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「スマホ決済」有料化へ、中小の負担増 現金回帰は経営にどんな影響がある?

決済手数料の有料化に伴い、「スマホ決済」を導入していた店が対応をやめて、現金払いに戻した場合、どのような影響があるのでしょうか。

スマホ決済、取りやめの影響は?
スマホ決済、取りやめの影響は?

 国がキャッシュレス決済を推進する中、さまざまなスマホ決済事業者が加盟店開拓のために決済手数料を無料にしたことで、中小の飲食店や小売店の導入が増えました。2次元バーコードを使ったスマホ決済を日常的に使っている人も多いのではないでしょうか。

 ところが、これまで無料だったスマホ決済の手数料が7月以降、順次有料化される予定です。加盟店が事業者に支払う手数料は3%程度といわれており、特に中小の店舗は負担が大きく、今後、加盟店の離脱が予想されます。そもそも、スマホ決済などのキャッシュレス決済の導入は店にどのような恩恵をもたらすのでしょうか。また、これまで、スマホ決済に対応していた店が現金払いに戻した場合、経営にどのような影響があるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

キャッシュレス決済のメリット

Q.国がキャッシュレス決済のポイント還元事業を2019年10月から2020年6月まで実施したことで、キャッシュレス決済に未対応だった店でも導入が増えました。そもそも、キャッシュレス決済の導入は店にどのようなメリットがあるのでしょうか。

大庭さん「キャッシュレス決済に対応することで、店側に次のようなメリットが生じます。

(1)現金処理のための作業時間が不要に
(2)売り上げや在庫の管理が容易に
(3)犯罪リスクの軽減
(4)来店客層の拡大

現金決済の場合は会計のたびに客との間で現金の受け渡しを行い、営業時間終了後にレジを締めて売り上げを集計しなくてはなりません。また、在庫の管理も手作業で行う必要があります。キャッシュレス決済にすることで、現金の受け渡しや売り上げの集計といった作業時間が不要となり、接客の強化などの重要な業務に対応する時間を増やすことができます。

また、売り上げや在庫に関する数字がデータ化されるので、管理がしやすくなるとともに情報の精度も向上します。店内での現金保管や銀行への入金機会が減るため、強盗などの被害に遭うリスクも減ります。若者や外国人の間では、現金を持ち歩かずにキャッシュレスで飲食や買い物をする文化が定着しています。キャッシュレス決済にすることで、そのような人々を集客しやすくなり、売り上げ向上が期待できます」

Q.では、導入店舗がスマホ決済をやめて現金払いに戻した場合、店の経営にどのような影響を与えるのでしょうか。

大庭さん「消費者だけでなく、事業者にとっても便利なキャッシュレス決済ですが(1)決済手数料を負担しなければならない(2)入金までの間にタイムラグが生じる――といった経営リスクも存在します。

3%程度といわれる決済手数料は店の利益を減らす要因となります。例えば、700円で仕入れた物を1000円で販売する場合、現金決済は1個当たり300円の利益が得られますが、キャッシュレス決済の場合、そこから手数料が引かれるため270円となります(手数料3%)。また、キャッシュレス決済の場合は、一定の期日ごとに売り上げが店の口座に入金されるため、資金繰りが苦しくなることもあります。キャッシュレス決済をやめることで、これらの経営リスクを回避できます。

ただし、キャッシュレス決済をやめると、先述のメリットも享受できなくなります。中でも、一番のデメリットは若者や外国人などキャッシュレス決済に抵抗のない客層への販売機会を逃してしまうことです。客層を拡大できずに売り上げが伸び悩む可能性もあります」

Q.スーパーの中には、現金払いだけでなくスマホ決済に対しても適用していた会員割引を7月以降に取りやめる店もあります。こうした対応も店の経営に影響を与えるのでしょうか。

大庭さん「決済手数料が発生する分、店の利益が目減りするのを会員割引の取りやめで穴埋めしたいという店の事情は理解できます。しかし、他の競合店がキャッシュレス決済に対する会員特典を継続した場合、開拓できたはずの新たな客層が競合店に流出するリスクも伴います。そのため、一律にキャッシュレス決済に対する会員特典を廃止するのは避けた方がよいと思います。

