食育とは? 知っておきたい基本の知識
「食育」というと子どもの教育のことと思われがちですが、実はあらゆる世代に食関連の知識が求められています。ここでは、食育の基本についてマスターしましょう。
食育とは
2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の四季を表現する食事や食材、調理技術、年中行事と食との関わり、栄養バランスなどが世界的に認められました。このような素晴らしい日本の食事や食生活を、後世に引き継ぎたいと感じている方も多いのではないでしょうか。ここで、「食育」についての知識を増やし、自分や家族、友人の「食」について考えてみましょう。オトナンサー編集部では、世代別の食育について料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
東京都が2014年に行った「食生活と食育に関する世論調査」によると、食育という言葉の認知度について「言葉の意味を知っている」が53.1%、「内容は知らないが聞いたことがある」が32.6%、「知らない」が14.1%、「無回答」が0.3%という結果でした。
食育について、国は「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり、さまざまな経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てること」と定義しています。食育は子どもが学ぶことと思われがちですが、子どものみを対象にしているものではなく、世代を超えて食に関する知識を身につけることが重要です。
子どもの食教育を重要視した「食育基本法」
2005年に「食育基本法」という法律が施行されました。背景には、子どもの食生活の乱れや栄養の偏り、外食の増加、購入した弁当や総菜を家で食べる「中食」における調理・加工食品の多用、朝食の欠食などの不規則な食生活、があります。さらに、家庭での食に対する教育力の低下も問題視され、食の安心・安全という点も注目されています。
同法では特に、子どもの食教育を重要視し、これらを身につけて次の世代へと引き継いでほしいと考えられています。基本理念は以下の7つです。
・国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成
・食に関する感謝の念と理解
・食育推進運動の展開
・子どもの食育における保護者や教育関係者などの役割
・食に関する体験活動と食育推進活動の実践
・伝統的な食文化、環境と調和した生産などへの配意、および農山漁村の活性化と食糧自給率の向上への貢献
・食品の安全性の確保などにおける食育の役割
「食育推進基本計画」と各ライフステージの食育
「食育推進基本計画」は、食育基本法に基づいて目標を掲げ、その達成度を5年後に調査報告するものです。現在は、2015年に第3次食育推進基本計画の目標(15項目)が掲げられています。ここでは「朝食または夕食を家族と一緒に食べる共食の回数を増やす」「朝食を欠食する国民を減らす」といった目標が掲げられていますが、社会的背景などが関連し、これらを達成するのが難しい時代ともいえます。
では、食育とは具体的に何について学べばよいのでしょうか。ここでは、ライフステージごとに知っておくべき「食育」についてご紹介します。
乳幼児期(0~5歳)
【食べることへの興味を持つ】
母乳以外のものを初めて食べる離乳食は、薄味を基本とするのが重要です。食べられる食材を少しずつ増やしていくことで、食べ物に興味を示すようになります。規則的な食事時間を決めることで生活リズムが整い、食べる楽しさを体感できるようになります。
【間食の大切さを知る】
この時期はまだ胃袋が小さいため、一度に食べられる量は少ないですが、1日に必要な食事量は増加していきます。間食も食事の一部と考え、野菜や乳製品を取り入れた栄養バランスの良いおやつを選ぶのがオススメ。甘いお菓子などは控えてください。
【いろいろな食材に触れ、偏食をなくす】
自我が芽生え、自己主張するようになると食べ物の好き嫌いが生じます。栄養が偏らないように、たくさんの種類の食材を食べる経験を与えてあげてください。
【食物アレルギーへの配慮】
食物アレルギーを発症しやすい食材を与える時期や量には十分注意を。発症した場合は、除去する方法を学ぶなどの対応が必要になります。
【共食経験を増やす】
家族や幼稚園などの友達と一緒に食べる機会を増やすことで、食事がより楽しいものとなります。嫌いな食べ物を友達がおいしそうに食べているのを見て模倣心理(まねっこ)が働き、好き嫌いが少なくなることも。
【食事マナーの習慣化】
この時期に身に付いた習慣は一生続くともいわれています。「いただきます」「ごちそうさま」のあいさつによって料理を作ってくれた人へ感謝の気持ちを持つことや、食事前の手洗い、ご飯粒を残さず食べるなどのマナーをしっかり身に付けることが重要です。
【食器具の使い方】
1歳ごろは「手づかみ食べ」、2歳ごろからスプーンやフォーク、3歳からは箸を使って食べるようになります。保護者が食べさせる場合が多くても、子ども専用の食器具を準備することで、1人で食べる経験を増やすことができます。
学童期(6~12歳)
【間食は食事の一部】
小学校低学年までは幼児期同様、「間食は食事の一部」と考えてください。中学年以降は肥満傾向などにも注意を払い、間食のとり方を理解していきます。
【朝食の欠食】
学童期の朝食欠食者は10%未満と、大人の朝食欠食者よりも少ない数字です。しかし、昼食までにお腹が空いても、大人のように何かを食べられる環境にありません。学力向上のためにも朝食は大切です。
【簡便な食事、ファストフード、インスタント食品、スナック菓子と生活習慣病の関わりを理解】
小児のメタボリック症候群が問題になっています。小学生の10人に1人が肥満傾向にあるというデータもあるため、糖質・脂質過多になりやすい食事がどのようなものかをしっかりと理解させることが大切です。
【偏食や食欲不振による健康問題】
家庭での好き嫌いやそれに伴う偏食は、別の食材で代用することで栄養を補えます。しかし、学校給食ではその対応ができないため、好き嫌いで給食を残すと栄養素が補えない状況が続くことになり、健康問題を引き起こしやすくなります。また、食欲不振による食事量の減少も同様の栄養素不足を招くため、注意してください。
