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かつては箸が当たり前? 飲食店の丼に「スプーン」、どうして始まった?

飲食店で提供される丼に「スプーン」が付いてくることは、現在では珍しくありませんが、そもそもどのようなきっかけで、丼にスプーンが出されるようになったのでしょうか。

丼にスプーン、なぜ?
丼にスプーン、なぜ?

 最近の飲食店では、丼を注文すると、箸の代わりに「スプーン」が配膳されたり、卓上の箸箱に箸とスプーンが入っていて、使いたい方を選んだりできます。しかし、中には「丼は箸で食べるのが当たり前」という考えから、丼をスプーンで食べる光景に違和感を覚える人もいるようです。確かに、一昔前は「丼は箸で食べるもの」という考えが広く浸透しており、丼を注文してもスプーンで食べることはなかったと思います。

 なぜ、飲食店で丼を注文すると、スプーンでも食べられるようになったのでしょうか。飲食店コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。

外国人向けで好評に

Q.飲食店で丼を食べる際、スプーンも出す店が出てきたのはなぜでしょうか。

成田さん「丼チェーン店が海外出店する際、箸に慣れていない外国人向けにスプーンを出し始めたところ好評だったことから、日本の店でもスプーンを出し始めたことがきっかけといわれています。

日本の店でスプーンを出すことで、箸を使い慣れていない訪日外国人客や箸を使うのが苦手な日本人の客がストレスなく、丼を食べることができます。また、箸を使い慣れていない人が丼をスプーンで食べると、箸を使うよりも、食べ終わるまでの時間が短くなり、席の回転率もアップして売り上げが向上します。

大切なことは客がストレスなく、丼を食べ満足してほしいという思いから、『丼は箸で食べるもの』という固定観念を打ち破って、スプーンを出し始めたということです。回転率が上がり、売り上げを向上させることだけを考えて、スプーンを提供している飲食店はないと思います」

Q.丼チェーン店ではない個人経営の飲食店でも、丼をスプーンで食べられる店があります。丼チェーン店がスプーンを出すことも影響しているのでしょうか。

成田さん「影響していると思います。個人経営の飲食店は、丼チェーン店の柔軟なサービスをまねていると大いに考えられるからです。一昔前まで、国内では『丼は箸で食べるもの』という文化が根付いていました。しかし、最近では食の多様化で、ロコモコ丼やビビンバ丼など、スプーンやフォークを使った方が食べやすいメニューもあります。客にストレスなく食事をしてもらうため、店側も柔軟に対応しています」

Q.丼をスプーンで食べるのは主に女性客が多い印象です。飲食店が女性客を取り込むための戦略として、スプーンでも食べられるようにした面もあるのでしょうか。

成田さん「丼を食べるテーブルマナーとして、『丼を持って食べる』、または『丼は置いたまま、指を丼の縁に添えて食べる』というものがあります。女性の場合、食べているときの見た目などを気にして、丼を持つよりも、置いたまま指を添えて食べることがほとんどだと思います。そうすると、丼の食材を口に運ぶまでの距離も長くなるので、箸よりもスプーンの方が効率的です。女性客だけに向けた戦略ではないにしろ、女性客には結果的に大いに喜ばれているようです」

Q.今後も、丼をスプーンでも食べられる飲食店は増えていきそうでしょうか。

成田さん「増えていくと思います。私も日本の箸の文化は誇りに思いますし、消えてほしくはありません。しかし、コロナ禍によるフードデリバリーの台頭やテレワークの普及などもあり、イートインタイプの飲食店の経営は今後も厳しくなるばかりです。

その中で生き残っていくには、お客さま満足度を高めるために、固定観念にこだわるのではなく、新しい取り組みも行っていくべきだと私は考えます。丼をスプーンで食べることが珍しくなくなった現在、箸だけで丼を提供していた店も客の声を取り入れて、スプーンを出さざるを得なくなるのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

成田良爾(なりた・りょうじ)

飲食店専門経営コンサルタント

ヴィガーコーポレーション代表取締役。厚生労働省公認レストランサービス技能士(国家資格)、文部科学省後援サービス接遇検定準1級、食生活アドバイザー2級、他。飲食業界25年以上。ミシュランガイド掲載の高級レストランから個人経営の小さな大衆店まで幅広いジャンルの飲食店に携わり、その経験に基づく統計解析および枠にとらわれないアイデアで多くの赤字店を黒字化させてきた実績を持つ。「100年続く店づくり」をモットーに、次世代育成や飲食業の働き方改革などにも力を入れており、食文化普及の他、職業訓練校講師(フードビジネス科)や子育て女性就職支援事業講師なども歴任。現在も多くの飲食店経営者のサポートを手掛ける。飲食店専門のコンサルティング「オフィスヴィガー」HP(http://with-vigor.com/)。

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