病気や退職に発展も…コールセンターのオペレーターに暴言、法的責任は?
「コールセンター」のオペレーターに暴言を浴びせた場合、法的責任を問われるのでしょうか。弁護士に聞きました。

新型コロナウイルス用ワクチンの接種予約を受け付けるコールセンターの中には連日、電話がつながりにくい施設もあります。そのためか、イライラした電話主が感情的になって、オペレーターに暴言を浴びせることも多く、オペレーターの中には、病気になったり、退職に追い込まれたりする人もいるようです。コールセンターのオペレーターに暴言を浴びせた場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
脅迫罪、強要罪の可能性も…
Q.コールセンターのオペレーターが暴言を浴びることがあるようです。電話主から暴言を浴びせられた場合、相手に法的責任を問うことはできるのでしょうか。
牧野さん「暴言の程度によります。身体や生命に危険が及ぶほどの強い暴言であれば別ですが、単に暴言を浴びせられただけで相手に法的責任を問うことは難しいでしょう」
Q.では、電話主がどんなに乱暴な態度を取っても法的責任を問われることはないということでしょうか。
牧野さん「そうとは限りません。あまりにもオペレーターへの態度が乱暴過ぎると法的責任を問われる可能性があります。例えば、満足する対応を受けられなかった際に、オペレーターが謝罪の姿勢を示しているにもかかわらず、『怒鳴る』『わざと物音を立てる』といった行為で相手を威嚇し、『それでは納得できない』などと執拗(しつよう)に迫った場合です。相手を脅して恐怖を与えたことになり、『脅迫罪』(2年以下の懲役、または30万円以下の罰金)に当たる可能性があります。
また、オペレーターから、『(ワクチン接種などの)予約はすでに埋まっている』と言われたときに『予約をしてくれないと危害を加える』といった内容の発言で相手を脅迫し、無理やり予約させようとするなど、相手にとって義務ではないことを強要すると『強要罪』(3年以下の懲役)に当たる可能性があります」
Q.電話主の暴言などがきっかけで精神疾患を患ったり、退職を余儀なくされたりした場合、オペレーターは相手に損害賠償を求めることはできるのでしょうか。
牧野さん「『暴言などが原因で病気になった』『暴言などで精神疾患に陥り、その結果、仕事ができなくなった』といったように、相手の行為と損害の発生との明確な因果関係が証明できれば、民事上の不法行為として損害賠償を請求することが可能になります」
Q.電話主の対応があまりにもひどい場合の対応策は。
牧野さん「通話内容の録音は犯罪行為などの証拠になりますので必須です。また、オペレーターにつなぐ前に『この会話は録音されます』といった音声ガイドを流すことで、電話主の横暴な行為を抑制する効果があるでしょう」
Q.次に、コールセンターの責任者や運営会社の責任についてお聞きします。電話主からの暴言などにより、オペレーターが精神的苦痛を感じているのにもかかわらず、コールセンターの責任者や運営会社がその状態を放置し続けた場合、責任者や会社が法的責任を問われる可能性はありますか。
牧野さん「企業は従業員に対して安全配慮義務を負っているので、悪質なカスタマーハラスメント(カスハラ)から従業員の安全や健康を守る義務を負っています。カスハラに対する企業の対応が社会通念上、許容される範囲を超えており、違法である場合、オペレーターに対する民事上の不法行為として損害賠償請求が認められます(2018年11月13日甲府地裁判決など)。
カスハラの防衛策として、雇用主は研修を通じ、一線を越えた、行き過ぎた暴言は犯罪行為や民事上の不法行為に該当することをオペレーターに理解させることが重要です。雇用主が後ろ盾のような形になるので、オペレーターは電話主の暴言に対して毅然(きぜん)とした態度で臨むことができ、精神的なダメージを受けるリスクを低減できます」
Q.では、電話を掛ける側の心構えについてお聞きします。一般の人がコールセンターに問い合わせるときの注意点について教えてください。
牧野さん「相手の顔が見えないことで、つい、高圧的な態度を取ってしまう人もいるようですが、相手の立場を理解して、『上から目線』で話すことは避けましょう。また、先述のように、電話口でオペレーターに対して攻撃的な態度を取ると脅迫罪や強要罪に該当する可能性があるので、注意してください」
Q.コールセンターのオペレーターに対する暴言などがきっかけで裁判に発展した事例はありますか。
牧野さん「コールセンターの事例ではありませんが、区役所の職員に対する電話などでの業務妨害や面談の強要で、裁判に発展した事例があります。
2009年ごろ、当時、大阪市住吉区に住んでいた男性が『区役所に頻繁に電話をかける』『複数の職員に暴言を浴びせる』『膨大な数の情報公開請求を繰り返す』『面談を強要する』などの行為で区役所の業務に支障を来したとして、その後、大阪市が行為の差し止めや損害賠償を求める訴訟を起こしました。結局、男性は裁判所から、威圧的な要求を禁じられたほか、賠償金80万円の支払いを命じられました(2016年6月15日大阪地裁判決)」
(オトナンサー編集部)
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