現金払いの客も含めて、割引などの短期的なインセンティブを減らす代わりに『買い物回数に応じた特典を充実させる』などの長期的なインセンティブを手厚くするといった、顧客の囲い込みにつながる特典の中身の変更を考えたらいいのではないでしょうか」

Q.結局、店にとっては、スマホ決済などのキャッシュレス決済を最初から導入しない方が安定した利益が得られるのでしょうか。それとも、将来生き残るためには、導入は不可欠なのでしょうか。

大庭さん「キャッシュレス決済に対応するためには、システムや専用の端末を導入しなければならないほか、店内作業に関するオペレーションを変更しなくてはなりません。そのため、今後の生き残りのために効果的な対応なのかどうかを十分に精査した上で導入の可否を決める必要があります。

また、先述のように、キャッシュレス決済を導入することで決済手数料が発生するため、店の利益は目減りします。その際、決済手数料分の値上げを行うことも現実的ではありません。しかし、普段から、キャッシュレス決済で飲食や買い物をする客層を集めることで販売数量が増え、利益の総額も増えます。

結局のところ、キャッシュレス決済をしない従来客に対する商売だけで安定した経営ができるのであれば、導入は必須ではありませんが、売り上げ向上のために、今まで呼び込めていなかった客層の開拓が必要なのであれば、そのための手段として、キャッシュレス決済の導入を考えることは効果的です。ただし、導入がすぐに新しい客層の集客につながるわけではないので、それらの客層のニーズに合った商売の内容を考える必要があります」

Q.キャッシュレス決済で決済手数料を負担しつつ、利益を出すためにはどのような対策が必要なのでしょうか。

大庭さん「(1)来店客数を増やす(2)客単価を増やす(3)利益率を向上させる――の3点が必要だと思います。来店客数や来店客1人当たりの購入数量が増えれば、店内での1日当たりの販売数量が増加します。また、商品やサービスごとの利益率を上げることができれば、販売数量が以前とあまり変わらなかったとしても利益額が増えます。

先述のように、キャッシュレス決済の導入で現金処理のための作業時間が不要になり、売り上げや在庫の管理に費やす時間も大幅に削減されます。その時間を販売促進や店内の接客に充てることで、来店客数の増加や来店客1人当たりの購入数量の増加につながりやすくなります。また、商品やサービスの付加価値向上のためのアイデアを練る時間に使えば、利益率向上のチャンスも生まれます。

これらの対応により、手数料の負担を補うことはもちろん、キャッシュレス決済導入前よりも利益の総額を増やすことが可能になります」

Q.手数料有料化により、スマホ決済をやめる店舗が相次いだ場合、キャッシュレス決済の普及にブレーキがかかる恐れがあります。このことは社会にどのような影響を与えるのでしょうか。

大庭さん「そもそも、国がキャッシュレス決済を推進するのは(1)インバウンド消費の拡大に備える(2)今後の労働力不足への対応(3)現金決済による社会的コストの削減――の3点に取り組むためです。海外からの観光客を増やすことは国の重要政策の一つです。日本の総人口が減少し続ける中、海外からの消費拡大は国内経済を維持していくために必要な対策です。

そのために、キャッシュレス決済を推進することで国内での消費の利便性を高め、観光による訪日外国人を増やす狙いがあります。また、国内では少子高齢化が加速しているため、労働力人口の減少が懸念されています。そのような中で国内経済を維持していくために、国は働き方改革を代表とした生産性の向上を目指しており、その一環としてキャッシュレス決済を推進しています。

現金決済の場合、店舗の売り上げを金融機関の口座に移し替えるためにどうしても、ATMの設置が必要になり、設置費や維持費といった社会的コストが発生します。キャッシュレス決済を推進することでこれらのコストを削減できるのです。キャッシュレス決済の普及にブレーキがかかった場合、これらの政策が滞ることになり、国内経済の衰退につながる可能性があります」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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