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東京五輪、有観客開催へ コロナ悪化ならどうなる? 専門家が描く最悪のシナリオ

東京五輪の有観客開催の方針が決まりました。国内外の新型コロナの状況がさらに悪化した場合、何が起きるのでしょうか。

有観客開催で五輪の将来は?
有観客開催で五輪の将来は?

 7月23日に開幕予定の東京五輪について、1万人を上限に観客を入れて開催する方針が6月21日、大会組織委員会や政府、国際オリンピック委員会(IOC)などの協議で決まりました。東京五輪を巡っては、新型コロナウイルスの流行を踏まえて、中止や再延期を求める声が世論調査で多くを占め、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志も同18日、「無観客開催が最も望ましい」とする提言を組織委に提出した中、それらを無視した形での決定です。

 有観客で開催し、国内外の新型コロナの状況がさらに悪化した場合、何が起きるのでしょうか。「東京五輪が負の遺産となり、オリンピックが継続不能になる危険性もある」と語る、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

開催途中で緊急事態、無観客に?

Q.東京五輪の各競技について、1万人を上限に観客を入れる方針が決まりました。現在、発令中の「まん延防止等重点措置」の解除が前提ではありますが、どのように思われますか。

江頭さん「東京都には過去3回、新型コロナによる緊急事態宣言が発令されてきました。1回目の宣言が2020年5月25日に解除されたときには、解除前7日間の平均新規感染者は6.9人、2回目の2021年3月21日解除前7日間は301.1人でしたが、3回目、今回の2021年6月20日解除前7日間は388.0人と過去3回の中で最も多い状況です。

2020年秋ごろの新規感染者が減少していた時期、プロ野球などのスポーツは観客1万人超、会場収容人数の半分という条件で運営されました。2020年11月22日の日本シリーズ第2戦は約1万6000人の観客が入りましたが、クラスターは発生しませんでした。その後、急激に新規感染者が増えることもありませんでした。

このように、スタジアムに1万人を迎えることがダイレクトに感染者の拡大につながるというデータはありません。しかし、オリンピックは339の金メダルが2週間で決まる過密スケジュールです。例えば、8月6日には28の決勝が開催される予定です。多くの会場に1万人の観客を迎えていたら、それだけ人流が増加するでしょう。その上、日本人選手がメダルを獲得したら、テンションの上がった観客がいつもより1杯多く飲んで、羽目を外すこともありそうです。

有観客のオリンピックをきっかけに感染者が急増し、パラリンピックの時期などに4度目の緊急事態宣言を東京に発令する事態も考えられます。野村総研の計算によると、今年1月からの2度目の緊急事態宣言は最大11都府県で発令され、73日間で6兆2800億円の経済損失だったと公表されています。政府は無観客化によるチケット払い戻し『900億円』と、緊急事態宣言による『兆円』単位の経済損失と、どちらのダメージが大きいか判断できないのでしょうか」

Q.「アスリートのために観客を」という声もあるようです。

江頭さん「『アスリートは満員の観客が入ったスタジアムでこそ、いつも以上のパフォーマンスを発揮できる』という意見がありますが、実は、それは科学的には実証されていません。米エロン大学のキンバリー氏は実験によって、応援の歓声によって、アスリートのパフォーマンスが向上することはなく、一方、やじやブーイングではパフォーマンスが下がることを明らかにしています。アスリートのパフォーマンスだけを考えれば、スタジアムに観客を集めることのメリットは見つかりません」

Q.菅義偉首相は6月17日の記者会見で、東京五輪の観客に「大声を出さない」「直行直帰を」と求めました。現実的な要請でしょうか。

江頭さん「今年の大型連休に千葉市で4日間開かれた野外ミュージックフェス『JAPAN JAM 2021』は連日、1万人弱の観客を迎えました。東京スカパラダイスオーケストラなどの人気アーティストが出演しましたが、コロナ前なら大歓声を上げていた観客も主催者の『大声を出さない』という要請に応え、静かに、しかし、激しく体を上下に揺らしていました。

興奮した観客がルールを破ることもなく、コロナ禍でフェスが行われた現場を私はこの目で見ました。クラスターが発生しなかったのを確認したことも主催者は発表しています。フェスと五輪を比較するのは強引かもしれませんが、日本の観客のマナーは想像以上によいといえます。

ただ、JAPAN JAMには『マナーを守る動機』がありました。ステージ上のアーティストは『今、俺たちはコロナとの戦いの最前線にいる。みんな、コロナに感染しないでくれ! またフェスができなくなるし、またコンサートができなくなる』と何度も呼び掛けました。ファンにとって、アーティストからの『お願い』効果は大きかったと思います。

菅首相や丸川珠代五輪相、橋本聖子組織委会長の『お願い』に、1年以上続くコロナ禍に耐えてきたアーティストと同じ『切実さ』や『思い』があれば、『大声を出さない、直行直帰の五輪』が実現するかもしれません」

Q.今後の感染状況によっては、東京五輪の途中で無観客となる可能性もあります。

江頭さん「これは最悪のシナリオですね。東京五輪開催中に東京の新規感染者が1日1000人を超えたら、その後1週間程度で2000人に届く可能性があります。そして、緊急事態宣言が発出されれば、大学のリモート授業は続き、運動会や修学旅行の中止がさらに増え、プロ野球もJリーグも無観客化し、『暗黒のトンネル』に逆戻りします。

ワクチンによる集団免疫が期待できるのは、今の接種スピードで計算すると来年の1月か2月です。五輪中の8月上旬から9月末まで緊急事態宣言、その後1カ月間、10月末まで、まん延防止等重点措置になれば、飲食店の倒産は増加し、政府が負担する『協力金』の出費も激増するでしょう」

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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