【学校給食はバランスのとれた食事の見本】
学校給食は食事のお手本です。給食における食材の使い方や量などを確認することで、食事の勉強につながります。主食・主菜・副菜への理解を深めるだけでも、バランスの取れた食生活に結びつきます。
【食べ物の生産・流通の過程を知る】
生産・流通過程を知ることで、農業・畜産業・漁業への関心が増加し、食糧自給率の現状を知る機会になります。
思春期(13~19歳)
【肥満とやせの理解】
学童期からの肥満は思春期・成人期へと続いていくため、生活習慣病との関わりに注意してください。また近年、心的要因やダイエットからやせ傾向になる女性が増加し、鉄欠乏性貧血を引き起こすことなどにもつながっています。正しいダイエットのあり方を理解することが大切です。
【食生活の自己管理】
コンビニエンスストアなどで自分の好きなものを選び、買って食べられる年代になります。友達と楽しみながら食べることは大切ですが、お菓子で食事を済ませるなど間違った食生活が習慣化しないように注意が必要です。
【エネルギーや栄養素の役割を知る】
食事の消化吸収や代謝のメカニズムを知り、エネルギーや栄養素が体内でどのような働きをしているかを知ることが、バランスの良い食生活を意識するきっかけになります。
成人期(20~64歳)
【メタボリック症候群や生活習慣病の予防と改善】
20代までの暴飲暴食は比較的体に現れにくいですが、30代以降に体重や血液検査データの数値に現れ始めます。「自分は大丈夫」という考えが生活習慣病の重症化につながりやすいので、特定検診・特定保健指導を含めた健康診断を受診する必要があります。
【食事の適正量の把握】
加齢による機能低下を自覚し、それに見合った食生活への変化に適応していくことが求められます。基礎代謝量は10代と60代では1日あたり約200キロカロリー低下します。加えて活動量も下がるため、1日の総消費エネルギー量は500キロカロリー以上低下することも。これが中年太りの引き金になります。
また、糖代謝や脂質代謝の機能低下により、若い頃と同様の食生活では血糖値やコレステロール値などに影響を及ぼします。年齢、活動量に見合った食生活に変化させていく意識が重要です。
【食塩過剰摂取への配慮】
糖・脂質代謝同様、心臓や血管の老化と共に高血圧を引き起こしやすい体に変化します。血圧に影響を及ぼす食塩の摂取過剰に配慮し、減塩でもおいしく食べられる調理の工夫などを身に付ける必要があります。
【子どもの食環境の知識と理解】
食育の中心にある子どもへの食教育は、保護者である成人期の大人が率先して行うことが望まれます。子どもの食環境・食行動の現状を知ることから始め、その手本となれるような食生活を実践してください。
【高齢者の食事の知識と理解】
成人期の大きな課題といえば介護問題。高齢者の咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)機能について理解し、柔らかく飲み込みやすい調理の工夫と技術が求められます。
【栄養管理と生活習慣の自己管理能力の見直し】
社会人として活躍する上で、人との付き合いは非常に重要です。飲酒量が増え、外食の頻度が増すこともしばしばですが、休肝日を設定したり、外食の選び方について学んだりするなど、日々の食事への気配りが生活習慣病予防につながります。自己管理ができているかの見直しを。
高齢期(65歳以上)
【慢性疾患と食事】
高齢期は何らかの慢性疾患や肥満、低栄養などの問題が生じている場合が多いのが特徴。食生活は習慣化しているため、偏りが生じていると影響が出やすいのです。悪化を抑制するためにも、現在の体の状況をもう一度理解し、食習慣を見直すきっかけを作ってみてください。
【自炊に加えて、総菜などを上手に活用】
自炊をすると、自分にあった柔らかさや味付けができるほか、料理をすることで認知症の予防にもなります。しかし、体調が思わしくない時などは無理をせず、総菜などをうまく活用しましょう。ただし、味が濃くなっている場合が多いので、サラダなどは冷蔵庫にある野菜を加えて2人分にするなど、アレンジ方法を身につけておくのも良い方法です。
【食文化・食体験などを次世代に伝える】
食育にとって重要な「伝承」を積極的に行ってください。自分では当たり前だと思っている知識が、若い世代には新鮮に思えることがたくさんあります。
食育についてさらに知りたい
食育について、さらに詳しく知るにはどうすればよいでしょうか。
【農林水産省・厚生労働省のホームページ】
ホームページでは、食育を詳しく理解できるようにパンフレットなどをダウンロードできます。
「食事バランスガイド」
http://www.maff.go.jp/j/balance_guide/index.html
「日本型食生活のススメ」
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/nihon_gata.html
「食品の安全関係のパンフレット」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/pamph.html
【特定検診・特定保健指導】
2008年から、医療保険者に対して特定検診・特定保健指導が義務づけられています(40~74歳の被保険者対象)。メタボリック症候群のリスクファクターの保有によって、特定保健指導が実施されます。管理栄養士に直接相談することができ、電話での相談などにも対応しています。また、本人が仕事で忙しい場合、家族が栄養相談を受けることも可能です。
【市区町村のイベントに参加する】
各都道府県および市区町村では、食育推進事業としてさまざまな企画が行われています。各自治体に問い合わせることで、食育イベントの情報を入手できます。
【栄養士・調理師を養成している大学・短大・専門学校の学園祭】
栄養士や調理師を養成している学校は、学園祭の時期に子どもから高齢者まで楽しめる食育体験ブースを企画していることがあります。講師の先生方など、直接専門家に質問することも可能です。
食育は一生にわたるもの
「食育は一生にわたり学び、身に付け、伝えていくことができます。習慣化していることを変えるのは容易ではありませんが、自分だけのことと思わず、まずは何か一つでも学んでみましょう」(関口さん)
(オトナンサー編集部)
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