDの症状が長引く場合は『急性ストレス反応(または急性ストレス障害)』と呼ばれ、治療が必要な場合もありますが、数週間のうちに症状が消失することがほとんどです。よって、PTSDの症状がみられたとしても、1カ月以内に消失し、日常生活に支障が出なければ何の問題もありません。

もし、トラウマ状況の当事者になってしまったら、まずはメディア情報を過剰に浴びないように気を付けたいところです。メディアを見る時間を限定し、ネット上の臆測に基づいた情報を深追いしないことが重要です。それから、家族や親友などと連絡を取る、あるいは直接、顔を合わせるなどして、『生きることの安心』を感じられるようにしましょう。その結果、安眠できるようになれば、比較的早期に症状がみられなくなってきます」

Q.PTSDの発症前・発症後に必要とされるケアとは。

田中さん「PTSDは何よりも予防が大事です。周囲の人はトラウマ状況の当事者を孤立させないようにしましょう。ただし、孤立防止を目的として会話をする際、興味本位でトラウマ体験を聞き出そうとするのは百害あって一利なしですので、やめてほしいと思います。また、本人が話したいからといって、際限なく、トラウマ体験を話してもらうのも、話す方も聞く方もお互いにつらくなるばかりかもしれません。

本人の心配やつらさ、症状がひどくて、心療内科や精神科などの受診が必要と感じられるなら、周囲の人が予約の電話連絡を手伝ってあげるのがよいと思います。周囲の人がトラウマ状況の当事者を急いで受診させたい旨を病院に伝えた上で予約を取り、受診に同伴することで、本人を安心させることができるでしょう」

(オトナンサー編集部)

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田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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